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24.猪戦 決着

 クソッ、もっと早く気づけたはずだ……ッ!

 アイテム化しなかっただけじゃない!

 あれだけのレベル差があったのにレベルアップの知らせが無かった。

 もう倒しているからと油断せず、最後まで気を張っていれば気づけたはずだッ!


 そもそもどうして(あいつ)は生きているッ!?

 あいつの対魔力は決して高くなかった。

 凛と蘭の魔法なら十分あいつのHPを削り取れたはずなんだ。

 それなのに何故………ッ!? 一体どこで間違えたッ!!? ――――ッ、いや、考えるのは後だ……ッ。

 それよりも今はコンマ一秒でも早く凛と蘭の下に行かないとッ!

 

 二人との距離は俺よりもあいつの方が圧倒的に近い。

 けれど、今のあいつは万全の状態じゃない。

 それに付け加え、俺の強化されたステータスならギリギリ間に合うはずッ!

 俺よりも若干先に伸びている鎖で俺と二人を繋ぎ、“偽・転移魔法”で一気に“愛の巣”まで飛ぶ!

 それが最適解ッ!


 よしッ、あと10メートル……ッ!


 だが、現実は俺が考えているほど甘くはなかった。


「ブルモォガァァアアアァァァァッッ!!」


 猪が叫んだ瞬間、牙と牙との間に一瞬にして光が収束した。


「ッ!?」


 アレは……まさか”闘気砲”の予備動作”!?

 いや、そんな馬鹿なッ!! それにしてはチャージが早すぎるッ!!

 アレには最低でも10秒以上の時間が必要なはずなのにッ!!


「ブガァァアアアアッッッ!!!」


 動揺する俺を余所に無慈悲にも発射される最強の一撃。

 俺はその光を見て、これは間に合わないと悟った。


 俺が二人の下にたどり着き鎖で繋ぐことまでは出来る。

 だが、その後が間に合わない。

 恐らく……いや、確実に俺が“偽・転移魔法”を使うより先に“闘気砲”が着弾するだろう。

 そうなったら3人まとめてお陀仏だ。

 

 そんなの…………そんなのッ! 認められるかよッ!!

 集中しろッ! 時間は残り僅か、その間に打開策を考えるんだッ!


 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ、


―――――――――――――――――――――――――――――

スキル【高速思考Ⅰ】を獲得しました。

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

スキル【並列思考Ⅰ】を獲得しました。

―――――――――――――――――――――――――――――


考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろッ!!


