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2.女神レインヴァレイ

「うっ……ぐ、いっ……てぇ」


 俺は激しい痛みを発する頭を押さえながら起き上がった。


 あ、れ? 俺はいったい……と言うかここは、どこだ?

 俺はわけもわからず辺りを見渡す。

 見渡す限り白い部屋……いや、空間か? どうしてこんなところに……。


 時間が経つにつれ次第に頭痛も治まっていき、思考回路が正常に働きだす。


 そう言えば、あの後、時限爆弾の爆発に巻き込まれて……死んだ……のか? 爆発に巻き込まれて? 死んだ? 俺が?

 ………………いや、俺()()が、か。


 俺は隣で倒れている妹達に視線を下す。

 そっと二人の首に手を当てて脈を測る。

 すると、ゆっくりと穏やかに、だが力強くトクン……トクン――と波打っていた。

 二人の脈を感じてほっと胸をなでおろす。

 見た感じだと外傷はないし、素人目だけど命に別状はなさそうだな。よかった。


 俺は安心したところで改めて周りを見る。

 本当に何もない。

 永遠と真っ白な空間が続いている。

 少なくとも、俺の知る限りこんな広大な空間は地球には存在しなかったはずだ。

 となるとやっぱり――

 

「ああ、本当に死んだんだな」


 途端に実感がわいてきた。

 確信がある訳じゃないし、何かこれと言った根拠がある訳でもない。

 ただ、どうしようもなくそう感じてしまった。


 あ~あ、まだやり残したことが沢山あったんだけどな。

 その中でも一番はやっぱり、彼女を作ってイチャイチャしたかったなぁ、と言う思いが強いかな。

 まあでも、不思議と嫌な気分じゃないんだけどな。

 最初は酷かった頭痛も今は感じないし。それどころか身体が軽いくらいだ。

 死後の世界って言っても悪い所って感じでもないし。

 ……まあ、天国って感じでもないんだけどな。

 でもここって多分『神界』って所だよな?

 手紙に書いてあったし。【異世界転生アンケート】って言うのが何かは知らないけど、それはこいつらが起きたら説明してくれるだろ。

 こいつら何か知ってる風だったしな。


 俺はそう思いながら、そっと二人の頭を撫でた。


「う……ん? ここ、は?」

「あ……れ? いつの、間に?」


 そう呟きながら起き上がる凛と蘭。

 俺は二人に声をかける。


「おはよう、凛、蘭」

「お兄ちゃん? おはよう」

「おはよう? 兄さん」


 身体は……大丈夫そうだな。

 俺はそのことを確認すると、とりあえず気になることを聞いた。


「さてと、なあ? 凛、蘭?」

「どうしたの?」

「何でも聞いていいよ?」

「そうか。だったら遠慮なく。――【異世界転生アンケート】ってなんだ?」


 俺がそう聞くと二人は顔を見合わせた。

 そして頷き合い、声をそろえて言った。


「「え~と、それは――」」

「それは私がお教えしますよ~」


 いきなり背後から声が聞こえてきた。

 俺は思わずビクッと小さく飛びはねる。

 そこには金髪ロングの女が立っていた。

 背丈は俺よりも少し低いくらいで、その二つのたわわに実った果実は、これでもかと言うほど自己主張をしていた。

 整った顔立ちの女性だ。

 確実に美人の部類に入るだろう。

 

 いや、はっきりと言って容姿なんてどうでもいい。

 問題はこいつが何処から来たのか、だ。

 俺は何度も人がいないか確認した。だが見つからなかったのだ。

 この何もない空間でどこかに隠れるなんて言うのは不可能だ。

 それなのにいつの間にか背後にいた。

 凛と蘭も驚いている。つまり二人も気が付いていなかったのだ。

 そんなことができるのか? この場にいる三人に気づかれずに一瞬で背後に移動するなんてことができるのか? 

 ……いや、出来るんだろうな。どうやったかは知らないが、何かそう言う手段があるんだろうな。


「うんうん! ちゃんと驚いているようですね~! 私は嬉しいですよ~!」


 そう言ってにこやかに笑う謎の女性。


「え~と? ……誰?」

「あっ! 自己紹介がまだでしたね~! 私の名前はレインヴァレイです~! 一応神様ですよ~!」

「……神様?」

「はい~! そうですよ~!」

「つまり、アンタが俺たちをここに招待したのか?」

「レインでいいですよ~! そうですね~、私です~!」


 はっはっはっ、そうかそうか!


