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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第12章】魔王様は良い子の味方!【声のする方へ】

 炎に包まれた高層ビル。その屋上にどうにか着地したエウレカはすぐさま違和感を覚えた。ビルを燃やしているはずの炎は熱を持っていないのだ。けれど確かに今いるビルから物の焦げた匂いがする。


 エウレカが無傷のまま屋上に辿り着けたのは予め天使族であるウリエルにより回復魔法をかけれていたから。だがそれを抜きにしても炎が弱く、火傷覚悟で炎の中に指を突っ込んでみても何も感じない。


(ビルを包む方の炎はまやかし。夢を見ているわけではなさそうじゃ)


 屋上に降り立ってもエウレカは冷静だった。高層ビルを包み込む紅の炎はただの幻影。触れても火傷などしないが、炎に包まれた場所に好んで入ろうとするものはまずいないだろう。人避けにはもってこいだ。


 この炎は水で消すことが出来ない。幻影を発動している術者を探し出し、直接叩くしかない。ビル外側の火災は幻影だから後回しにするとして、問題はビル内部の火災にあった。


 建物内へと通じる階段からは音が聞こえる。様々な物音が歪に重なり合って出来た、耳が痛くなるほどの騒音だ。エウレカにとって、誰がなんのために始めたかはどうでもいい。大切なのはいかに犠牲を少なくするかだ。犠牲を減らすためなら自らが傷を負うことも覚悟している。


「ひとまず降りるしかなかろう」


 ふうっと息を吐いてから視線を下に通じる階段へと向けた。騒動を起こした犯人も助けを呼ぶものもビル内にいる。ならば行くしかないではないか。そう自らを奮い立たせて、エウレカは階段を降り始めるのだった。



 階段には今何階にいるのかを示すプレートがついており、それによるとこのビルは6階建てらしい。だが階段を降って真っ先に気になったのは周囲の状況ではなく耳を塞ぎたくなるほど大きな音だった。


 エウレカがこれまで聞いたことの無い大音量で建物内に響くジリリリという警報音。おもわず耳を塞ぎそうになるがかろうじて踏みとどまる。耳をつんざくような警報音に紛れて、6階から人の悲鳴が聞こえたのだ。勢いで降ろうとした体をどうにか引き返し、すぐさま今いる階の廊下へと向かう。


 ツルツルとした見たことの無い素材で出来た床。天井に備え付けられた照明は全て光を失い、非常灯だけが緑色に輝いている。行き止まりまで真っ直ぐ伸びる廊下とそれに面するように規則的に並ぶ何枚かの扉。悲鳴が聞こえたのは数ある扉の中でも最奥に位置する部屋だった。息を荒らげたエウレカが今、取手を掴む。





 ノックすることも忘れて扉を開けた。そしてそのことをすぐさま後悔する。


 その部屋は会議室のようで、部屋のど真ん中には大きな楕円形のテーブルが置かれている。テーブルを囲うようにいくつもの丸椅子が並べられ、部屋の左右にはホワイトボードなるものも存在する。


 会議室の中にいたのは人族の女性だった。赤いくせっ毛は後ろで一つに束ねられ、丸眼鏡越しに見える目は琥珀色。その首にはカメラをぶら下げている。そんな彼女は、エウレカの姿を見るやいなや甲高い奇声を上げた。


「来ないで、来ないで。お願いだから……」


 いくら鈍感なエウレカとて、何に怯えているか気付かない程愚かではない。それと同時にノックを忘れたことと人族に対する配慮を怠ったことに気付き、激しく後悔する。だが後悔しても始まらない。


 エウレカがまず初めにしたのは自らの外見を変えることだった。エウレカはハーフであることを隠すために普段から擬態している。表向きの姿を変えることなど容易い。だが部屋の隅で怯える彼女を落ち着かせる姿となると見当もつかない。


「我は、火災を起こした奴を探しておる。などと言っても、同じ姿では説得力がないかのう」


 こんなことをする犯人なんて限られている。エウレカの予想が正しければ、その犯人はエウレカと同じ容姿同じ声で事を起こしたはずだ。パッと見では区別なんてつくはずがない。


 エウレカは自らがエウレカであると示すためだけに、その体を灰色の光で包み込んだ。次の瞬間、光の中でエウレカのシルエットが変化していく。灰色の光が消え失せた時、そこにはドラゴン族と対峙した動画で見せたもう一つのエウレカの姿があった。


 右から生えるはフワフワとした白い天使族の翼。左から生えるはコウモリのような形をした黒い悪魔族の翼。左右異なる翼を生やしたその姿に、彼女の視線は釘付けだ。


「我は事を起こした犯人を探しておる。お主達被害者を助け、この忌まわしき炎を止めるために」

「あの……」

「べ、別にお主に危害を与えるつもりは無いのだぞ。そ、そうだ。お主、怪我はないか? もし怪我をしていれば我の魔法で治そうと思うのだが」

「あのー」

「この姿だと逆に怖いかのう。かといって人族の見た目にしたところで魔法を使えばボロが出るじゃろうし」

「あの! え、エウレカ様、ご本人、ですよね」

「まあ警戒するのも無理はな――ん?」

「ドラゴン族と戦った時のエウレカ様の姿、ですよね。ほ、本当に、本物の……」


 黒い巻角を持つ典型的な獣人型魔族の姿に怯えていた女性は、背中から2種類の翼を生やしたエウレカに目を輝かせた。気のせいだろうか、女性のカメラがエウレカの顔を捉えているように見える。


 非常事態でなければこのままゆっくりと会話して女性の警戒を解いただろう。幻影とはいえ高層ビルが炎に包まれ、ビル内部でも火災が起きていると思われる今、のんびりしている余裕はない。


 ビル最上階にあるこの会議室ですら煙たくなってきている。ビル内部に存在する本物の火が少しずつ建物を侵食しているようだ。気がつけばエウレカは、部屋の隅に突っ立っていた女性の手を取り、会議室の外へと走り出していた。

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