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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第11章】人族との話し合い【小さな一歩】

 条件付きの休戦。それは文字通り、条件付きではあるが休戦するというもの。条件という制約こそあるが、一応休戦協定ではある。あえて条件を付けたのは、人族を守るため。


「人族を嫌う魔族が魔王となったら、また人族との共存に反対するものが政治的権力を握ったら。つまり人族を良しとしないものが魔族の上に立つこととなったら、この協定は破棄させてください」

「それはこれまでの争いのきっかけが当時の魔王だったことに起因しておるのかのう」

「人族はかつて、魔族に苦しめられました。過去の争いがそれを物語っています。今私が話しているのだって、今の魔王がエウレカ殿だからです」

「はたしてそれは魔族だけに言えることかのう?」


 穏やかだった赤い目が鋭い光を帯びてビルドを射抜く。笑顔で誤魔化しているがその瞳は笑っていない。エウレカの隣に座るウリエルがノエルとビルドを交互に見る。


「そもそもの襲うきっかけは、人族と魔族の小さな喧嘩だったそうです。いつしか喧嘩は互いの領地を奪い合うものとなり、争いが長期化するにつれてその名目が変わってきました」

「名目?」

「人族は魔族と魔物を束ねるとされる魔王の排除を目的としました。魔族は人族を全て敵とみなし、その殲滅を目的としました。けれどそもそもの始まりは……人族と魔族を襲った魔物です。人族も魔族も、相手のせいにして互いを憎み続けていたのです」


 魔物は魔法を扱える動物である。世界中に生息する様々な姿形のか魔物達。その存在に時に苦しめられ、時に救われてきたのは人族だけではない。エウレカが魔物の王ではないと宣言したのは一番初めの動画だ。


「魔物は古来より存在しました。動物と共に魔物も、人族や魔族より先にこの世にいました」

「それはそうだが……」

「人族だけでなく我ら魔族も、魔物に襲われました。魔物を食することで生きながらえてきました。人族と魔族の違いは魔法を使えるかどうかと見た目の違いだけ。では、我らと同じく魔法を扱える勇者はどうして人族に襲われないのですか? 魔法が脅威だというのなら、勇者も人族に憎まれるはずでは?」


 エウレカの代わりに言葉を紡いだのは天使族であるウリエル。その言葉に嘘偽りはなく、ビルドとノエルは思わず視線をエウレカから天井へと動かした。


「条件を設けるのは良いと思う。だが設けるのなら人族と魔族、それぞれに平等にすべにではないか? 休戦の約束を破ったものを処罰する、という条件でよかろう。そして同じ過ちを繰り返さぬよう、人族と魔族について正しい知識を広めるべきではないか?」


 人族が魔族を恐れるように、エウレカ達魔族にとって勇者は脅威である。エウレカは休戦の意思を文書で示した。しかし今のままでは、いつ人族が休戦協定を破棄して魔王城を攻めるかわからない。人族による一方的な破棄を認めるわけにはいかないのである。


 ビルドが銀色の毛先を指で弄ぶ。ノエルは腰に身につけている剣の柄にいつでも手を伸ばせるようにした。ウリエルは二人の動きを受けて警戒を強め、エウレカは唸り声を上げるばかり。


「あ!」


 場の雰囲気を変えたのは勇者ノエルのなんとも間の抜けた声だった。


「とりあえずドラゴン族に対する共闘関係を結べばいーじゃん。休戦についてはそんなすぐには決まらねーし、偽物問題も残ってるから……とりあえずドラゴン族との争いが落ち着くまで互いの侵略を禁ずるってすれば良くね?」


 客間にいる4人の中で一番協定の重みを理解していないであろう人物、ノエル。元々有事の際に両者の攻撃を止めるために雇われたノエルは、状況も空気も読まないままにそう大きな声で叫ぶ。ノエル以外の3人の視線が宙で交わった。





 エウレカが求めているのは、魔王城が復興するまでの確実な休戦と復興に向けた支援。可能ならば休戦は一時的なものにしたくないし、人族との交易も行いたい。その第一段階として引き受けたのが魔族史上初となる、今回の人族との話し合いであった。


 休戦に向けて詰める内容は多く、すぐに決まるとは思っていない。せめてドラゴン族の襲撃が落ち着くまでは、魔王城が復興するまでは、という条件を設けて休戦協定を結ぶ。そしてまた日を改めて今後について話し合う。ノエルの発案は悪いものでは無い。


 人族と魔族が親交を深めるにはまだまだ時間がかかる。エウレカの偽物も現れ、妙な噂も流れている。それらを今すぐに払拭し、ある日を境に今までの事を全て水に流すというのはまず無理な話だ。ならばドラゴン族という共通の敵と立ち向かうべく一時的に協力関係を結ぶべきだろう。


「ドラゴン族の話は確かに気になりますね。いきなりなにもかもとはいきませんし、ここはノエル殿に乗りますか。いかがです、エウレカ殿?」

「一番話がわかってなさそうな顔をしておるのにやるではないか。ビルド殿、我はこの提案、とても良いと思うのだが……」

「この展開は想定外でした。さすが勇者。ただの脳筋ではないようですね」

「おい! 勇者イコール脳筋って考えはやめろ!」


 勇者ノエルの一言をきっかけにビルド、エウレカ、ウリエルの心は1つになった。少しずつ互いに妥協をしていけばいい。今必要なのはドラゴン族の脅威とそれに備えること。そしてそのために一時的に休戦協定を結び、ドラゴン族に対してのみ協力し合うこと。これに尽きる。


 だが悲しいのは発言に対するノエルへの評価。勇者は魔族や魔物と戦う存在として有名ではあるが、その有り余る戦力に反してちょっと頭を使うのが苦手な者が多い。だからこそ一同は、ノエルがまともな提案をしたことに驚きを隠せないわけだが。


「後先考えずに魔王城に突進してきた馬鹿はお主じゃろう?」

「うるさい」

「ドラゴン族の言葉を鵜呑みにしたんじゃろう?」

「俺だってテンパってたんだよ! つか、梅干し馬鹿の魔王様に言われたくねぇし?」

「何を言っておる。梅は人族が見つけた偉大なる食物であるぞ!」


 勇者と魔王がくだらない言葉の応酬を楽しむ。それは一昔前ならば考えられない光景で。エウレカの良くも悪くも馬鹿正直な言動が、人族と魔族にあった溝を少なからず埋めようとしている。そんな光景にビルドは思わずウリエルと目を合わせ、微笑んだ。

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