権助提灯7
しょう太に諭されてさとは自宅にいる六助にところに戻ることに決め、ろうそくを持って妾宅の玄関先でぼさっとしていた権助を呼び出します。
「権助、権助や、ぼやぼやしてないで早くおし。今すぐ六助のところに戻るんだよ」
「へえ、ご主人様。それにしてもずいぶん燃えていらっしゃったようですね」
「ななな、何を言うんだい、権助ったら。そんな風にはしたないことをおいいになるんじゃあありませんよ」
「何がはしたないんですかい、ご主人様。おいらはただ、そのご主人様がお持ちになっているろうそくが先ほどと比べてずいぶん短くなっちまっているようですから、ろうそくの炎はさぞ景気良く燃えていたんだろうなあとおもっただけなんですが」
「そそそ、そうなのかい、権助や。それならそれでいいんだよ。じゃあはい、このろうそくを持ちなさい。早く戻るとするよ」
「わかりましたよ、仰せのままに。しかしついさっき、しょう太さんのところにいたと思っていたのに、息つく暇もなく六助さんのところに舞い戻るって言うわけですか。いやはや、景気が良いと言うか、自分の思うままにと言うか、少し前までろうそくを消す消さないなんてことをけち臭く言っていたお人とは思えませんなあ。おいらは男を二人も侍らすかことが労力の無駄図解極まりないと思っちまうんですがねえ。いえいえ、悪いとは言ってはいませんよ。むしろ、商店を切り盛りするとなったらその位の勢力に溢れていなきゃあ駄目なんだなあと感心するくらいでして」
「あんまり余計なことは言わないでおくれよ、権助や。ところでだね、仮に、いいかい仮にだよ、このろうそくを使って、六助にろうを垂らして熱がらせたらだね、六助は喜ぶと思うかい」
「そんなこと、涙を流して大喜びするに決まってるじゃあないですか、ご主人様。おいらが請合いますよ。と言いますのもね、おいらは常々思っていたんですよ。六助さんは全てご主人様の言う通りにされている。一見何の不満もありゃあしないようですがね、実のところは色々欲求不満に違いないってね」
「本当かい、権助や。あたし、そんのことだとはちっとも思ってはいなかったよ。そうなんだったら、一刻も早く六助にご褒美を差し上げなくちゃあならないね。さあ、権助、急ぎましょう」
さとと権助の二人は風のように家路を急ぐのでした。