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12.私たち、ドMだからっ!

 熊の魔物を倒した場所へとやってきた。

 だが死体は残っていない。

 あるのはドロップアイテムらしき物体だけ。


 倒した魔物の死体を処理する必要がないのは助かるが……一体どういう仕組みなのだろうか?

 魔物は殺すと死体が消えるのか? 魔物だけ? それとも他の生き物や人間なんかも消えるのだろうか?

 街で見かけた屋台には鶏肉なんかを扱っている屋台もあったが、ドロップアイテムというシステムがあるとわかれば話は変わってくる。

 例えば、『鶏を殺すと鶏肉がドロップする』としたら、わざわざ鶏の死体が残っている必要はないわけだからな。


 その辺りがどうなっているのかはわからないが、まあ、人間に関して言えば近いうちにわかるだろう。

 具体的には二日後――――化物退治決行の日には。

 

「さて、それじゃあ早いとこドロップアイテムを回収して帰るか。ここもいつまで安全かわからないからな」


 そう言いながら、地面に落ちているアイテムを拾った。

 落ちていたのは綺麗な色の丸い球と牙や毛皮などの素材らしきものが入った袋、それからその袋よりも一回り小さい袋だった。

 それらをとりあえずイベントリに収納した。

 中身の確認は”愛の巣”に帰ってからするとしよう。


「帰るか」

「うん! 帰ろ帰ろ!」

「お腹すいたー!」

「あっ、ちょっと待って」


 俺は歩き出そうとする凛と蘭を呼び止めた。

 呼び止められた二人は頭上に”?”を浮かべて首をかしげている。


「? どうしたの?」

「? 帰らないの?」

「いや、帰るよ。ただ、ここから歩いて帰るのって大変だろ? だから俺の能力を使おうと思ってな」

「お兄ちゃんの能力?」

「兄さん移動系の能力なんて持ってたの?」

「正確にはそうじゃないんだが……まあ、使い方次第ってやつだな」

「「?」」

「見てればわかる」


 そう言いながら俺は凛と蘭の手を握った。

 すると、凛と蘭は顔を真っ赤にして慌てたように口を開いた。


「おっ、お兄ちゃんっ!? どっ、どうしたの急にっ? うれしいけど……っ、こんなところでなんて……っ!」

「にっ、兄さんっ!? そんないきなりっ。……だっ、ダメだよっ……まだ、その…………こころのじゅんびが…………っ!」

「手を繋いだだけなのに反応おかしくないか!?」

「だっ、だってっ! いきなりだったからっ!」

「それもっ、こんなところで……っ!」

「いやこんなところでって……」


 ここ森だよな?

 いきなりだったのは謝るが、この場所の何がそんなにダメだったのだろうか?


「と言うか、なんでそんなに慌ててるんだよ? 今更手ぐらいで大げさな」

「大げさじゃないよ! 今日は、その、お兄ちゃんから誘ってくれたから……」

「兄さんからなんて、初めて……だし……」

「は? 誘う? 初めて? 何のことだ?」


 ますます意味が分からない。

 俺の妹たちはいったい何を言ってるんだ?


「もぅ……お兄ちゃんのいじわるぅ……」

「それを私たちに、言わせる……の……?」

「お兄ちゃんの鬼畜ぅぅ……! でも感じちゃうっ!」

「鬼畜な兄さんも……ううん、そんな兄さんだから……っ、わたしっ!」


 何やら危険なフレーズが聞こえた気がしたんだが!?

 つまりどういうことなんだ!?


 凛と蘭は、太ももと太ももの間に手を挟んでもじもじと擦りあわせながら、恥ずかしそうに言った。


「「あおかん……でしょ?」」

「ちげぇぇぇぇぇよッ!!」

「「え? 違うの?」」

「ッたり前だろッ!? ッンなわけがあるかッ!!」

「「えぇー! ヤらないの?」」

「ヤるかッ。第一ッ、俺たちは兄妹だぞッ! 近親相姦になるだろうがッ!」

「「そんなの今更だよ?」」

「そう思ってるのはお前らだけだからッ!」


 ぶー! お兄ちゃん(兄さん)のイケズーっ!と叫びながら頬を膨らませる凛と蘭。


 ようやく、ようやく合点がいった。

 ……いや、今でも腑に落ちないところは大量にあるが、とりあえずは理解できた。

 つまりこいつらは俺がその……誘っていると、そう思ったわけだ。



 ………………………………え? いや、バカじゃねぇのこいつら?



