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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第15章】魔王様の質問コーナー!【ショウ・マスト・ゴー・オン】

 時計が18時を示すとエウレカがカメラに向けて笑いかける。その様子がパソコンを通じて世界中へと配信されていく。チャット欄に寄せられたエウレカ宛の質問を読み上げるのは撮影者でもあるシルクスだ。


「我こそは、130代目魔王、エウレカだ。我が偽物だと思う者は魔王城まで来るがいい。本物かどうか確かめられるぞ。……というわけで、質問に答えていこうと思うぞ。さあ、チャット欄に我への質問を書き込むのだー!」


 エウレカの声を合図に、凄まじい勢いでチャット欄に質問が書き込まれていく。


『魔王城の再建はどれくらい進んだんだ?』

「残念ながら瓦礫を片付けるところまでじゃな。せっかくなので皆に見せよう。シルクス! ……このように、天井は相変わらず無く、壁もひび割れたり穴が空いたりしておる。民は安全な場所で雨をしのいでおるので安心するがよい」


 エウレカの声に応じて、シルクスが固定していたカメラを動かす。上を映せばそこに空を遮る物はなく、壁を映せばそこには不自然な穴やひびがあらわとなる。かつて王の間にあった瓦礫を片付けるのが限界だったのだ。


『魔王様の身長は?』

「たしか……165cmじゃな」

『血液型は?』

「血液型? なんじゃそれは。そのようなものは聞いたことないのう。すまぬ。『わからぬ』が答えじゃ」

『誕生日いつ?』

青雨(せいう)の月、第十七日」

「魔王様、人族にわかるように言ってください」

「なぬ! あ、そうか。月の言い方が違うのだな。えーとじゃな。…………6月。6月17日が誕生日じゃ」


 基本的なプロフィール一つさえ、人族と魔族で違う。血液型は魔族にはなく、月日の言い回しが若干違う。同じ世界同じ時間軸で生きているのにこうした差異が生じるのは不思議である。


『1番仲のいい魔族は誰?』

「フェンリルかのう。あやつが一番話しやすい。ウリエルはどっちかというと保護者に近いからのう」

『ドワーフの子がこれまでに壊してきた物について教えて?』

「エルナのことかな。扉の破壊は数え切れぬほど、壁や柱の破壊も月に一度はやらかすし……もう諦めておるのう」

「魔王様、それはエルナに対して失礼なのですよ!」


 エウレカがエルナについて答えた直後のことだった。水色の物体が閃光のように王の間に飛び込んできたかと思うと玉座に飛び乗り、エウレカに体当たりする。その衝撃に、エウレカは玉座の上でバランスを崩して座り込んでしまった。


 現れたのは10歳前後にしか見えない小柄なドワーフ族のエルナ。ツーサイドアップの髪はアイスブルー。魔族の証である赤い目はどんぐり眼。たった今チャット欄で話題に上がっていた張本人は顔を真っ赤にしてエウレカのことを睨んでいる。


 実はドラゴン族が襲撃した際に、王の間と廊下を仕切る木製の扉は破壊されていた。そのまま居住区や中庭の整備を優先したため、王の間には未だに扉がない。それ故にエルナの接近に誰も気付けなかった。


「諦めるなんて酷いです! エルナ、これでも魔王様のことを思って……」

「そうやってすぐに突進するから物を壊すのだと思うぞ?」

「それはエルナの種族が怪力だからです」

「そうか? エルナ以外のドワーフは誰も物を壊したりしないのだがのう」


 エルナはドワーフ族由来の怪力を言い訳にしているが、これほどまでに物を壊すのはエルナだけ。しかも壊す理由が魔王エウレカを思っての善意によるものだから叱るに叱れない。


 敵襲を知らせようとしてドアを壊してしまうのはエウレカを思ってのこと。敵と戦って壁や天井を破壊することもあるが、それはエウレカを守るため。エウレカ思いの部下であるという点ではいいのだが、少々物を壊しすぎるのが欠点だ。


「そして今は生放送中じゃ。頼むからそこをどいてくれぬかのう?」

「えーと、生放送中、なのですか?」


 エウレカがバランスを崩し、その代わりに玉座に立つエルナ。その小さな体がカメラに映り込む。エウレカの言葉でカメラの存在に気付いたエルナはこれまで以上に顔を赤くした。


