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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第14章】狙われた魔王様!【ベストを尽くせ】

 ウリエルは青空の下で必死にその翼を羽ばたかせていた。一秒でも早く追いつくためには少しでも速く大きく翼を動かさなければならない。エウレカの元へと急ぐあまり、羽ばたくたびにその翼から羽根が抜け落ちていく。


 右手から血が止まらなくても、翼から羽根が抜け続けても、ウリエルはエウレカを探すことを止めない。白魔法によって強化した視力で空に地上に目を凝らす。翼だけでなく足もばたつかせ、少しでも早く移動しようと試みる。


 空から見る地上は不思議な光景だ。先程までいた魔王城とその敷地は既に手のひらサイズにまで小さくなり、あっという間に遠のいていく。四方八方に目を向けてはいるが、今のところエウレカらしき人物もエウレカの元に訪れたという天使族と悪魔族の姿も見えない。


 黄緑色だった大地は灰色に、やがては濃い緑色へと地形の変化に合わせて大地の色が変わっていく。ウリエルが目指しているエルフの里までもう近い。ウリエルは速度を維持したまま高度を落としていった。


 魔王城からやってくるまでの間に、綺麗な翼はボロボロになっていた。羽根がたくさん抜け落ちたせいだろう。羽が綺麗に並んでいた翼は不自然に羽が欠けたみすぼらしい翼へと変わっている。


 右手からはもう血が流れていない。が、手のひらに出来た細かな傷跡は残っており、微かにだが血が滲んでいる。一部の傷跡にはレンズの破片が刺さったままで、見ているだけでも痛々しい。


 右手と翼を犠牲にしてたどり着いたのは、とあるエルフの里の近くにある森の中。針葉樹で出来たその森には冷たく重い空気が蔓延っている。遠くから聞こえる話し声を頼りに、出来るだけ気配を殺して近づいていく。ようやく目にしたのは、少し奇妙な光景だった。


 傷だらけのエウレカが針葉樹にもたれかかっている。エウレカの目の前には麦わら帽子を被ったエルフが立ちはだかる。その近くでは天使族と悪魔族が何やら言い争いをし、互いに胸ぐらを掴んでいる。状況のわからないウリエルは勘を頼りに敵を見分けることしか出来ない。





 エウレカは瞬きをした。痣だらけの手で目を擦り、頬をつねる。だが何度目を凝らしても目の前には一人のエルフがいる。肩につくかつかないかの微妙な長さをしたピンク色の髪を項で束ねて。聞き覚えのある声が天使族と悪魔族目掛けて吠えている。


 訛った話し方。標準語に直してもイントネーションが、アクセントの位置が、少し変わっている。そんなエルフはふいに後方にいるエウレカへと顔を向け、嬉しそうに笑った。


「エウレカ。おかえり」

「し、師匠……」

「立派さなっだな」


 それはエウレカが幼き頃に様々なことを教えてくれた、師匠と呼ばれるエルフだった。髪の長さや服装こそ微妙に違うが、それ以外はほとんど当時と変わりない。似合っていない麦わら帽子を被っているくらいのもの。


 木の幹に体を預け、全身の力を抜く。全ての攻撃をかわさずに受け止めたせいか、全身傷だらけだ。もう立ち上がる気力もない。それでもエウレカの目はまっすぐに天使族と悪魔族の方を向いている。


「魔法の研究者だかその禁忌の子の保護者だか忘れたけどさ。だからって僕達を攻撃するのは無いんじゃないの?」

「いえ、こちら側に非があります。無傷でという約束を破り、元気をなくすにしては過剰に攻撃したのは私達です」

「悪魔のくせに随分お堅いねぇ。禁忌の子なんていなくなるべきなんだからいいじゃん」

「そんな簡単に死ぬお方ではないと思おますが……不自然な怪我を追求されても知りませんよ?」


 枝木の山に埋もれていた天使族と悪魔族はどうにかそこから脱出する。かと思えば今度は味方同士で言い合いを始めてしまった。仕事の責任だとかエウレカの怪我に対する責任だとかを互いが互いのせいにしている。


「師匠……どうして、ここに?」

「おめが危険じゃねぇって証明するためさ、ここに来だ。おめの『無』が危険じゃねぇって、生まれた禁忌の子を殺さなくてもいいって、伝えるためさ研究を続けてきたんだべ」

「……でも、麦わら帽子は、さすがに、どうかと、思うぞ?」


 激痛で喋るのも辛いはずなのにエウレカは笑う。師匠の麦わら帽子を指さして穏やかに笑う。その姿はそんじょそこらの魔族と何も変わらなくて。エウレカも今を生きる一人の魔族なのだと、師匠は痛感する。


 エウレカが「禁忌の子」たる所以は天使族と悪魔族の間に生まれたから。天使族と悪魔族の間に生まれたが故に危険な魔法「無」を発動出来るから。たったそれだけのこと。


 その魔法がコントロール可能であれば、きちんと制御出来れば、エウレカは危険因子ではなくなる。それを示すために今、師匠はエウレカの前に現れた。よく見ればその背には古びた本やボロボロの紙束がこれでもかと入ったリュックがある。


「似合っでねぇが?」

「うむ。似合わなすぎて笑えるぞ」

「カスかだってんじゃねぇ」

「師匠に似合うのは、麦わら帽子ではなく紙とペンであろう」


 エウレカの言葉に師匠はニシシと歯を見せて笑うだけだ。そんな師匠の背後に何かが現れた。太陽光を背にしているせいか、顔が暗くてよく見えない。わかったのは、天使族と思わしき白い翼だけ。黒いシルエットが師匠の頭に手を伸ばす――。

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