22.ゴブリン
魔法やスキルなんかを一通り試し終えた俺たちは、レベル上げのため以前来た森に足を踏み入れていた。
で、ただいま絶賛魔物探し中である。
と言っても、この三人の中で索敵ができるのは”千里眼”を持つ蘭だけなので、現段階では蘭一人に任せきりである。
なんというか、申し訳ない気分になるな……。
俺も【索敵】か【生体感知】みたいなスキルを取った方がいいのか?
どうしても蘭の下位互換になる未来しか見えないが、少しでも蘭の負担が減るならそれも良いかも知れない。
本人は嫌がりそうだけどな。
「蘭どうだ? 見つかったか?」
「うん、ここからだいたい30メートルくらい行ったところに三体固まってる。これは~ゴブリンかな? 武器は棍棒みたいなやつ。他にも居るけど少なくとも100メートル以上離れてるから、多分戦闘中に乱入してきたりは無いと思う」
「流石だな蘭。上出来だ」
ぐりぐりと蘭の頭を撫でる。
「ん~~っ! ありがと!」
蘭は気持ちよさそうに目を細めた後、俺の手を取り自分の頬に添えた。
おぅ、なんという素晴らしい手触り……っ。
スベスベでプニプニでフワフワ、ずっと触っていたいと思えるほどの触り心地の良さ。
女の子ってみんなこんなに柔らかいのだろうか……?
元の世界じゃ妹たち以外の肌なんて触ったことなかったからな~。
彼女なんて当然のごとく居ませんでしたし?
そういう事がどうしようもなく気になってしまうお年頃ですし?
はぁ~、彼女が居たらいろいろと変わってたのかな~……主に性癖面が。
まぁ、性癖云々は別として、彼女はこの世界で作るとしますか!
しばらくの間妄想に胸を膨らませながら蘭のほっぺを揉みしだいていると、
「ジ――――――――――ッ!!」
と言う声が背後から聞こえてきた。
振り返ると、そこには頬をリスの様に目一杯膨らませている凜の姿が。
「り、凜? どうしたんだ? リスみたいになってるぞ?」
「べっつにー? 私はどうもしてませんけどー?」
「いや全くそうは見えないんだが……?」
「化物退治まで時間ないんだから早く魔物倒しに行こ! って言いたかったの!」
「そ、そうだな、確かに」
「あと、蘭ちゃんが人様にお見せできない顔になってるけど良いの?」
「え? あ!?」
見ると、顔を真っ赤にして恍惚とした表情を浮かべた蘭の姿があった。
蕩けているというか何というか、俺の手を握っていなかったら今にも崩れ落ちそうなほどビクビクしている。
「はっ、はぁ……♥ はぁ……♥ んッ、ハァー♥」
こ、これはちょっとヤバいかも知れない……。
マンガだったら目が♥になってるやつだ。
やり過ぎた……?
いやいや、そうだとしても頬だぞ!? 蘭! いくら何でも敏感過ぎるだろ!!
「でも俺が悪かった! すまんッ!! 大丈夫か!?!?」
「んぁっ、はぁ~~~、だいじょうぶ~~~」
「どう見ても大丈夫じゃねぇ!」
「まあ、ほっぺたって蘭ちゃんの性感帯だからね~。感じて当然だよー」
「何勝手に人の性感帯カミングアウトしちゃってんの!?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんだもん。蘭ちゃんも許してくれるよ!」
「一体何を根拠に――――……ッ! 凜! 蘭! 戦闘態勢!!」
「「!!」」
バッと身体の向きを変え、音のした茂みに注意を向ける。
まだ姿は見えていない。
だが、確実にそこに居ることだけは分かった。
「油断したな……」
「あれだけ騒いだら流石にバレるよね」
「ごめんなさい兄さん……。本当は私が気を付けないといけなかったのに……」
「いや、蘭のせいじゃない。今回のことは全面的に俺の責任だ。だから気にするな。それよりも、来るぞ!!」
「「うん!」」
「「「ギギャギャッ!!」」」
俺の合図と同時にまるで示し合わせたかのように飛び出してくる人型の魔物。
緑色の肌、醜悪な顔、背丈は大体俺の半分ぐらいで貧相な身体付き、服は腰に巻いたボロボロの布一枚、手には太めの木の枝をそのまま使用したかのような武器が握られていた。
ゴブリン。
ファンタジーの代名詞とでもいうべきモンスターだ。
RPGやラノベなんかじゃスライムに並ぶ雑魚モンスターだが、まさかそんな奴に後れを取るとは……。
俺は警戒しつつイベントリから〈鑑定の実〉を取り出すと、急いで飲み込んだ。
同時に、【鑑定Ⅹ】を付与したと知らせるアナウンスが頭に響く。
よし、これで――!
