権助提灯12
しょう太の妾宅の玄関から出てきたさとが権助を呼びつけます。
「権助、権助や」
「はいはいここですよ、ご主人様。今回は馬鹿に早かったじゃあないですか。一人取り残された何とも言えないうらぶれ加減を楽しむ間もありゃあしませんでしたよ」
「お前が一人放置されていることを楽しむかどうかは問題じゃあないんだよ。はい、ろうそく。それじゃあ行くよ」
「行くとはどこにですかい、ご主人様」
「自宅だよ。六助のところだよ。決まってるだろう」
「決まってるのでございますか。慌ただしいですなあ」
「わかったらさっさとしなさい、権助。でだね、しょう太のやつが実に御立腹だったんだよ。『どうしてこんなのに早く戻ってくるんですか。もっと長い間放っておいてくださいよ』ってぶうぶう文句を垂れるんだよ。ひどいと思わないかい」
「いやあ、ご主人様、しょう太さんが怒るのも無理はないですよ。孤独を思う存分堪能しているところを邪魔されたんですからねえ。同じ男としてその気持ち、実によくわかるというものですよ。同情しますねえ」
「孤独といえば聞こえはいいけどねえ。だけども同じ男というのなら、六助も今まさに一人でいることを楽しんでいると思うかい、権助」
「そりゃあそうでしょうよ、ご主人様」
「じゃあ、今自宅に戻ってそのお楽しみをぶち壊しにしたら六助は怒っちまうかねえ」
「怒っちまうでしょうねえ」
「困っちまったねえ」
「自宅に戻るのをお辞めになさいますか、ご主人様」
「そういうわけにもいかないよ。しょう太が口を酸っぱくして指図してきたのだからね」
「指図されちゃいましたか、ご主人様。とても普段はあのような大店を切り盛りしているさと様のお言葉とは思えないじゃあありませんか」
「そう言わないでおくれよ、権助。あたしはね、今の今まで自分は人に命令するためにこの世に生を受けたものだと思っていてけれどもね、こうなってみると、命令されることがあたしの性に合っているんじゃあないかっていう気分になってきちまったよ」
「なってきちまいましたか、ご主人様。ああ、そうこうしているうちに自宅にお着きになりましたよ。はいどうぞ、ろうそくです」
「何だかちっとも気が進まないよ」
「そんなこというものじゃあありませんよ」
そんなことを言いながらさとは自宅に戻ったのでした。




