転生したらまずステータス確認
ようやく転生しました(汗)
ここからが本編となります
と、いうわけで。
目が覚めたら幼児になっていましたとさ。めでたしめでたし。
…などと言っている場合ではない。
情報の土石流に飲み込まれた後、気絶している間に頭が情報を整理統合してくれていたらしい。おかげで今しがた目が覚めても酷い頭痛が続いている。頭痛で目が覚めたのなんて初めてだ。前世、つまり冒険者時代の酷い野宿含めてですらぶっちぎりで人生最悪の寝覚めだった。この驚くほど柔らかいベッドをもってしてこのザマである。
すぐにでも頭を労わり眠りたいが、頭痛が酷くて眠れない。なので新しい情報の摂取、主に頭に張り付けられた冷たい何かについての考察はひとまず放置して、情報を漫然と復習する。
俺、前世におけるルークという名の魔法使いは、光属性の才能のために冒険者として少ない稼ぎで便利に使い倒されトラック・ドンキーに撥ねられ死んだ。そして『神のようなもの』から「この世界に魔法を広めてほしい」と言われ、そのために記憶と才能はそのままにこの幼児…「まつだ・まさと」に転生した。
なんと家名がある。あの神様のような男は「身分制というものはない」とは言っていたが「それでも貧富の差というものはある」と言っていたし、幸先のいいことにどうやら俺はアタリを引いたらしい。
今俺が横たえられているベッドからもそれが伺える。こんな寝心地のいいベッドはお貴族サマの屋敷にだってそうそうないだろう。医者に診てもらえて、こんなところに寝かせてもらえる時点で間違いなく相当裕福だ。粗相でもしたらどうなるんだ、怖くて便所行きたくなる。
さて、あらかた記憶は引き継いでいるらしいことは確認した。前世の地理とかは微妙に怪しくなっているが、それは問題ない。あの神様のような男が忘れさせてくれたのかもしれない。となると気になるのは魔法の才能だ。
(【生命の光】)
強く念じ、光属性の回復魔法を発動する。
ちょうど自分自身が大怪我を負っているので、自分自身だけを対象にとって使用した。光魔法は怪我は治せても病気や毒には殆ど効果がなく、怪我の治療についても本職の聖属性の回復魔法には大きく劣るが、対象を一人に絞れば聖属性で複数人を対象に取った場合の概ね7割くらいの効果は見込める。
みるみるうちに傷が治っていくのが感覚でわかる。光属性の回復魔法はわずかな光を発するが、発動者自身を対象にとった場合は体の内側からの発光になるからそれほど目立たないし、ましてや今は着心地のいい「ねまき」も着ているし、やわらかいふかふかの「ふとん」もかぶっているから、まず外からではわからない。間違いなく人生勝ち組系の家だ、これは。
魔法の才能も、とりあえず回復魔法だけは使えることを確認した。最終的には「生命の光」を魔力が四分の一くらいになるまで使った。と言っても当然鍛えていないから元の魔力があまりなく、たった二回使っただけだ。それでも怪我の状態はぐっと良くなったはずだ。
しかし代償として頭痛が酷くなった。魔力の枯渇と魔法発動による負荷だろう。魔力が枯渇するということは魔力があるということであり、この世界にも魔法はきちんと存在できるようだ。早速怪我の治療という形で光魔法がそれなりに役に立っているのは嬉しいところだ。
この身体が大怪我をしていた原因だが、ボール遊びをしていて「トラック」なるものに撥ねられる事故に見舞われた…ということらしい。なんだか前世の死因に通じるものを感じなくもないが、もしやするとそれによって記憶と才能が覚醒したのかもしれない。さてこの「トラック」なる代物だが、「まつだ・まさと」の記憶からすると自走する荷馬車のようなものらしい。一体どういう仕組みで自走しているんだ。どうやら進んだ文明というのは本当らしい。
事故以前の「まつだ・まさと」の記憶も、それほど問題なく保持されている。「ほいくえん」なる、なんだ…乳母委託業のようなものがこの国にはあるらしく、そこに預けられるのが日課だったらしい。あとひと月もすれば学校に通うことになるところでのあの事故だったようだ。
学校に通えるというところからしてもやはり裕福な家の出なのだろう。
ところで、俺は6歳児が突然大人になったら周りの人に不気味がられるのではないかと思ったが、今のところは杞憂に終わっている。俺は確かに前世23年と今世6年を生きた大人に違いないが、しかし両親や医者など周囲の人々に見せる顔は間違いなく6歳児のそれだったのだ。殆ど意識することなく行われるこの切り替えに、心当たりが全くないわけではなかった。会う人によって性格…というか話し方が変わるなんてのは、前世の人生―長くはないが、極端に短くもないだろう―においてもあることだった。人とは元来そういうものだ。中身が大人になったが故に、むしろこの面が強く出たのかもしれない。
そも、俺が知っているこの世界の言葉は、この6歳児の語彙が全てだ。前世の俺しか知らない言葉や概念は、前世の言葉によってしか直接的に表現できず、それでもあえて表現しようとするなら6歳児の語彙を以って詳細に説明しなければならない。6歳児以上の物言いには、なりようもなかった。
そしてそれ以前に、最初に覚醒したときのように、この身体はちょいちょい俺の意思を無視して動く。親や、この幼児の身体が欲する物事に関してその傾向がある。それに、気の向くままに任せておけばこの身体はこの身体のやりたいように動く。「まつだ・まさと」の人格のほうだろう。「まつだ・まさと」はまだ俺を正確に認識できていないようだ。いずれはこの状態についても向き合っていかねばならないだろう。
さて、あらかた確認してだいぶ頭痛は引いてきた。まだ魔法由来のほうの中心に残ってるが、多少はマシになった。これ以上新しい情報を流し込むとまた気絶しそうだし、魔法を試そうにも頭も痛いし魔力不足も酷いし、ここはもう一度寝るように努めるとしよう…
え?主人公の名前「まさゆき」じゃなかったかって?ナンノコトカナー(目逸らし)
毎日更新は多分今日までです…