―――――――――――――――――――――――――――――

熟練度が一定に達しました。【高速思考Ⅰ】→【高速思考Ⅱ】

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

熟練度が一定に達しました。【高速思考Ⅱ】→【高速思考Ⅲ】

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

熟練度が一定に達しました。【高速思考Ⅲ】→【高速思考Ⅳ】

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

熟練度が一定に達しました。【並列思考Ⅰ】→【並列思考Ⅱ】

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

熟練度が一定に達しました。【並列思考Ⅱ】→【並列思考Ⅲ】

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

熟練度が一定に達しました。【並列思考Ⅲ】→【並列思考Ⅳ】

―――――――――――――――――――――――――――――


 予想だにしていなかったスキルの獲得により高速化された思考の中で、俺は更に考えた。

 そして、一つの結論へと至った。

 唯一どうにかできる方法。

 そして、犠牲を最小限にする方法を。


 あと少しで“闘気砲”が凛と蘭に接触するというギリギリの所でどうにか間に合った鎖を即座に凛と蘭に巻きつけ、一気に俺の後方へと投げやった。


「「ぇっ」」


 目を見開き驚いたような声を漏らす凛と蘭。

 俺はそんな二人を横目で見送りながら、恐らく最後となるであろう能力を発動した。


「“空間歪曲(ディストーション)”――――ッ!!」


 刹那、目の前の景色がぐにゃりと歪み、“闘気砲”の軌道を空間ごと捻じ曲げた。


「ブモッ!?」

「逃げろッ! 凛、蘭ッ!」


「「――ッ!?」」


 “闘気砲”の轟音のせいで全くと言っていいほど聞こえなかったが、逆に良かったかもしれない。

 もしも聞こえていたら、俺の決心が揺らいでしまうだろうから。


 ――“空間歪曲(ディストーション)”。


 《近親愛(インセスト)》から派生したこの能力は、その名の通り空間を歪めることができるという力を持っている。

 どんな攻撃も空間ごと歪めてしまえば俺までは届かない。

 現状、俺の持つ最強の能力と言って良いだろう。

 例え“闘気纏”を使ったとしてもそう簡単には崩されないはずだ。


 ただ、正直に言うとこの状態は長くは続かない。

 もともと“空間歪曲”は長時間の展開に向いている能力じゃないんだ。

 ほんのバスケットボールほどの空間を歪めることですら固有能力のパッシブ効果がなければ不可能なほどのMPを消費するのに、それを長時間なんて無理に決まってる。

 それなのに、相手は極太のレーザーで? 後ろには凛と蘭が居るから必要最低限の歪みにしてMP消費を抑える、なんてこともできない。

 プラスして数百の鎖を召喚したことで既に相当量のMPを消費している。

 そんな状況で“闘気砲”を防ぎきれとか。

 ハッなにその無理ゲー。いやクソゲーか? 

 少なくとも、死にゲーでないことを祈りたいところだな。


 …………なんだろう、なんか今すげぇ落ち着いてる。

 目の前に死が迫ってるってのに、どこか他人事みたいに感じるっていうか。

 感覚麻痺ってんのかね。

 ま、なんでもいいか。

 MPの使い過ぎで最悪命に関わるなら、万が一ゼロにでもなってしまったら確実に死んでしまうのではなかろうか。

 つまり、あと1分ほどでタイムリミットという訳だ。

 それまでに猪が力尽きてくれたら俺の勝ち。力尽きなかったら俺の負け。

 だが、どちらにせよ、凛と蘭が逃げるくらいの時間は稼げるかな。


「はぁ……あいつらが無事なら、まぁ、こんな最後も悪くはないか――」

「良くないよっ!!」

「死んじゃダメだからねっ!?」


 行き成りギュッと抱きついてきた凛と蘭に俺は目を見開いた。


「なッ!?」


 ちょ、ちょっと待て! なんで二人がここに!? てか、どうして逃げてないんだよ!?!?


「逃げろっつったろッ!?」

「「やっ!」」

「いや、『やっ!』じゃないからッ! 大体なんのために俺が残ったと思って――――ッ!!」


 その時、“空間歪曲”から感じる“闘気砲”の圧力に変化があった。


「ぐっ、この感じ……“闘気纏”かッ!」


 このタイミングで、という事は相手も最後の賭けってとこか?

 そうだと良いんだが――。


「お兄ちゃん……っ、死んじゃダメだよ……っ」

「兄さん……っ、死んじゃったらヤだよ……っ」

「――――ッ、あぁクソッ!!」


 せっかく覚悟したってのによ……ッ!


「分かったよッ!! 俺だって死にたくねぇしなッ!!」

「お兄ちゃんっ!」

「兄さんっ!」


 でもこのままじゃ無理だ。

 どうするっ!? この状況で全員が助かる手段はっ!


 “偽・転移魔法”はこの状況じゃ座標が正確に確認できないから却下っ!

 かと言ってあいつに攻撃を仕掛けるにしてもMPが圧倒的に足りないっ!

 凛と蘭に任せるにしても、今のこいつらじゃ精神的に無理だっ! むしろ二次災害になりかねないっ!

 だったらどうするっ。

 “闘気砲”を防げて尚且つこの状況でもできることっ!


「――――――そうだっ! 二人共っ! そこら辺に落ちてる鎖を自分たちの身体中に巻きつけてくれっ! できるだけ多くキツくなっ!!」

「「こんな時に何言ってるのっ!? そういうのは家に帰ってから三人きりの時に――」」

「良いから早くッ! このままじゃマジで死ぬからッ!!」

「「あ、はいっ!!」」


 全く絶体絶命のこの状況で一体何を考えているのだろうか。

 そこまで死にたいのかこの二人は。


「「はいっ! できましたっ!」」


 見ると、鎖をデタラメに巻きつけた影響で身動きがとれずに地面に転がって居る我が妹たちの姿があった。


 それを認識した瞬間、俺のステータスが数百倍に跳ね上がった。


「よしッ、これでなんとかなるッ!」


 《拘束愛好(バインドフィリア)》のパッシブ効果。

 それは、拘束された人物を認識すること。

 対象が自分のタイプだった場合、ステータス上昇率は増大し、拘束具が自分の創った物だった場合も更に増大する。

 