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ゴブリンA
性別:雄 種族:魔物 職業:無職
LV:39
HP:1220/1220
MP:15/15
攻撃力:1830 防御力:375
魔力 :30 対魔力:176
敏捷 :509 器用 :29
知力 :10 幸運 :3
魔法:
なし
スキル:
【槌術Ⅲ】【豪打Ⅱ】【威嚇Ⅰ】【気配感知Ⅰ】【叫びⅢ】
固有能力:
なし
天恵:
なし
称号:
なし
装備:
〈粗末な腰布〉〈棍棒〉
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「あいつゴブリンのくせに俺よりレベルが高いぞ!!? しかも随分と極端なステータスしてやがるっ。 凜、蘭、気を付けろよ。こいつら物理特化だ!」
「「了解!」」
俺が〈処刑人の剣〉に手を掛けると同時にゴブリンたちが動き出した。
三体中二体が俺目掛けて一直線に迫ってくる。
「こっちの二体は俺がやる! 残り一体は任せた!」
「「任されました!」」
「あっ、でも無茶はするなよ!? 何だったら引き付けるだけで良いからな!?」
「「わかってるって!! 無茶はしないよ!!」」
「ほらほらこっちだよゴブリンさん!」
「こっちまでおいでゴブリンさん!」
残りの一体を引き離すためか俺から距離を取るように走り出す凛と蘭。
それに合わせて一体のゴブリンが離れていった。
正直、凛と蘭には戦ってほしくない。
単純に傷ついて欲しくない、危ないことはして欲しくない、ってのもあるけど、一番はもっと他にある。
俺は、凛と蘭には誰かを傷つけて欲しくないんだ。
それが魔物だとしても、そういう行為はしないで欲しい。
誰かを傷つけることに慣れてしまったら、凛と蘭が変わってしまう気がするから。
自分は魔物を殺しておいて何を言ってんだって感じだし、この剣と魔法の世界ではそれが不可能に近い事なのもわかってる。
だが、これが嘘偽りない俺の本心なんだ。
俺は凜と蘭には変わらずにそのままでいて欲しい。
この世界では俺にとってたった二人だけの家族なんだ。
そう思うのも無理ないだろう。
だから俺は、出来るだけ二人が戦わなくても良い状況を作りたい。
そのための力ならレインに貰ったからな。
たとえそれが不本意極まりない力だったとしても! それが二人のためになるのなら、俺は躊躇うことなく行使する!!
「ゴブリン程度に苦戦するわけにはいかねぇんだよ!!」
俺は気合を入れ一歩踏み出す。
それと同時に、能力を発動した。
「”恐怖”ッ! ”万物拘束”ッ!」
相手を恐怖状態に陥れ足止めし、その隙に足元に開けた穴から鎖を放出しゴブリン二体を拘束。
地面を割る勢いで踏み込み一瞬にして二体に肉薄、勢いそのままに〈処刑人の剣〉を抜き放ち、居合切りの要領で二体の首を刎ねた。
【体術Ⅲ】と【剣術Ⅲ】のお陰か、初めての動きなのにかなりスムーズに身体が動いた。
ボトッと生々しい音を立てながらゴブリンの首が落下する。
死体が消えたのを確認すると、発動していた能力を解除した。
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レベルが上がりました。LV:24→LV:27
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目的通りレベルは上がった。
が、
「ぅ……っ、やっぱ、遠距離から殺るのと自分の手で直接殺るのとじゃ勝手が違うか……っ」
だが、こんなとこで立ち止まってる暇はない!
「ふぅ~~~~ッ、よしっ!」
俺はすぐさま気持ちを切り替えると、急いで凜と蘭を追いかけた。
途中途中、ドドドッとかパキッという音が聞こえてくる。
木々で視界が悪くて先が見えないが、一体何が起きているのだろうか……。
って言うか、あいつら離れ過ぎだ! どこまで行ってんだ!?
と、そのまま真っ直ぐ進んでいると、凛と蘭の声が聞こえてきた。
俺は聞こえた方に急いで向かい、ついに凛と蘭の居る少し開けた場所に出た。
「凛! 蘭! 大丈夫か!?」
「あっ! お兄ちゃん!」
「あっ! 兄さん!」
「そっちも終わったの? こっちも今終わったよ~!」
「私と凜ちゃんにかかればこのくらい楽勝だったよ~!」
くっ、一足遅かったかっ。
「……そっか。それは良かった。無事で何よりだ」
「「えへへ~~っ」」
まるで柴犬が飼い主に甘えるように、褒めてほめて~と身体をすり寄らせて来る我が妹たち。
そんな二人の頭をナデナデしつつ、恐らく戦闘があったであろう場所に目を向ける。
地面にはいくつもの小さいクレーターが開いており、所々氷の柱が立っていた。
またその周囲に目を向けると、焼き切れていたり氷漬けになっている木々なんかもあった。
「ここで一体何があったんだ……?」
魔法を使ったってことは分かるんだが、あの程度のゴブリン相手にいささか過剰防衛ではなかろうか。
まぁ、それで凛と蘭が傷つかずに済むっていうなら、全然オッケーなんだけどな。
「蘭、念のため周囲の確認を頼む。それが終わったら悪いけど、さっきのドロップアイテムを拾いに行くから付いて来てくれ」
「わかった! すぐに確認するね!」
「おう、任せた」
「お兄ちゃん、こっちのゴブリンのドロップアイテムも任せていい?」
「? 別にいいぞ」
「ありがと、お兄ちゃん!」
俺は凜に言われた通りドロップアイテムを回収するべく、恐らくゴブリンが死んだであろう地点へ向かった。
「お、あったあった――――って、これは……」
なるほど、凜だってイベントリを持ってるはずなのにわざわざ俺に回収させる理由はコレか。
「〈ゴブリンの魔晶石〉に〈ゴブリンの素材〉、〈ゴブリンコイン〉。後は〈棍棒〉と……〈ゴブリンの粗末な腰布〉……確かに、女の子ならこんなアイテムは持ちたくないよな。男の俺だって遠慮したいし」
ともあれ、素材は素材だ。
金になるかもしれないし、ちゃんと回収しておく。
「兄さん、確認終わったよ~! 近くには居ないみたい!」
「了ー解。それじゃ、移動しようか」
「「うん!」」




