権助提灯9
さとと六助は二人で大変に楽しみましたがその後、六助がさとに尋ねます。
「さとさん、でも一体全体どうしてもんなに早く戻っていらしたんですか」
「ああ、それはね、六助、しょう太がそうするようにいったんだよ。『自分だけさとさんにろうそくを垂らされるご褒美をいただくなんて六助さんに申し訳ない。一刻も早くご自宅にお戻りなさって六助さんにもこの快感を味わわさせてやってください』ってね」
「ええっ、『自分だけ』ということはしょう太君もろうそくを垂らしてもらっていたと言うことですか、さとさん」
「そんなに大きな声を出さないでおくれよ、六助や。びっくりしちまうじゃあないか。まあ確かにしょう太にも垂らさしてもらったけれども……」
「そんな! ずるいです!」
「ずるいって言うけれどもね、六助や、だからこうしてお前にもろうそくを垂らしたじゃあないか」
「違いますよ、さとさん。そういう事じゃあないんです。僕がずるいと言った理由はですね、さとさんがしょう太君にろうそくを垂らした、そして今はここでさとさんは僕といる。ということはですね、現在のところしょう太君は一人っきりというこたじゃあないですか」
「それはしょう太がずるをしていることになるのかい、六助」
「当然ですよ! さとさん! しょう太君は今まさに、さとさんにろうそくを散々垂らされた挙句にたった一人で取り残されているということじゃあないですか。そんな風に放置させられているなんて羨ましいことこのうえないったらありませんよ」
「そうなのかい、正直にいうとね、六助や、あたしはね、お前やしょう太にろうそくを垂らすことはだね、結構楽しくてゾクゾクしたんだけれどもね、じゃあしょう太を一人置き去りにすることに興奮するかっていうとだね、別にそんなことはないんだよ」
「さとさんがどうかなんて関係ありませんよ。僕はしょう太君がそう言った状況に陥っていることに羨望の念を禁じ得ませんしね、おそらく、いや間違いなくしょうた君はほっぽられてさとさんに感謝していると思います」
「私にはちっとも実感できないよ」
「実感できなくていいですからね、とっととしょう太君の妾宅に戻ってください」
「そんな風にきつく命令しなくてもいいじゃあないか、六助」
「僕だって命令なんてしたくはありませんよ。僕は命令するより命令されることに喜びを感じる質ですからね。でも、しょう太君がそんないい思いをしているとなればもう居ても立ってもいられません。さあさとさん、急いで。ああそうだ、ろうそくを忘れちゃあいけませんよ。これがなくてはどっちらけですからね」
「わかったよ、わかりましたってば」
六助に厳命されてさとは再び別宅に向かう事になりました。