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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第16章】世界を変えるために!【覚悟を決めろ】

 師匠とフェンリルは話を終えるとすぐにエルフの集落へと向かっていった。浮かない顔のフェンリルは苛立ちからか何度も爪先で地面を叩き、師匠はニコニコと楽しそうに笑いながらフェンリルの背に捕まっていた。


 ウリエルとシルクスはそれぞれ、魔王城再建に向けた準備のためにと王の間から離れていった。いまや、王の間に残されるはエウレカ一人だけ。先程まで騒がしかった王の間が急に静かになり、少し寂しさを感じる。


 誰もいなくなったことを知ると、エウレカは静かにその手を正面に伸ばした。かと思えば次の瞬間、手のひらから白い炎が現れ、蝋燭の火のように揺れる。その炎はエウレカが禁忌とされる力を利用して作り出した魔法だ。


 かつては制御出来ず無意識のうちに魔族すら殺めたその魔法を、今のエウレカはほぼ完璧に操ることが出来た。その魔法で誰かを殺すことのないようにと、必死に鍛錬してきた。だが今回のドラゴン族との騒動で、エウレカは初めて本気で怒り、ドラゴン族一体を殺めてしまった。あの日以来、エウレカの夢には必ずと言っていいほど殺したはずのレッドドラゴンが出てくる。


「我は同類か?」


 人族を食らったとされるドラゴンに、怒りを抑えきれなかった。罪なき人を意識的に殺したドラゴンを殺したいほど憎んだ。けれどエウレカとて、過去に罪なき人を殺めている。それが意識的か無意識的かの違いだ。


 そしてキングス国では人族を守るためとはいえ、意図的にドラゴン族を殺めた。罪ある者であるとはいえ、命を奪うという行為そのものがエウレカは大嫌いだ。そんな大嫌いな行為を、不完全な状態で使用してしまった。その後悔は悔いても悔いても消えてくれない。


「それでも、許せぬのだ。お主達のしたことが、許せぬのだ」


 脳裏に過ぎるはエウレカに扮していたというドラゴン族。人族の悲鳴とビルを包んでいたまやかしの炎。そしてビル内部にあった意志を持って人や魔族を襲う炎と、各階に充満していた焦げ臭い煙。


 人族へと襲い掛かるドラゴンの爪を防ごうとすれば、感情の昂りに呼応するように顔に紋様が現れた。先に仕掛けたのはドラゴン族だ。そして、怒りに任せて発動した魔法により、ドラゴン族の体は爆発してその存在を消した。


「人族が何をした。彼らはただ、生きていただけではないか。我らだってそうじゃ。卵を割っただのドラゴンをさらっただの。それならば我だけを狙えばよい。どうして城にいた者達に手をかけた?」


 どんなに問うてもその答えは誰も知らない。エウレカは王の間で一人、葛藤する。ドラゴン族と自分が同じなのか、ドラゴン族を本当に殺していいのか。そして、ドラゴン族を殺めるための覚悟は出来たのか。


 できることなら殺したくない。もっと平和的に解決したい。一部の人族のように話し合うことで良くなるのなら、間違いなく話し合う道を選ぶ。だが現実は、ドラゴン族にはエウレカと話す意思すらない。戦うしか道は残されていないのだ。





 目を閉じれば、雷雨と共に王の間にやってきたドラゴン族の長の姿を思い出す。分厚い黒い雲と時間帯のせいで視界が悪かった。当たりを照らすは雷だけ。魔族の目をもってしてもその姿を捉えるのが限界で、怪我の詳細まではわからない。


『子孫繁栄しか、脳がない。そのためなら、手段を、選ばない。真実を、ねじ曲げてでも、メスドラゴンを求め、珍味を食らう……欲望に、忠実な、群れとなって、しまった』


 そのためにシルクスが狙われている。それを拒否したのは、シルクスが大切だからこそ。そしてシルクスもまた、かつて長に会いにいった際にドラゴン族側へと行こうとはしなかった。


『守れず、欲に飲まれ、すみません。どうか、あの子は、自由に……』


 ドラゴン族の長が守ろうとしたのは誰だろう。あの謝罪は誰に向けられたものだろうか。その先に続く「あの子」には心当たりがあるが、ドラゴン族が身を呈して守ろうとした人物は知らない。


『ドラゴン族の卵はな、愛情でかえるのさ。げど、ドラゴン族は賢いせいか感情面はダメだ。愛情がわがんねぇがら、かえらねぇ』


 ドラゴン族は最低限の喜怒哀楽程度ならある。エウレカの知るドラゴン族はそうだった。卵を割られたことに怒り、シルクスがいないことを悲しんでいた。だというのに、ドラゴン族は愛情がわからないらしい。


 愛情を注がれずに育ったがために、皆愛情がわからないのだろう。だがそれでも他人を思いやる気持ちくらいはないのだろうか。ドラゴン族の感情表現は本心からではなく、長年生きてく上で身についたものだったのだろうか。


「愛情を知らない。欲望に忠実。話し合う意思もない。話し合う気のあったドラゴンは死んでしまった。…………したことは許せぬ。けれど、なるべく殺しとうない。こは我が甘いだけなのか? 本当に、手加減せずに戦い、殺すしかないのか?」


 力で支配することを嫌うエウレカにとって、今回の一件は胸が痛むものである。襲われれば反撃くらいする。けれど、殺したのは数える程。戦う覚悟を決めるには、エウレカは少々優しすぎる。


 強大な力を見せて他人から恐れられたくない。実際にドラゴン族と戦うエウレカを見て、itubeが荒れたこともある。強い魔法を扱う上に魔力の底がないなどと知れば、人族だけでなく魔族もエウレカと距離を置くだろう。それが何よりも怖い。


「それでも、やるしかない、と。覚悟を決めねばならぬと。師匠……そういうことであるな?」


 ドラゴン族の長が残した言葉の意味も、師匠の選択も。ドラゴン族との騒動が終わればわかるだろう。そしてそこに天使族と悪魔族が絡んでいるらしいことも、想定できる。


 王の間で一人、エウレカは自問自答を繰り返す。ドラゴン族と戦う覚悟を決めるため。そして、魔族と人族をドラゴン族の手から救うために……。

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