 即ち凛と蘭が鎖に身を包む事は、この条件すべてを高水準で満たすことになる。

 結果、MP不足問題は解決する。


「はぁぁッ、”万物拘束”ッ!」


 俺は能力を発動させ其処ら中に散らばっている鎖を操り猪を拘束し、天高く持ち上げる。

 すると猪は“闘気砲”を止め、鎖を破壊しようと藻掻き始めた。


「ブガァァアアアアアアアッッ!!」

「うるせぇッ!!」

「ブギッ――」


 暴れる猪を鎖で強制的に黙らせる。

 そして、勢い良く地面に叩きつけた。


「ギャッ――」


 短い断末魔の後、猪は消え去りその場にはドロップアイテムだけが残った。


 それを確認した俺は、思わず脱力し仰向けに倒れた。


「お、お兄ちゃん!?」

「大丈夫!?」


 どうにか鎖から抜け出した二人が俺の下に近づいてくる。


「あぁ、大丈夫だ。……ふ、ふはっ、ふははははははっ!!」


 急に笑い出した俺を見て頭に『?』を浮かべる凛と蘭。

 だが許して欲しい。

 このやり遂げた感を表す方法がほかに思いつかないんだ。


「はははははっ! はぁぁぁっ、勝ったぁぁぁぁぁっ! 今度こそ確実にっ! あ~ぁ、もう一歩も動けんっ!」


 まだ森の中で、油断できる状況ではないが、今くらいは良いだろう。

 今回は本気で死を覚悟したんだ。

 あの時は、凛と蘭が助かるならそれでもいいと思った。

 でもまあ今考えてみたら、馬鹿だよなぁ俺。

 あんな状況でなんと言おうと、凛と蘭が俺を置いて逃げるはずがないって少し考えたら分かるだろうに。


「お疲れ様」

「頑張ったね兄さん」

「ごめんな凛、蘭。あと……ありがとう。お前たちが居なかったら死んでたかもな」

「ホントだよ! 無茶しちゃダメって言っておいたのに!」

「それに、兄さんを犠牲にして生き残っても私たちちっとも嬉しくないよ!」

「そうだよ! むしろお兄ちゃんの後を追っちゃうかもしれないよ!?」

「兄さんは私たちが死んでもいいの!?」


 泣きそうな顔で怒っている凛と蘭を見て、俺は「ははは」と苦笑いを浮かべた。


「それは……全く全然これっぽっちも良くないな。そんなことされたら本末転倒だ」

「でしょ!? だから二度とこんな危険な真似しちゃダメだよ?」

「絶対だよ!? 私たちとの約束だからね?」

「あぁ、分かった。こんなことは二度としないよ、約束する」

「「うん! 今回は特別に許してあげる!」」

「あぁ、ありがとな。…………さて、そろそろ帰ろうか。流石にこれ以上戦闘を続ける気力は残ってない」

「そうだね~。私もクタクタだよ~」

「私も疲れたよ~。帰ってお風呂に入りたいね~」

「そうだな。早いとこ帰ろう」

「でも、お兄ちゃん大丈夫なの?」

「支えいる? 肩貸そうか?」

「いや、いい。まだ若干の気怠さはあるが、別にダメージを食らったわけじゃないからな」


 そもそも凛と蘭じゃ身長差的に肩は貸せないんじゃ? と思ったが、藪蛇になるかもしれないので口に出すのはやめておいた。


「それじゃ、掴まってくれ」

「「分かった!」」


 元気よく返事をしたあと、ギュッと俺の腕に抱きついた。


「「何時でもいいよ!」」


 わざわざ抱きつく必要は無いのでは、という最もな意見が頭をよぎるがこれはこれで気分がいいので何も言わないでおく。

 言っても止めないだろうしね。


「それじゃ、帰りますか! “拘束範囲指定:1m”!」


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