「手を繋いだだけで発想が飛躍しすぎだろ……。どうしてそうなった……?」

「てっきり、生き物を殺しちゃったお兄ちゃんが気を病んじゃって――」

「――人肌のぬくもりを求めてたのかと思って」

「心配してくれたのは嬉しいが、別に気に病んでなんかいないからな?」

「そうなの? でもこの際だからヤれるところまでヤっちゃってもいいんだよ?」

「凜ちゃんの言うとおりだよ。ここは日本じゃないし、それに”千里眼”で確認したけど近くに人も魔物いないよ? だから、見られる心配はしなくていいんだよ?」

「私たちなら、お兄ちゃんのどんな性癖でも受け入れるよ?」

「普通の人じゃできないプレイ、しよ?」


 上目遣いにそう囁く凛と蘭。

 正直、「しよ?」なんて直球に言われたのは初めてで、不覚にもドキッとしてしまった。

 だが、あくまでも俺たちは兄妹!

 ここは心を鬼にして断らなくては!


「ヤらねぇし、そんな心配もしてねぇよ。と言うかお前らの中で俺はどんな変態扱いなんだ。どんなプレイを要求されると思ったんだ……」


 俺は頭を押さえてそう呟いた。


「「屋外SM拘束血だらけ凌辱プレイ?」」

「………………」


 聞かなきゃよかった……。

 俺、人生で初めて『知らぬが仏』っていうことわざを異常なほど実感したよ。

 

 そのまま俺がショックで黙っていると、それをどう勘違いしたのか凛と蘭は顔を見合わせた。

 そして互いに頷き合うと、俺の方を向き、満面の笑みで宣言した。


「「大丈夫っ! 私たち、ドMだからっ!」」

「そんな心配一ミリたりともしてねぇよ……ッ!」


 凛と蘭の的外れな回答に、俺は唐突に頭痛に襲われ頭を押さえた。

 ダメだ。これ以上この話を続けちゃダメだ。

 さっさと帰って休もう。

 じゃないと頭痛で死ぬ……ッ。


「……帰るぞ。いいな?」

「う、うん」

「大丈夫、兄さん?」

「顔色悪いよ?」

「早く帰ってベッドで休も?」


 誰のせいだ誰の!と叫びそうになったが、ギリギリで踏みとどまる。

 言い返したら負けだ。

 それに話が進まない。


 俺は黙って、凛と蘭が俺に掴まったことを確認すると、能力を発動した。


「”拘束範囲指定:1m”」


 刹那、周囲の景色が一変した。

 目の前には別荘のように大きな家。

 とても見覚えのある家に、凛と蘭は目を見開く。


「えっ!? ここってもしかして”愛の巣”の敷地の中っ!?」

「どうやって一瞬で移動したのっ!? さっき移動系の能力は持ってないって言ってなかった!?」


 驚く二人を見て、とても気持ちのいい気分になった。

 いたずらに成功した子供のような感情だが、まあ、たまにはいいだろう。

 それじゃあ、早速ネタばらしでもするかな。


「”拘束範囲指定”は拘束した対象がどの程度の範囲を自由に行動できるかを指定する、っていう能力なんだ」

「行動できる範囲?」

「そう。そして、その範囲から外に出た場合、強制的に範囲内に転移させられるんだ。今回使ったのはその応用。あらかじめ俺自身をこの場所に拘束しておき、無限の範囲を行動できるよう指定しておく。あとは、好きなタイミングで行動範囲を縮めれば、強制的に拘束した場所まで転移できる、ってわけだ」

「おー! すごい! さすがお兄ちゃん!」

「能力も使い方次第なんだね!」

「だろ?」


 俺も派生能力選択中にこれを思いついたとき「おおっ!」って思ったからな。

 我ながら良く出来てると思う。

 名付けるなら、”(デミ)()転移魔法(シフト)”といったところだろうか。


 と、そんなことを考えていると、「ぐぅ~」という可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。

 振り向くと、そこには恥ずかしそうに顔を真っ赤にした凛の姿があった。

 どうやら、今のお腹の音は凛だったらしい。

 まあ無理もない。

 何故なら朝から何も食べてないんだからな。

 そりゃあお腹も空くだろう。


「さっさと無限食料庫解禁して飯にするか」

「う、うん。そーしよ」

「さんせー!」


 お腹を押さえながら恥ずかしそうに返事をする凛と元気よく手を挙げながら返事をする蘭。

 そんな二人を見ながら、俺は家の中へと入った。

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