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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第16章】世界を変えるために!【師匠の真意】

 エウレカは天使族と悪魔族の間に生まれた、「禁忌の子」と呼ばれる存在だ。そのおかげで白魔法と黒魔法、さらにその二つを合わせた「無」と呼ばれる魔法を扱える。けれどそんなエウレカが自身の問題を解決するために城を離れたところで、ドラゴン族に対抗できる者が減るだけである。


 それを知っているはずなのに天使族と悪魔族の所へ行くように告げる師匠。その顔はまるで般若のようになっていて。とても先程まで笑っていたエルフと同一人物とは思えない。


「行ってどうするの? いくら師匠と言えどもエウレカを危険に晒すのはちょっとねぇ」

「おらだってこだこど言いたかねぇ。だけんちょも、ドラゴン族に対抗すんなら、おらより天使族と悪魔族のが詳しいんだべ」

「……そういえば天使族と悪魔族も、古くから生きる種族だったね。エルフ族である師匠様は何も知らないの?」

「エルフは知識しかねぇ。そりゃ魔法くれぇは使えっげどな、戦闘向きじゃねぇべ。昔から、ドラゴン族に対抗するはエルフじゃねぐで天使族と悪魔族だよ。必要な知識だげ、エルフが教えだげどな」


 ここにきてエウレカは気付く。先程、師匠は「エルフ族が対抗策を知ってると思ったか」とは言ったが「知ってる」と断言まではしていない。師匠が知ってるのはエルフ族に伝わる知識だけ。実戦の方となれば、実際に戦っていた天使族と悪魔族に聞くしかないのだろう。


 エウレカは本来、天使族にとっても悪魔族にとってもその存在を良しとされない。師匠も出来ることなら行かせたくはないだろう。だがそれでも今は、天使族と悪魔族を頼るしかないのだ。


「天使族と悪魔族はドラゴン族と戦っていたのか?」

「んだ。もう何百年何千年も前の話だけんちょも、言い伝えくれぇはあましとるべ」

「確証がないではないか!」

「んないじやげんな。言い伝えだけじゃねぇべ。おら達の新しい研究によればだな、天使族と悪魔族の協力はドラゴン族に対抗する術になんだ」


 天使族と悪魔族にどのような言い伝えがあるかはわからない。その言い伝えが正しいかも、本当にドラゴン族についての言い伝えがあるかも不明だ。だが天使族と悪魔族がドラゴン族に対抗する手段となれば、話を聞かないわけにはいかない。


 問題はエウレカがいない間魔王城をどうするかだ。かつてゴシェンロン山へ向かった時のようにすぐに行って帰ってこれはしない。エウレカには人族との話し合いや魔王城の修理など、やるべきことが山ほどある。


「なぁに、留守はそこのドラゴンさんが守ってくれんべよ」


 師匠が指で示したのは、メイド服を着たシルクスだった。





 シルクスは獣人に見た目を似せているだけのドラゴンだ。だがドラゴン族でありながらも魔王城生まれ魔王城育ち。ドラゴン族と関わったのはエウレカの一件でのみ。もっともドラゴンらしくないドラゴン族とも言える。


 先日、エウレカが天使族と悪魔族に追われた際には、見た目をエウレカそっくりにすることで一時的に魔王城の留守を預かった。確かにシルクスであれば相手がドラゴン族であってもそれなりに戦うことが出来るだろう。


「エウレカとウリエルは天使族と悪魔族のとごさ行っでごい。おらはフェンリルと一緒にエルフの集落を回る」

「なんで俺が入ってんだよ!」

「フェンリルはずなぐなれっど? 文献の他に食用植物さごでっしり持って来るべ」

「……フェンリルは大きくなれるから、文献の他に食用植物を沢山持ってこれる。だそうだ」


 師匠の言葉をエウレカが標準語に言い替える。魔王城では現在、中庭で植物の栽培をしている他、近隣の草原から食べれそうな食物を調達することで栄養を補っている。師匠は栽培に時間がかかることを見抜いているようだ。


「運搬要員かよ! つか、よく今のわかったな、エウレカ」

「これでも同じ里で育ったからのう」

「……他の集落のエルフもこんな感じか?」

「うむ。僻地が故にその地域独特の言い回しが多いぞ、エルフ族は。標準語を話せるのは都市部にでてきた珍しいエルフ族だけじゃ」

「ふっざけんな!」

「そこを頼む。陸地であれば長距離をすぐに移動できるお主にしか出来ぬのだ」

「……貸しだからな。ま、なんとかなるだろ。心強い魔王軍が一人いたわ、四天王に。もう怪我から復帰してるだろうし、戦いを待ちわびてるはずだぜ」


 口は悪いが頼み事を断らない。ついでに、留守を守れそうな四天王を一人思いついた。エウレカもフェンリルと同じ魔族を頭に思い描く。もちろん、物をよく壊すエルナではない。


「でもやっぱり、エウレカと僕だけで行くのは危険かな。エルフ族の研究がどこまで伝わってるかもわからないし」

「なら、おら達がエルフの里回ってる間に工事の日程さ決めとけ。んで、おらが帰ったら一緒に行くべ」

「それなら少し安全、かな。掟が無くなったと言ってもこの前みたいに攻めて来る奴もいるだろうし、エウレカの不在は少ない方がいい。なるべく早く帰れるように行動しなきゃ」


 エウレカは魔王である。魔族を統べる者である。動画でこそ情けない姿も見せているが、本来は多種多様な魔族をまとめるだけの実力を持つ。エウレカの不在は魔王城を、そして魔族の世界を危険に晒す。


 すべきことは決める。エウレカにとってそれは覚悟を決めることでもある。


「出来る限り生かす道を。それが無理なら、彼らが我らや人族に手を上げるようなら……我はもう、手加減などせぬ」


 エウレカの手が頭上へと伸びて空を掴む。その目は少しも笑っていなかった。

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