第十八話 修行
カイリの1日は早い。
まだ日が登るか登らないかの朝に起きて、朝食を作る。
昨日の夕食の時に、明日から誰がご飯を作るかの議論をカイリとユーベリータで延々とした。料理を作りたいユーベリータと料理を作らせたくないカイリの意地と意地のぶつかり合いの末、早いもの勝ちという形でおさまった。
とりあえずカイリは延命する術を得ることは出来た。
『ユーベリータにも困った一面があるなぁ。』
カイリはそう呟きながら苦笑いをする。
カイリは決して朝が得意なわけではないのだが、ユーベリータの料理を食べるよりはましかと早起きに関しては諦めていた。
リビングのドアを開ける音がする。
『おはよう。』
ユーベリータが重そうなまぶたを擦りながら、まだ眠気の残る声でカイリに挨拶をする。
『おはよう、作り終わったから先に座ってて。』
カイリはユーベリータに気を遣い、やや控えめな声量で返す。
『わかったよ。』
ユーベリータは素直にカイリに従う。
これを見てユーベリータは朝が弱いのかと確信をし、カイリは心の中でよしと呟く。
『お待たせ。』
カイリは両手にある純白の皿をユーベリータとその対面の場所に置く。
メニューは、昨日の狩りで入手した水を泳ぐスイムバードを焼いたものとその卵を目玉焼きにしたものである。カイリも料理が得意というわけではないのだが、それでもユーベリータよりはマシである。
『いただきます。』
ユーベリータとカイリが声を合わせる。
『なかなかやるわね。』
目玉焼きを食べるユーベリータが話す。
『そうかな。あんまり料理は自信ないけど。』
カイリはほっと安心をする。ユーベリータがとりあえずは認めてくれたからだ。これでもし、まずいと言われてしまってはおそらく今後料理を作れなくなってしまい、ユーベリータが料理をすることになる。そうすると、いろんな意味で苦しくなる。
そう考えていると、
『私の方が美味しく作れるけどね。』
ユーベリータが自慢げに話す。その顔は何も知らないものが見れば、綺麗に咲き誇る花さながらの笑顔なのだが、カイリにとってはそうは見えないトゲのあるバラに見えた。
『そ、そうかな。』
カイリは先程とは打って変わって焦りが生まれる。このままではユーベリータが料理を作る流れになってしまう。そう直感的に思ったからである。
何か話題を変えなければ。カイリが頭の中の記憶全てをたどってユーベリータに対する話題を模索する。
『そういえば、今日からの修行は何やるの?』
この問いが最適解だとカイリは導く。
ユーベリータはその問いに対する答えを、顎に人差し指を当てながら考える。
『今日は、最初に私と稽古をして、そのあと実戦で能力を集めに行こうかな。』
よし、話題が逸れた。カイリは頭の中で小さくガッツポーズをした。
『なるほど、じゃあ早く食べ終わらないとね。』
カイリは後一押しと言わんばかりに食べるペースを上げる。
『そうね。』
ユーベリータも同じくペースを上げる。
それを聞いてカイリは胸を撫で下ろす。
カイリの中で行われた小さな攻防は、とりあえずカイリの勝ちとなった。
朝食を食べ終わり、準備を済ませ小屋から15分くらいの位置にある少し開けた場所に着く。
『ここは日が出ている間はモンスターが寄り付きにくいから、修行するには格好の場所なの。師匠と私もここで稽古したのよ。』
ユーベリータは説明をする。
『たしかにモンスターの雰囲気が感じられない。』
カイリはグルリと周りを見渡す。モンスターの姿どころか音も雰囲気も無かった。
『カイリ、荷物を置いて魔剣だけを持って私の前に立って。』
ユーベリータは1mほどの高さの岩の上を指差す。
カイリは荷物を置き、ユーベリータの前に立つ。
『ユーベリータ、何するの。』
『カイリは私を殺すつもりでかかってきて。』
そう良いながらユーベリータはカイリと5mほどの位置に立つ。
『危なくないかな。』
カイリは心配をする。というのもユーベリータは何も持たず素手なのである。
『大丈夫、大丈夫。私足しか使わないから。』
そう言いながら、ユーベリータは腰を落とし、両手をダランとさせ低く構える。
『後悔することになるかもよ。』
カイリは少しムッとする感情を持ちながら魔剣を顔の位置ほどで両手で持ち、切っ先をユーベリータに向ける。
『いつでもいいよ。』
ユーベリータはそれでも余裕を見せ、構えを全く崩さない。




