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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死に神の奏でる物語

熱帯魚

作者: 叶 葉




部屋には脱ぎ散らかした服、下着。散らばったティッシュ、避妊具。


せめてゴミ箱に入れて。


これが彼に言った最後の言葉。


間抜けすぎるだろう、と彼が可愛がっていた熱帯魚を見ながら呟いた。

この熱帯魚、世話はどうするんだ。

私は生き物全般苦手なのに。

触れないぞ、こんなスベスベ、ヌルヌルしてそうな魚。

まさか敷かれた砂利や流木やなんかも洗わなきゃいけないの?

この生えてる苔や水草の手入れは?!一週間で駄目にする自信があるぞ。

大体餌はどこなの?

部屋は散らかす、家事も一つもまともに出来ない。家電は洗濯機のような大物からホットプレートみたいな小物に至るまで壊す破壊神の生まれ変わりのような人だったのに、生き物にだけは優しかった。


一度、彼が出張中に熱帯魚が一匹死んで、迷った末に私は可燃ごみに捨てたのだ。

マンション住まいの私たち。駅近物件。気軽に投棄出来そうな土地は近くに無かったから。

出張から帰って来た彼は、怒りはしなかったけど、呆れてた。


おい、俺の彼女はサイコパスかよ、って言って苦笑した。


それから少ししてポインセチアが植わった鉢植えを一つ買って来て、次からはこれに頼む、って言われたっけ。


「俺が死んでも可燃ごみに捨てちゃ駄目だぞ?お前が捕まるからな」

って苦笑してた。

大丈夫だよ、病院から火葬場に直行したよ、と火葬前の彼に声を掛けてから見送った。


二人共身寄りが居ないから。

それだけの理由で寄り添って居たような二人だったけど。

それでも確かに愛してた。


ポインセチア、彼が居なくなってから直ぐに枯れた。


どうして居なくなっちゃったの?

私、あんたが残してった物は一つも世話なんか出来ないのに。


次第に色が消えて行く部屋の中。


私は一人。



熱帯魚の水槽。

モーターの音。

ブクブクと立ち上る泡。

ネオンブルーに、メタリックイエロー。

色とりどりの魚たち。


2DKの部屋。


ダイニングに置かれた六十センチの水槽。


ダイニングテーブルから椅子を持ってきて水槽の前に陣取る。




私は一人で生きていく。


熱帯魚の水槽、隣に並べた骨壷。





余りのコントラストに絶句した———。









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