「なるほどね、とりあえず一発殴ってもいかな? 女神様?」

「ええ~!? どうしてですか~!?」

「アンタが招待した、ってことは家に爆弾を送り付けてきたのってお前だろ?」

「え、え~と? どうして今そんなことを聞くんですか~?」

「返答はYESかNOだ」

「い、イエスです~」


 女神様はフルフルと右手を上げながらそう言った。

 若干涙目になっている気がしなくもないが、知ったことではない。

 これは間違いなく、


「……ギルティー」

「ちょ、ちょっとだけ待ちましょう~? 話せばわかりますよ~」

「ほう。アンタの送り付けてきた時限爆弾で死んだ、この理不尽な事実を話し合いで解決しようと?」

「イエスです~」


 そう言うとレインは弁明を始めた。


「【異世界転生アンケート】にちゃんと書いてありましたよ~」

「まず、その【異世界転生アンケート】って言うのが何かから説明してくれ」

「わかりました~。【異世界転生アンケート】とはですね~、私が不特定多数の人に贈ったアンケートですよ~。内容はその名の通り、異世界転生したいかどうか、です~。あとは、転生するならどんな力が欲しいか、などですね~」


 俺はレインの言葉を聞いて凛と蘭に視線を向ける。

 すると二人は頷いた。

 嘘はついていないってことだろうな。

 俺はそれを確認すると改めてレインの方へと視線を戻した。


「内容は分かった。それで? それになんて書いてあったって?」

「ちゃんと書いてあったんですよ~? 『当選した場合、通知と一緒に転生用の時限爆弾が付いて来ますが、ご了承ください』ってしっかりと」

「……………………なんだって?」


 俺はバッと勢いよく二人の方を見る。

 すると二人はテヘッと可愛らしく舌を出した。

 おい? マジで書いてあったのか?

 そんな馬鹿なことが書いてあるアンケートに応募したのか?

 

「……一応そのアンケート用紙……見せてもらってもいいか?」

「はい~、いいですよ~!」


 俺はレインから手渡されたアンケート用紙に目を通す。

 上から順に目を通していくと、一番下の応募要項の欄に今しがたレインが言ったことが一言一句たがわずに書いてあった。


「…………」

「どうですか~? 書いてあったでしょう~?」

「……ああ、書いてあった。何というか……すまん」

「いえいえ~、いいですよ~! どうやら狂夜さんは知らなかったみたいですしね~!」

「そうだよお兄ちゃん! お兄ちゃんに内緒にしてた私たちが悪いんだよ!」

「そうだよ兄さん! 兄さんは何も悪くないんだよ! 悪いのは全部私たちなんだから!」

「いや、確認しなかった俺も悪いからな。もういいよ。レイン、悪かった。話を先に進めてくれ」


 俺がそう言うとレインはぱぁっと眩しい笑顔を浮かべて、「はい~!」と元気良く返事をした。


「それでは早速、あなた方三人にステータスと能力を与えたいと思います~! 準備はいいですか~?」

「おう」「うん!」「はい!」

「それでは行きますね~!」


 そう言うとレインは胸の前でぱんっと手を鳴らした。

 すると、目の前に三つの光の玉が浮かび上がった。

 その玉はふよふよと揺れながら俺たち三人にそれぞれ近づいていき、吸い込まれるように溶け込んだ。


 おお! 凄いな!

 それでそれで? ここから何が起きるんだ!?

 何というかドキドキするな!


 だが、そんな俺の期待とは裏腹に何も起きなかった。

 

「……えっ、終わり?」

「何か変わったの?」

「何も感じないよ?」

「これで終わりですよ~?」


 驚くほどあっさりと終わったので、声に出してしまった。

 俺としてはなんかもっと、これが、俺の力なのか……ッ!見たいな感じを期待していたので、少しがっかり感があるな。

 まあ、痛かったり長過ぎたりするよりはましだけどさ。俺のドキドキを返してほしい。


「これってホントに成功してるのか?」

「はい~! それはもうばっちりと、ですよ~! チートですよ~! どんな能力かは転生した後のお楽しみですね~!」

「それなら良いんだが……」


 流石に、死んで転生したのに何も貰えませんでした、なんて事態にはなりたくないからな。


「それでは早速転生してもらいますが~、その前に何か聞きたいことはありませんか~?」


 質問、質問ね。

 何かあったかな。

 何かあった気がするんだが………………ああ、そう言えばあったな。


「そう言えばここに来た時、なんで俺だけ頭痛がひどかったんだ?」

「まずそこなんですか~? もっとこれから行く世界の情報とかじゃなくていいんですか~?」

「いや、それはこの後のお楽しみだろ?」

「そう言うことなら、いいですけど~。そうですね~、狂夜だけ頭痛に見舞われたのは恐らくですけど、爆弾を投げ捨てたからじゃないですか~?」

「そんなことで俺はあの痛みを味わったのか……」

「文句は技術者に行ってくださいね~? 恐らく神罰か何かだと思いますけど~」

「いや、文句はないよ。もう過ぎたことだしな」


 痛かった。確かに痛かったが、今はもう痛くないしな。

 今更とやかく言っても何も変わらない。

 それに凛と蘭にまで被害が出ていたのならまだしも、俺一人だからな。

 まだ許せるってもんだよ。


「それではもういいですか~? それじゃあ、行ってらっしゃいませ~!」


 レインがそう言うと、急に強烈な眠気が襲ってきた。


「これ、は?」

「安心していいですよ~? あなた方に害はありませんから~! 目が覚めた時はもう異世界ですよ~!」

「そ……か。また……な……」

「はい~! またいつかお会いできる日が来るのを待ち望んでおります~! 必ず、お会いしましょうね~!」


 レインのその声を最後に、俺たちは眠りについた。

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