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23.猪討伐大作戦

 俺が倒したゴブリンのドロップアイテムを回収し終えた俺たちは、蘭の“千里眼”を頼りに次の魔物の下へと向かっていた。


「蘭、次の魔物はどんな奴なんだ?」

「大きな猪! 今回のは一体だけだけど、身体だけじゃなくて牙も大きいよ! あんなので刺されたらひとたまりもないね!」

「あんなの、と言われても想像しかできないけど……、ステータスはどうだ?」


 あの後、凛と蘭にも〈鑑定の実〉を渡しておいたのだ。

 俺と凛が【鑑定】を使う場合は近づいて直接視認する必要があるが蘭の場合はどうだろう。

 もし、俺の予想通り“千里眼”発動中にも【鑑定】が使えるのだとしたら――


「うん、ちゃんと見えるよ! 直ぐに表示するね!」


―――――――――――――――――――――――――――――

アサルトボア

性別:雄   種族:魔物(モンスター)   職業:無職

LV:78

HP:5470 /5470

MP:2900/2900

攻撃力:6280         防御力:3460

魔力 :1830         対魔力:1070

敏捷 :4990         器用 :200

知力 :760          幸運 :3


魔法:

 なし


スキル:

【突進Ⅴ】【猛攻Ⅳ】【タブル・インパクトⅣ】【威嚇Ⅳ】【気配感知Ⅳ】【危機感知Ⅳ】【超嗅覚Ⅳ】【跳躍Ⅲ】


固有能力(ユニークアビリティ)

《闘気術》

    ・闘気纏

    ・闘気砲


天恵:

 なし


称号:

 なし


装備:

 なし

―――――――――――――――――――――――――――――


 ――それは、途轍もないアドバンテージになる。


「ははっ凄いなっ。遠くから一方的に情報を盗む事ができるなんてっ」

「そ、そうかな?」

「ああ、もちろんだっ。これは本当に凄いぞっ」

「そうだよ蘭ちゃん! 事前に相手の情報が分かるってことは、その分時間を掛けて対策を立てれるってことだし!」


 とはいえ、蘭の“千里眼”に依存し過ぎるというのはあまり良い事とは言えないが……ま、今のこの空気にわざわざ水を差す必要もないだろう。

 それに、これで大分やりやすくなった事に変わりはないしね。


「それじゃ、移動しながら作戦を考えよう。見たところ、ゴブリンとは比べ物にならないくらい強いみたいだし」

「そうだね~、まさか固有能力まで持ってるなんて」

「それにスキルも全体的にレベルが高いし」

「でもさ、作戦なんているの?」

「兄さんが鎖で縛っちゃえばそれで終了じゃないの?」


 俺の顔を覗きながらそう聞いてくる凛と蘭。


「まぁ、当然最初はそうやって攻める予定なんだけどな。こいつの持ってるスキルと能力がちょっと厄介でな。それだけだと厳しそうなんだよ」

「「? 名前だけでスキルや能力の内容が分かるの?」」


 いつも思うが、こいつらのシンクロ率の高さは素直にすごいと思う。

 さすが双子だ。


「【鑑定】すれば良いんだよ、スキルや能力を。そうすれば大体のことはわかるぞ」

「あっ、確かにそうだね」

「どうして気が付かなかったんだろ」

「使い慣れてないからじゃないか? てか、【鑑定】しなくてもある程度はわかるだろ。【気配感知】なんてそのままだし」


 つっても、こうしてゆっくりと【鑑定】できるのは蘭の“千里眼”のお陰だけどな。

 さっきのゴブリンがまさにそれだけど、いきなりのエンカウントじゃそんな暇ないし。


 そんなことを考えていると、急に凛と蘭の顔が曇った。

 恐らく【鑑定】の結果を見たのだろう。


「この【危機感知】ってスキルヤバイね。『自分に対して被害が及ぶありとあらゆる事象を感知することができる』なんてチートだよ~……」

「こっちの《闘気術》っていう固有能力もすごいね。『自分の生命エネルギーを具現化し、操作することで身体能力を強化、また魔法やスキルの効果を込めた量に比例して増大させることができる』って、凛ちゃんが言った【危機感知】と組み合わせたら最強だよ~……」

