3.ステータスチェック
目が覚めると俺は見知らぬ草原にいた。
「……ふぁ~あ」
大きなあくびをしながら伸びをする。
こういうのって普通、初期地点は街中とかじゃないのか? まあ、下手に山奥とかじゃないだけマシと思うべきか。
いや、どうだろうな。どこを見渡しても草原が広がっている場所より、多少危険でも川などの水源や木の実や魚などの食料がある山の方が良かったかもしれない。此処じゃ隠れる場所もなさそうだしな。
「んーっ、おはようお兄ちゃん」
「ふぁ……、おはよう兄さん」
どうやら目が覚めたらしい妹たちに「おはよう」と返す。
「早速で悪いんだが、この後の方針を決めないか?」
「ここで?」
「危なくない?」
「俺もそれは思ったんだけど……生憎と隠れる場所も何もないしな。それどころかどっちに進めばいいのかすら分かんないし」
俺がそう言うと凛と蘭はなるほどと言った風に頷いた。
「と言う訳で、第一回家族会議を始めたいと思います」
「「ぱちぱちぱち」」
家族会議の開催を宣言すると拍手が起きた。
時計回りに俺、凛、蘭の順番で円を描くように座っている。
ちなみに第一回と付いてはいるが、今後第二回があるかどうかは謎である。
「まず最初に確かめたいんだが、ここは本当に異世界なのか?」
「ん~、どうだろうね。正直地球と変わらなく見えるよね」
「だよな」
凛と俺は改めて辺りを見渡す。
見渡す限りの草原。
いきなりこんな場所に来たという事実は確かにファンタジーっぽいけど、正直今いる場所が異世界とは思えない。
だってレインがいた神界とやらとは違って、俺こんな感じの場所写真で見たことあるし。
それに空に複数の太陽がある訳でもないし、他に目立ったものもない。
息だって普通にできている。
何か地球にはいない生き物が居るわけでもない。植物については全くの素人なので当然違いが判る訳もない。
ハッキリ言って、ここは地球なのではないかとすら思える。
俺と凛が何か異世界要素を探していると、不意に蘭が「ふっふっふ」と得意げに笑った。
「どうしたんだよ蘭。何か見つけたのか?」
「蘭ちゃん? どうしたの?」
「ふっふっふ、私、わかっちゃった」
「何が?」
「ここが異世界かどうかを確かめる方法」
「……えっ、マジ?」
「マジもマジ。大マジです」
「おお! ナイスだ蘭! それで、どうやって確かめるんだ?」
俺がそう聞くと蘭は指をピンと立てて「それはですね……」と焦らしながら言った。
「ズバリ! ステータスをチェックしたらいいんだよ!」
「「ステータス?」」
俺と凛はそろって首を傾げる。
「もう、忘れたの? 女神さまが私たちにくれた力ことだよ」
「ああアレか」
「蘭ちゃんよく覚えてたね」
「えっへん!」
蘭は自慢げに胸を張った。
いや、ホントによく覚えてたな。
大事なことのはずなのに印象が薄すぎてすっかり忘れてたよ。
「それじゃあ、せーので見せ合おうよ!」
「そうだね! お兄ちゃん、合図よろしく!」
「それはいいけど、どうやってステータスを出すんだ?」
「「…………さあ?」」
「ダメじゃん」
俺たちは同時に大きなため息をついた。
結構いい線いってると思ったんだけどな。
そもそもの問題として出し方がわからないって言うね。
てことはどんな能力があるかとかもわからないってことか。
自分のレベルもわからない、と。
……あれ? これ詰んでね?
う~ん。これは一か八かに賭けるしかないか。
俺はなんとなく上空を見つめながら叫んだ。
「レイ――ンっ! 説明書プリ――ズっ!」
俺がそう叫ぶと凛と蘭はキョトンとした表情を浮かべた。
それから数瞬の間待っていたが、特に何も起こらなかった。
やっぱりダメか?と思った瞬間、俺たちの中心に光が集まり、ストンッと音を立てて白い箱が出現した。
「お兄ちゃん、コレって……」
「もしかして……」
「ああ、多分そのもしかして、だ」
俺は目の前に現れた白い箱に手を伸ばし、その蓋を開ける。
中には一枚の紙が入っていて、その内容はまさに俺たちの求めていたものだった。
ありがとうレイン! いつか絶対にお礼するから!
ふと紙の一番下に書いてある一文が目に入った。
『次からはちゃんと事前に聞いてくださいね~?』
あ~うん。はい。それに関してはマジですまん。
頭痛の原因なんかよりもそっちを聞いておくべきだったな。
さて、何はともあれ、こうしてステータスの表示方法がわかったわけだ。
早速見てみましょう。
ちなみに、白い箱がいきなり出現するという結構な異世界要素については今は触れないでおく。
「それじゃあ、せーので行くぞ? ――せーのっ!」
俺はそう合図を出すと、心の中で『ステータス!』と念じた。
すると俺と凛と蘭の目の前にホログラムのような薄い板が出現した。
俺は自分のステータスに目を通す。
―――――――――――――――――――――――――――――
キョーヤ・クロツバキ
性別:男 種族:人間 職業:転生者
LV:1
HP:500/500
MP:300/300
攻撃力:150 防御力:200
魔力 :100 対魔力:100
敏捷 :120 器用 :270
知力 :300 幸運 :100
SP:10
AP:100
魔法:
なし
スキル:
なし
固有能力:
《加虐性欲》
《拘束愛好》
《血液嗜好》
《少女性愛》
《身長差性愛》
《近親愛》
天恵:
≪性癖能力化≫
称号:
[転生者]
装備:
〈制服〉
―――――――――――――――――――――――――――――
へ~、こんな風に表示されるのか。
………………ん? 性癖能力化? なんだこのふざけた名前は?