「なんで言ってくれないのですか!」

「いや、お主が生放送を見て突撃しただけじゃろう?」

「あっ! そういえばエルナが見てたの、魔王様の生放送でした。それで、エルナのこと言われて、気がついたらここに……」

「完全にエルナのリサーチ不足じゃのう。それにお主、今日は当番じゃろう?」

「何の当番で……あっ! そうでした。エルナ、まだ仕事中です!」

「何故仕事中に生放送を見ていたのかまでは聞かぬ。早く仕事に戻るのだ。生放送は仕事が終わってから見るのだぞ?」


 どうやらエルナは仕事中なのに生放送を見ていたらしい。エウレカに正論を言われ、凄まじい速さで玉座から、そして王の間から去っていく。


「相変わらず嵐のような奴じゃのう」


 エウレカは小さな声で呟いてため息をつくのだった。





 エルナの乱入の直後、チャット欄はエルナに対するコメントが多数書き込まれ質問が埋もれるという事態が発生した。どうにかチャット欄のログを辿り質問に答えることでコーナーの進行を続けていたエウレカだったが、ついにその進行を妨げようとする事態が発生する。


 始まりは23時頃。質問に答えるエウレカの体がグラりと前のめりに倒れかけた。既のところでエウレカ自らが体勢を立て直すも、再び体が倒れそうになる。カメラを見る目はとろんとしていて今にも閉じてしまいそうだ。


 エウレカの質問コーナーを妨害するもの。それは、エウレカ自身に襲いかかる睡魔だった。


『エルナちゃんについて教えて』

「エルナはらな。ちょっと力が強くれ、ドジらけろ、とーってもいい子なのだぞ」

『ウリエルは今何してるの?』

「ウリエルはー、ちょーっと、用事があってらな。今は城でないところにいるぞー」

『フェンリル見たいです』

「フェンリルはなー、ウリエルと一緒に出かけれしまっらのら。戻っれきたら、見せるろー」


 シルクスが読み上げるチャット欄の質問に答えてはいるのだが、その呂律が怪しい。欠伸を堪え、うつらうつらしながら話しているものだからどこかボケっとした印象を与える。だがそれでも質問に答えるのを止めようとはしない。


『エウレカさんの師匠はどんな人なんですか?』

「師匠はらな、エルフなのらぞ。ピンクの髪をしたエルフれな、笑うと実に子供っぽいのら。訛っているろも特徴かのー」

『エルフはみんな訛っているの?』

「方言を話すエルフが多いぞ。エルフはいくつかの僻地に住んでいれな、集落によっれ言葉が異なるのらー」

『魔王様、寝ぼけてる?』

「大丈夫ら。まらまら、らいひょーふ」


 本人は「大丈夫」と言い張るが全然大丈夫そうには見えない。呂律が回らなくなり、何を言っているのかわからなくなってくる。前後に不規則に揺れる体はついに玉座の上にしゃがみこんで本格的に船を漕ぎ出した。


 天井代わりに広がるは満天の星空。日は完全に沈み、数えきれない程の星が空に散らばるような時間である。普段のエウレカであればとっくに夢の中にいる頃だ。


「魔王様。そろそろ限界かと」

「なにを言っておるのら。まだ全ての質問に答えていないぞ。早く……」

「魔王様」

「む……」

「ま、魔王様?」

「うむ……」


 眠かったのを必死に堪えていたのだろう。ついにエウレカは玉座の上で、抱き枕を両手で抱えながらスヤスヤと穏やかな寝息を立て始める。もうシルクスの声は届いていない。


 パジャマ姿で抱き枕を手に寝る。普段であれば誰も見ることの無い、エウレカの貴重な寝顔。その眠りを妨げる訳にもいかず、シルクスはエウレカの体にブランケットをかけてやった。


「予想はしていましたが、こうなった時にどうするかは聞いていません。というわけで……魔王様が目覚めるまで、私が質問に答えましょう。答えられるもののみ、ですが」


 エウレカの眠りを邪魔するわけにはいかない。そう判断したシルクスが選んだのは、自らが代わりに質問コーナーを進行するというものだった。

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