「あとは――」

「まあ――」

「「“闘気纏”かな~」」


 凛と蘭が口を揃えて指摘した“闘気纏”という能力。

 効果としては以下の通りだ。


―――――――――――――――――――――――――――――

“闘気纏”:固有能力《闘気術》から派生した能力。闘気を身体に纏うことにより、1秒間無敵になることができる。(クールタイムは6秒)

―――――――――――――――――――――――――――――


 1秒という数字だけを見たら大したことはないが、クールタイムは6秒と短く、【突進】という一瞬で距離を詰めることのできるスキルまで持っているとなると、話は変わってくる。

 これを使えば無防備に突っ込んで来るだけのスキルが攻防一体の強スキルになってしまうし、《闘気術》により【危機感知】の効果を増大させたなら、どんな奇襲をも防ぐことが出来るだろう。

 あと、これは俺の憶測でしかないが、無敵中ならば俺の鎖も破壊できるのではなかろうか。


「はぁ……まったく、面倒な能力を持った魔物がいたもんだな」


俺の言葉に「だね~……」と言いながら頷く二人。

 そして、続けて口を開いた。


「「お兄ちゃん(兄さん)、これ、勝てるの……?」」


 不安げな凛と蘭の頭をポンポンと撫でる。

 俺はこいつらの兄だ。

 だから俺は、こいつらを不安にさせるような事はしてはいけない。


「そんな顔するなよ。大丈夫だ。俺の能力を使えばなんとかなる」

「「ほんと……?」」

「ああもちろんだ。まぁ、少し準備は必要だけど」


 これは強がりではなく本当の事だ。

 準備さえすれば、倒せない相手じゃない。

 それに、


「もしも倒せないって思ったら、直ぐに“(デミ)()転移魔法(シフト)”で逃げれば良いだけだし。な?」


 そう言うと、凛と蘭の顔から少し不安の色が消えた。


 よし、それでいい。

 極度の不安や緊張は良くないが、適度な不安や緊張は逆に必要だからな。


「それで、どうやって倒すの?」

「兄さんなら勝てるって信じてるけど、相手は強敵だよ?」

「なに、簡単だよ。どんなに強かろうが無敵だろうがそれが1秒しか続かないのなら――――1秒間耐えきればこっちの勝ちだろう?」


 ◆◆◆


「――――よし、これで準備完了だ!」


 あとは、実行に移すだけ!…………なのだが――。


「次はいよいよ本番だね……っ」

「うぅ、緊張してきちゃった……っ」


 ソワソワと落ち着かない様子の凛と蘭を見ながら、俺は「はぁ」とため息をつく。

 そう、何を隠そう本人達たっての希望で、凛と蘭もこの作戦に参加することになったのだ。

 本当は俺一人でやるつもりだったのだが……。


『絶対にダメ! お兄ちゃん絶対無茶するもん!』

『そうだよ兄さん! たまには私たちを頼ってよ!』

『何時までも守ってもらってばっかりは嫌なのっ!』

『こんどは私たちが兄さんを助ける番だよっ!』

『『何があっても付いて行くからねっ!』』


 そう言われてしまっては止めるに止めれず、結局押し切られてしまった。

 こうなってしまっては俺にはどうすることもできないのだ。

 兄の弱いところだな……。


 だが、あぁは言っていたが、二人共内心不安なのだろう。


 俺は最後の抵抗とばかりに口を開く。


「う~ん……そんなに心配ならやめとくか? もともと俺一人でやる予定だったし。例えやめたとしても誰も責めたりしないからさっ」

「ダメだよお兄ちゃん! そんなこと言っても付いて行くからね!」

「ダメだよ兄さん! 兄さんがなんと言おうと付いて行くからね!」

「……ふぅ、分かったよ。それじゃあ行こっか」

「「うん!」」


 俺たちはもともと指定していた位置に戻ると、最後に作戦の内容を確認することにした。


「まず、凜の”視線誘導”で俺たちが今いるこの場所まで誘き寄せる。この場所のいたるところに俺自身を拘束しておいたからな。”偽・転移魔法”でいつでもどこにでも飛べるぞ」

