第二話 カイリの出会いと才能
ーーーカイリは生まれてから1度も魔法を使ったことはない。
魔力量が歴代最高なのにも関わらずだ。
魔法が主流となっているこの世界で魔力量はとても重要視されている。
魔力量は生まれつき変わらない。
つまり基本的には魔力量=才能である。
そして、カイリはとにかく凄かった。
どのくらいすごいかと言うと、
一般人の平均の魔力量が100
騎士で5000
上級騎士で30000
賢者と呼ばれるものでも70000
100000を超えるのは10年に一度いるかいないかと言うレベルの中で
カイリの魔力量は999999
歴代の魔法神の再来と呼ばれた者の中にもこんな数値のものは見たことは無かった。
この世界には多種多様な魔法が存在する。
まず、五大魔法と呼ばれる火、水、木、岩、電がある。
これらの魔法はごく一般的に扱われており、適正がないと使うことはできない。
そして、その中でも一部の者のみが、そこから派生する上位魔法を使うことができる。
上位魔法は強力であるが、魔力の消費が多い。
専ら、魔力量が多い人間ほどそれに比例して魔法は強力になるため、消費が多いイコール悪いというわけではない。
その他には、
次に身体能力や魔法の勢いを上げるなどできる陽。
逆に身体能力や魔法の勢いを下げるなどできる隠。
これらを総じて基本魔法と呼ぶ。
そして、先ほどカイリは適性がないという言葉を投げつけられた。事実、適性を何一つ持っていなかった。つまり、魔法は使えないのだ。
ただ、その他にも特殊魔法というカテゴリがある。
この特殊魔法の中にはもちろん強い魔法はあるのだが、手が器用になるや手に届きそうで届かないものを引き寄せるなど、戦闘向きではないものもある。
ただこの特殊魔法には謎な部分が多い、成長するの中で使えるのか、何かきっかけが必要なのか、それとも元々使えるものなのか、加護によるものなのか。
本人も何を使えるか分からず、そもそも自分に特殊魔法があるかどうかすら分からないため、発動させることなく人生を終える場合だってある。
つまり、五大魔法の魔法適性を持たない魔法は使えないのと基本的には同義なのである。
そのため、どれだけ沢山の魔力を持っていても無意味なのである。
カイリはこの世界に生まれた時から大きなハンデを背負ってしまうことになったということになる。
ーーー
ーーーこの世界には才能があるものとないものがいる。
例えば、夢を見ていた者が努力をする。必死に毎日積み上げて、夢を実現させようとしていた。しかし、そんな積み上げも天才たちからすれば、ベルトを緩めがてら歩くように片手間で通り過ぎて行かれてしまうのである。
そして、とある少年もその現実を直視していた。
『カイリ・アマノくん、君は魔法が使えないらしいね。』
そう目の前の大人に言われた。
この事を言われたのは何度目だろう。
また不合格だ。少年は唇を噛んだ。
少年は、この3ヶ月の間に何度も言われ続けていた。
少年は経験しうる挫折は全てしたのでは無いかと言えるレベルで物心ついた時から挫折を繰り返して来た。
魔法が使えないと言われたその日から必死に剣や体術の練習をし、積極的に魔物を倒してきた。
少年は剣や体術では、同年代では誰にも負けない自信があった。
『またダメだったか。』
少年の名前はカイリ。
おそらく6歳ほどであろうか。
しかし、その目には全てに希望を持つような少年とは思えないほど光が宿っていなかった。
『姉や兄には魔法の才能があるのに、なんで自分には無いんだろう。』
目の前にある繊細な彫刻が施された噴水を見ながら呟いた。
本来なら噴水は安らぎを与え、心が穏やかになるのだが、少年には全く響かない。
あそこにいる子達は魔法を持っているのかな。それで受験をして、合格出来てるんだな…。
カイリはそう呟き、その心は羨ましさと、嫉妬を孕んでいた。
目の前の噴水の脇には受験票を持ち、緊張している同世代であろう子達がカイリの目に写っていた。
初等学校、魔法や剣の才を持つ少年少女が魔法や剣術を学ぶ所だ。
カイリは家を飛び出してここまで受験しにきたのに門前払いを食らってしまった。
カイリには変える家も行く当ても無くなってしまった。
『これからどうすればいいんだ。』
カイリは下を俯き、悲観する。
すると、年齢がカイリほどでありそうな少年が近づいてきた。
少年はカイリの顔を見ると、少し安心した表情を浮かべる。
『お前もここを受けるのか?』
少年も恐らく1人で遠くまで受験をしに来たのだろうとカイリは考えた。
話しかけないでくれよと思いつつも、カイリの性格から問い掛けを無視することはできない。
『魔法が使えないから落ちたよ。』
とハッキリと答えた。
これが事実であると、口にして改めて思い、少し胸が痛む。
すると安心した表情を浮かべていた少年はカイリに嘲笑するような素振りを見せる。
『魔法が使えない奴がこの世界にいるんだな。しかもそんな奴が初等学校に来るのは、馬鹿だな。』
その少年はさらに続ける、
『俺は岩魔法と木魔法を使えるよ。お前才能ないんだな。』
屈辱的な気持ちになったカイリだったが、不思議と少年に対してはその感情は湧かなかった。
自分の不甲斐なさに対する、焦燥や不安。自身に対しての怒りの気持ちを抑えられなかった。
カイリは立ち上がると少年を睨みつける。
『なんだよ…。』
少年は少し焦った表情を見せ、後退りをする。
カイリは大きく息を吸い込む。
『うるせー!お前に言われなくてもそんなことは知っている!』
腹から出た声が広場に広がる。
自身に対する怒りのやり場を全て少年にぶつけるように。身を任せるように、怒鳴った後、その場を逃げるように去った。
カイリはそのまま1時間以上何も考えず走る。
走って走って走って、やがて森の中に着いた。
『ふーーっ。』
カイリは大きく息を吐き、さらに奥へと進んでいく。
そして、そこからカイリは怒りに任せて、森にいる魔物を狩まくった。
カイリは、この世界が、魔法が、何より不甲斐ない自分が嫌だった。
くそくそ、魔法が無くても魔物は狩れるんだぞ!
少年が魔物をドンドン狩り進んでいく。
しかし、怒りで冷静さを欠いたカイリは入ってはいけない森の奥に踏み入ってしまった。
ドシンドシン
カイリは聞いたことのないほど大きい、地鳴りのような足音が聞こえてきた。
振り返ると目の前に大きなトロールが立ちはだかっていて、すでに手にある棍棒を振り上げていた。
やばい、死ぬ。
カイリは本能的にそう感じた。
トロールが上げた棍棒を振り下ろしたその刹那、
ザンッ
その音とともにトロールは真っ二つになった。
目を開くとおそらく同じ世代くらいであろう少女が立っていた。
『大丈夫?君?』
この出会いが少年の運命を大きく変えることとなるーーー