妹の誕生
5月21日、深夜2時。よもぎ産婦人科にて。
母さんに突然異変が……
「あぁぁぁぁ! いたぁぁぁぁあい!」
母さんの悲痛の叫びが院内に響き渡る。
「あかりさん! 大丈夫です! ここから頑張りどころですよ!」
産婦人科の看護婦さんが母さんを励まし、元気付けている。
そう! 陣痛が始まったのである。
俺と父さんは母さんのいる産婦人科から夜中連絡がかかってきて、すぐさま産婦人科とへと向かった。
母さんは分娩室へと移動していて、ラマーズ法を実施している。
ヒッ! ヒッ! フーー!
ヒッ! ヒッ! フーー!
赤ちゃんを産むときに母体には激痛が襲う、それに伴い、母体の呼吸が乱れてしまう。そうなってしまうと、赤ちゃんに十分な酸素が送らなくなってしまい、出産の成功率を下げてしまう。だからこそ、出産の際にはこのようや呼吸法を使うのである。
ヒッ! ヒッ! フーー!
ヒッ! ヒッ! フーー!
陣痛は来ているみたいだが、産まれてくるのはまだまだ先のようだ。
「あかり!」
「おかあさん!」
「あら……こんな夜中に来てくれたのね……ありがとう」
母さんが痛みを我慢しながらも、こちらに笑顔を向けた。
声は弱々しく、相当な痛みを感じていることが窺えた。
「旦那さんと息子さんですね!」
看護婦さんが俺たちに声をかける。
「はい! そうです!」
「出産の準備は整いました! ですから、お母様の隣に座って励ましてくださいますか?」
「はい! もちろんです! 妻をよろしくお願いします!」
「うん! あっくんも、おかあさんを応援する〜!」
「じゃあそれでは————」
陣痛が始まってから2時間後、ようやく母体の容態とともに、出産の準備が整った。
フーー! ウゥゥーン!
フーー! ウゥゥーン!
母さんが激痛に耐えながらも、精一杯に力んで、赤ちゃんを産もうとしている。
「おかあさん! 頑張って!」
「あかり! 頑張れ!」
俺の手を強く握っていて、母さんが力む度にその力が俺の手元に伝わってくる。
母さんの反対側の手はというと父さんに握られている…………なんてことはなく…………父さんの手はどこか寂しげな様子……
まぁ、力んでいる時に、不安定なものに捕まるなんて馬鹿なことはしないよね……
父さん……ドンマイ……
フーー! ウゥゥーン!
フーー! ウゥゥーン!
「あと少しですよ〜!」
と、看護婦さんの声。
「おかあさん! あと少し〜」
「あかり! 頑張————」
流石に可哀想じゃん…………最後までちゃんと言わせてあげようよ。
フーー! ウゥゥーン!
オギャャァぁぁぁぁぁぁ。オギャャァぁぁぁぁぁぁ。オギャャァぁぁぁぁぁぁ。オギャャァぁぁぁぁぁぁ。オギャャァぁぁぁぁぁぁ。オギャャァぁぁぁぁぁぁ。オギャャァぁぁぁぁぁぁ。オギャャァぁ。
「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」
「………………はい。ありがとうございました……」
母さんは出産の激痛を耐え抜き、元気に産まれてきた娘を優しく抱き抱え、感動が押し寄せてきたのか、涙をハラハラと流した。
「元気に産まれてくれてありがとう……あなたの名前はのぞみよ! 希望の希ののぞみよ!」
あ! それ! 父さんが言いたかった奴じゃね!? 父さん…………
「…………あかり、ありがとう」
父さんもそんなことで落ち込むような器の小さい男ではない。父さんは母さんに娘を無事に産んでくれたことに感謝を述べた。
優しく抱こうと思ったところ、目で圧力を掛けられていた。
母さんは今は娘に夢中なようだ……
父さん……ドンマイ……
「おかあさん! よくがんばりました!」
俺は母さんの頑張りを最大限の笑顔で労う。
「あっくん……ありがとうね……ほらこの娘をみて! あっくんの妹だよ!」
「うん! 可愛いね! あっくんこの子のかっこいいお兄ちゃんになるね!」
「うん! あっくんならなれるわよ!」
俺は再度産まれたばかりの妹を見て、
「のぞみ! お兄ちゃんだよ! のぞみのかっこいいお兄ちゃんになるね!」
「……………オギャャァ」
こうして、俺の妹がこの世に無事に誕生した。
名前はのぞみ。希望の希と書いて希。その名前の由来は…………父さんの希望。