「確か、猪さんが来たらその背後に飛ぶんだよね?」

「ああ、その通りだ。でもその前に俺が鎖で襲い掛かって”闘気纏”を使わせる。飛ぶのはその後だ。クールタイムの6秒以内に一気に決着をつける」

「う~ん、でも本当に罠とか仕掛けなくて良かったの? せっかく誘き寄せるのに……」

「罠なんて仕掛けても【危機感知】ですぐにバレるからな。むしろ警戒して来なくなる方が困る」

「あ~、確かに」


 納得してくれたところで次に進む。


「次は背後に飛んだ後の話だ。その後、俺はすぐに猪の足元に”万物拘束”で穴を開け前後左右の逃げ道をなくす。すると周囲に逃げ道がないと覚った奴は【跳躍】を使って空中に逃げるはずだ。そこで凛と蘭には魔法を使ってもらう。タイミングは俺が合図するから」

「うん!」

「わかった!」


 凛と蘭の魔法はどういう訳かかなり高威力だ。

 俺たちの切り札と言っていい。


「もしもこれで決めきれなかったら、その時は作戦失敗。大人しく”偽・転移魔法”で逃げよう」


 大体これで6秒くらいは経つだろ。

 もう一度”闘気纏”を使われたら正直厳しいし、大人しく逃げるのが一番だ。

 

「さて、確認はこのくらいか。早速だが凛、蘭、準備は良いか?」

「もちろん! 何時でも行けるよ!」

「大丈夫! 何時でも行けるよ!」

「オーケー、それじゃ行くぞ? “拘束器具作製”」


 俺は能力を発動させ、通常よりも鎖の部分を長くした〈手錠〉を創り出し、その両端をそれぞれ凛と蘭の手首にはめた。

 そこから更に能力を発動する。


「“リンク”。どうだ凛、見えてるか?」

「うん! バッチリ見えてるよ、()()()()()()()!」

「おっし成功だ! 蘭、やってくれ!」

「任せて! “千里眼”!」


 能力の発動で蘭の目が赤く染まる。

 俺には今蘭がどんな景色を見ているのかはわからないが、凛には蘭と同じ景色が映っていることだろう。


『拘束したモノ同士を繋ぎ、その機能を共有する事ができる』


それが俺が発動した能力、“リンク”の力だ。

共有する機能は発動者――つまり俺が選ぶことが出来る。

共有する事ができる機能は、何でもだ。

視覚や聴覚なんかの五感から、筋肉や思考判断力、情報、果ては臓器に至るまで何もかも可能だ。

今回共有したのは蘭の視界。

もっと詳しく言うと、“千里眼”の力だ。

これにより、擬似的に凛も“千里眼”を使えるようになる。


ただ、当然弱点もある。

片方の機能しか共有できないというのと、共有している機能を片方が失うともう片方も失うというものだ。

一つ目は単純に一方通行ってだけ。

二つ目は少し危険だ。

例えば、今蘭が何らかの理由で目を負傷したとする。

すると、その負傷が共有され、凛も目を負傷してしまうのだ。

逆もまた然り。


とはいえまぁ、それらの弱点があったとしてもかなり優秀な能力だけどな。


さて、解説はこのくらいにしておくか。

それに、そろそろだと思うし。


「お兄ちゃん! もう良いんだよね?」

「ああ、何時でもいいぞ」

「了解! “視線誘導”!」


 そう言いながら、凛は自分の立っている場所を指差した。

 