と言うか”天恵”ってことはこれがレインの言ってた能力ってやつか?
にしてもこれは……。
「なぁ、凛、蘭。一つ聞いてもいいか?」
「なに? お兄ちゃん」
「どうしたの? 兄さん」
俺はこの時、レインが言っていた言葉を思い出していた。
『あとは、転生するならどんな力が欲しいか、などですね~』
つまり、この能力は凛と蘭が欲しかった能力ってことにならないか?
「この≪性癖能力化≫って言うのは何なんだ?」
俺がそう聞くと、凛と蘭は顔を見合わせて悪戯に成功した子どものような笑みを浮かべた。
そして凛が答える。
「この能力はね! 私たちが一生懸命考えてアンケートに書いたんだよ! 私たちが書いたことがそのまま能力化されてるみたい!」
「なぜ?」
「だって……お兄ちゃんの性癖が知りたくって!」
「お前……」
なんだろう。ものすごく頭が痛くなってきたぞ。
「え……と。一応聞いておくが、コレってどんな能力なんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! それはですね、読んで字のごとく、自分の性癖を能力化する能力ですよ!」
「性癖を……?」
俺はそう言われて自分のステータスを見た。
「…………いやちょっと待て! 俺はこんな性癖持ってないぞ!」
「ん~と、ね。確か、『自分ですら自覚していない性癖も能力化する』って書いた気がする!」
「なん……だと?」
つまりあれか? このズラッと並んでる性癖たちは俺の中に眠ってた奴らってことか?
加虐性欲、拘束愛好、血液嗜好、少女性愛、身長差性愛、近親愛。この六つが眠ってたってことか?
…………………………ヤベェじゃん。
俺、もっとノーマルだと思ってた。
なのになんだよ!? この異常性癖たちは!? 俺ってこんなんだったの!?
「大丈夫だよお兄ちゃん! 私たちはお兄ちゃんがどんな性癖でも受け止めてあげるから!」
「そうだよ兄さん! 落ち込むことないよ! 私たちが付いてるから!」
俺のステータスを覗いていた凛と蘭が励ますように言った。
少しだけ感動しかけたが、すぐに思い直す。
だって俺が傷ついてる原因って結局は凛と蘭のせいだよな?
俺って凛と蘭の欲望に巻き込まれただけじゃね?
「ちなみに、私たちとお揃いだよ兄さん!」
そう言って自分たちのステータスを見せつけてくる凛と蘭。
俺は二人のステータスを流し見する。
―――――――――――――――――――――――――――――
リン・クロツバキ
性別:女 種族:人間 職業:転生者
LV:1
HP:300/300
MP:300/300
攻撃力:100 防御力:100
魔力 :130 対魔力:130
敏捷 :200 器用 :300
知力 :360 幸運 :300
SP:10
AP:100
魔法:
なし
スキル:
なし
固有能力:
《被虐性欲》
《説教愛好》
《露出癖》
《睡眠愛好》
《近親相姦》
天恵:
≪性癖能力化≫
称号:
[転生者][禁忌を犯せし者]
装備:
〈制服〉
―――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――
ラン・クロツバキ
性別:女 種族:人間 職業:転生者
LV:1
HP:300/300
MP:300/300
攻撃力:100 防御力:100
魔力 :110 対魔力:130
敏捷 :200 器用 :350
知力 :330 幸運 :300
SP:10
AP:100
魔法:
なし
スキル:
なし
固有能力:
《被虐性欲》
《盗撮愛好》
《窃盗愛好》
《睡眠愛好》
《近親相姦》
天恵:
≪性癖能力化≫
称号:
[転生者][禁忌を犯せし者]
装備:
〈制服〉
―――――――――――――――――――――――――――――
見なけりゃよかった。
妹の性癖なんて見るんじゃなかった。
性癖の5分の3が同じというところを見ると、さすがは双子と言っていいのだろうか。内容は別として。
はぁ……もういいや。諦めよう。
字面から受ける印象や精神的問題はともかくとして、能力的に見ればかなり強いっぽいし。というかチートだし。
これ以上考えるのは止めておこう。それが身のためだ。
だが……だがだ。これだけは聞いておかなきゃダメだろう。
「凛、蘭。なんでお前たちのは《近親愛》じゃなくて《近親相姦》なんだ?」
「「…………ノーコメント」」
「おい? そこは何か否定してくれよ。マジでか? マジでなのか?」
俺がそう言うと、凛と蘭は照れたように両手で顔を隠して答えた。
「「大変、気持ちよかったです……」」
「異世界にきて明かされる衝撃の事実!?」
どうやら、俺はいつの間にやら大人の男になっていたらしい。
いつだ!? 寝てるときか!? 睡眠愛好ってそういうことなのか!?
はぁ……先が思いやられる。
俺はこの世界でやっていけるのだろうか? とても不安になってきたぞ。
性癖の分類的なやつは割と無視してますのでご了承ください。
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