 “視線誘導”の効果範囲は視界に入っている場所全てだ。

 こんな視界の悪い森の中じゃ本来使い勝手の悪い能力だが、逆に言えば、見えてさえいればそれがどんなに遠くでも発動することができる。

 派生能力のほぼすべてがそうだから、“千里眼”と“リンク”の相性は最高と言える。


「座標の固定完了したよ、お兄ちゃん!」

「おう、お疲れ様」


そう言いながら、俺は二人にかけた〈手錠〉を外し“リンク”を解除した。


「どうだ? あの猪ちゃんとこっちに来てる?」

「うん! 今のところはちゃんと来てるよ!」

「そっか、今のとこ順調だな」

「だね!」


 とりあえず、作戦がうまく行ってるようで何よりだ。

 ここで来てもらわないとそもそも作戦が成立しないからな。

 あとはこのまま【気配感知】の範囲内に俺たちが入るくらいまで近づいてくれるのを待つしかないな。


 そうして待つこと十数分。


「兄さん! 猪が猛スピードでこっちに来てるよっ!」


 どうやら範囲内に入ったみたいだ。


「距離は?」

「大体70メートル位かな。でもこのスピードだとあと数秒で合流すると思うよ!」

「了解。それじゃあ凛! 蘭! 【魔法陣】展開!」

「「了―解!」」


 凛と蘭が【魔法陣】を展開したのを確認すると同時に、俺も合わせて能力を発動する。


「“万物拘束”ッ!」


 自分の周囲の空間に100個の穴を開け、猪に向けて一斉に放出する。


 俺にはまだ猪を視認できていない!

だがッ、これだけ撃ちゃ当たるだろッ!


 すると、俺の目論見通りいくつかの鎖に反応があった。

 そして、反応があった鎖が壊れる感覚も。

 能力である鎖が壊れた。

つまり、相手は“闘気纏”を使ったということだ。


 このタイミングを逃さず凛と蘭に触れると、反応があった場所の少し奥を指定して能力を発動させる。


「“拘束範囲指定:1m”ッ!」


 刹那、周囲の景色が一変し、巨大な猪の背後に回り込むことに成功した。


 おっしッ! 成功ッ!


 俺はニヤリと笑うと、“万物拘束”を再び発動させ猪の足元に更に100個と穴を開けた。

 こうしてしまえば、【危機感知】で前後左右に逃げ場がないと分かるはず!

 だったら後は――


「ブモォォォォォオオオッ!!!」


 俺は叫ぶ猪に向かって鎖を放出し拘束しようと操作する。が、すんでのところでジャンプされ空中に逃げられてしまった。


 そうだ! 前後左右に逃げ場がないなら空中に行くしかないッ!

 でもなッ、コレは空中じゃ避けきれねぇだろッ!!


「発射ッ!!」

「『コキュートス』ッ!!」

「『ディストラクション・レイ』ッ!!」


 俺の合図で二人の魔法が発動する。


 凛の薄水色の【魔法陣】からは全てを凍てつかせる絶対零度の龍が、蘭の白色の【魔法陣】からは全てを破壊し尽くす光の光線が、猪に向かい一直線に放たれた。


「ブ、ブモガァァァァァァアアアアアアッッッ!!」


 最後の抵抗とばかりに咆哮する猪。

同時に、牙と牙の間に光が集まり収束し始めていることに俺は気がついた。

 この反応は恐らく“闘気砲”だ。

 だが、どうしてこのタイミングなんだ?


「どう考えても、こっちの魔法の方が早いだろうに……」


 魔法が命中し、ボロボロになりながら落下してくる猪を見て俺はそう呟いた。


 “闘気砲”はあの猪の最高火力だ。必殺技と言ってもいいかもしれない。

 俺たちだって、もし被弾すればただでは済まないだろう。

 もしかしたら考える暇もなく消し炭かも知れない。

 だが、俺たちはこの能力に対して全くと言っていいほど警戒していなかった。

 それは何故か? それは――


 ――“闘気砲”は、発動までに長いチャージ時間を要するからだ。


 しかも、今見たようにチャージは目に見えた形で開始される。

 そんなもの“偽・転移魔法”を使えば当たるわけがないし、もしも避けきれないタイミングだったとしても俺の“空間歪曲(ディストーション)”を使えばまず当たらない。

 だから例え“闘気纏”と併用されたとしてもどうとでもなる、そう考えたからだ。


 事実、相殺狙いだかなんだか知らないが、あいつが放とうとしていた“闘気砲”は間に合わなかった訳だしな。


 ま、そんなこと今更考えても仕方ないか。

 今は純粋に勝利だけを喜んでおけばいい。

 そうだ、喜べばいいんだ。

なのに……、なのになんだ? 戦闘は終わった。俺たちの勝ちだ。それなのに、物凄く嫌な予感がする……ッ。


だが、そんな俺の予感とは裏腹に今のところは何も起きていない。

俺の気のせいか? だったら良いんだが――


「お兄ちゃん!」

「兄さん!」

「うおっ!?」


 両サイドからのいきなりの衝撃に思わずバランスを崩しそうになるが、どうにか倒れずに二人を受け止める。

 すると、凛と蘭はそのまま俺の身体にグリグリと頭を埋めてきた。


「よしよし、大丈夫か?」

 

 俺は、そんな二人を宥めるように頭を撫でた。

 

 結果的に俺の計画通りに事が運んだとはいえ、一歩でも間違えれば危うかったことに変わりはない。

 作戦中はなんとも無いように振舞っていたが、内心不安だったのだろう。


 はぁ、ダメだな俺は……。

 凛と蘭を守るとか、危険な目には遭わせたくないとか言っておきながら、結局こんな危ないことに巻き込んでしまった。

 今回は大丈夫だったが、次もまた大丈夫とは限らないし…………これは、化物退治の件も考え直した方が良いのかもしれないな。


「……ありがと、お兄ちゃん」

「……もう、大丈夫」

「ほんとか? 今回は特別だから気の済むまで撫でてやるぞ?」

「うっ……で、でも大丈夫……っ!」

「そ、そうだよ……っ! 何時までも兄さんに甘えてばっかりじゃダメだもんっ!」


 い、妹たちが成長している……っ!

 何かにつけて甘えてきた凛と蘭が遂に兄離れを……っ!?


 うぅ、妹の成長は兄として素直に嬉しいはずなのに……なんというか、少しだけ寂し――――


「「で、でもっ! 家に帰ったらまたナデナデしてねっ! それ以上もオッケーだよっ!」」

「それ以上って……うん、まぁ、そんなことだろうと思ったけどね……」


 俺はやれやれと思いつつ微笑しながら「了解」と答えた。


「えっ、良いの!?」

「それ以上のことしてくれるの!?」

「そこまではしねぇよっ! ……って言いたいところだが~、まぁ、今回はお前たちにも少なからず迷惑かけたからな。俺にできる範囲でなら、な」

「やった~っ!」

「楽しみにしてるねっ!」


 どんなことを要求されるのかは分からないが、無理なお願いはしてこないだろ。多分。


「「それじゃあ改めてっ! 作戦大成功だね! お兄ちゃん(兄さん)っ!」」 

「はははっ、本当にな~、マジで成功して良かったよ。内心ヒヤヒヤしてたからな……」

「「お疲れ様です!」」

「それじゃあお兄ちゃんは休んでて!」

「あの猪さんのドロップアイテムは私たちが回収しておくから! 待っててね、兄さん!」

「大丈夫か? 結構遠くに落ちたけど」

「大丈夫だいじょうぶ!」

「あのくらい遠いうちに入らないよ!」

「そっか。それじゃ、そうさせて貰うよ」


 俺は穴から出して回収し忘れていた鎖を操り、簡単な椅子を作製し腰掛けた。

 凛と蘭は二人でボロボロになった猪の下に向かっている。

 なんだかんだ言って、無事に終わって何よりだ。


「ふぅ……」


 息を吐く。

 そして、


――ようやく先ほど抱いた違和感の正体に気がついた。


「あれ? そう言えばなんで……あの猪は消えてないんだ……?」


 今まで戦って来た魔物は死んですぐにアイテムに変わった。

 それなのに何故あいつはボロボロのままそこに居る……?


 頭の中に一つの可能性が浮かぶと同時に、全身から血の気が引いていくのを感じた。

 まさかっ、まさかまさかまさかッ!? 


「凛ッ! 蘭ッ! 今すぐそいつから離れろッ!!」


 気づいた時には叫び、走り出していた。

 先程まで座っていた鎖の椅子を分解し、二本の鎖を凛と蘭の下まで伸ばす。


「え? どうしたの? お兄ちゃん?」

「何かあったの? 兄さん?」

「良いから戻れッ!! そいつはまだ――」



「ブモォガガガガァァァァッッッ!!!」



「――死んでねぇッ!!!」


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