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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第10章】魔王城復興に向けて!【話し合いのために】

 瓦礫やシャンデリアの破片が散っている王の間。赤い絨毯の上に置かれた巨大な玉座だけは、ドラゴン襲撃前と変わらない状態でそこにある。


 硬い石をドワーフ特有の技術で削り出して作った玉座。初代魔王に合わせて造られたそれは、現魔王には大きすぎる。エウレカはそんな冷たく硬い玉座の上にいた。玉座の前には1人の魔族がひざまずいている。エウレカはその魔族を上から見下ろしていた。


「……エウレカ。早く要件を話してよ。僕は忙しいんだ」

「わかっておる。わかっておるぞ。ただ、どこから話せばいいかと考えているだけじゃ」

「心配しなくても大丈夫。元々エウレカにはそこまで語彙力はないんだから、どこから話しても同じだよ。だから早く話して」

「お主、シルクスよりも酷い言い方じゃのう」

「事実でしょ?」

「むむむ」


 エウレカの目の前で跪くは、背中から生えた白い翼が特徴的な天使族であった。サラサラの金髪に銀縁メガネを身につけたその天使は、居住区跡地にて指揮をとっていたウリエルである。幻想的な姿に似合わぬ黒スーツがやけに目に付く。


 王の間はエウレカの仕事場。使用人といえど用なく立ち入ることは出来ない。それは四天王の1人であるウリエルも同じ。ウリエルがこの場にいるのはエウレカが呼び寄せたからだった。


「先程連絡があってだな。話し合いの正式な日時が決まった。9月10日、人族の国の1つキングスにて、国王ビルドと話し合う」

「やっと決まったのね。1ヶ月もかかったねぇ」

「仲介人はドラゴンの被害を受けたあの勇者、ノエル。場所はキングスにあるという城。話し合いに向けて、お主に話があって呼んだ」


 人族との話し合いは容易なことではなかった。人族と魔族はかつて大きな争いをしていた。それが落ち着き、魔族側から人族に歩み出したのが230年前の話。そこから長い月日をかけてようやく、人族と魔族が話し合えるまでになった。


 過去の大戦の名残か、人族の中には魔族を嫌う者が多い。これまでは魔族側から話し合いを持ちかけても断られてばかりであった。先代魔王と先々代魔王から受け継いだ魔族の悲願。それを成し遂げるための道が今、開かれた。エウレカが大きく息を吸ってウリエルを睨んだ。


「ウリエル。お主に、我と共に話し合いに参加してほしい」


 王の間に響いたその言葉に、場の雰囲気が凍りついた。





 歴代魔王が成し遂げることの出来なかった人族との話し合い。この機会を逃す訳にはいかない、失敗は許されない。さらには魔王城の復興を妨げてはならない。そんな状況でエウレカが選んだ付添人はウリエルだった。


「……僕の聞き間違えかな。エウレカ、もう一度言ってくれる?」

「ウリエルには、我と共に話し合いに参加してほしいと思う」

「うん、聞き間違えじゃなかったね。本当にそう言ってたのね。ちなみに……それ、本気で言ってる?」

「我が嘘をついて何になるのだ?」


 戸惑うウリエルに対しエウレカはブレない。真顔で首を傾げるその姿を見ればエウレカの本気が窺える。エウレカは嘘をつくつもりなどない。いや、嘘をついて誰かを騙すということをしない。エウレカという魔族は馬鹿正直に不器用に、まっすぐ進むことしかできないのだ。それは誰よりもウリエルが知っていた。


 驚く程に馬鹿正直で人思いで。かつては指示を出してないのに勇者の一味をさらったからと、勇者と共にドラゴンと戦ったことがある。さらに言えば勇者を守るためにと体を張り大怪我をしたこともある。


「具体的には何を目的としてるの?」

「ひとまず、ドラゴンに関する情報の共有じゃ。それと、話し合いが行われずにいたために曖昧だった休戦を、この機会に『休戦協定』という形で正式なものにしようと思う。まずは危機の共有と和解から、じゃ」


 これまで争っていた相手にいきなり「仲良くなろう」というのは無理がある。故にエウレカは目的を2つに絞った。ドラゴンの脅威、人族にもはっきりと伝わる形での休戦。仲良くなったり貿易の話をするのは急がなくていい。大事なのは「魔族側は人族と争う気がない」と示すことなのだ。


 しかしウリエルは知っている。エウレカはそこまで深くは考えていない。魔族と人族のことを純粋に大切にした結果出た結論がこれだ。争いをしたくない。その一心なのだ。


「……わかった、僕が行くよ。君1人に任せると魔族が不利になりそうだし、誤解されちゃうかも」

「失礼な!」

「エウレカ。人族も魔族もみんな、君みたいじゃない。みんな自分の利益を考えてる。君が純粋過ぎるんだ」

「我は130代目魔王としてだな。常に――」

「ドラゴンの脅威も休戦協定も、なんならその先にある人族との通商も。そう甘くはない。わかってるよね」

「わかっておる」

「なら大丈夫。僕が悪意の盾になろう。それに君のことだ。復興に人員を回すために僕なんでしょ? 魔族数人連れてくより、僕1人の方が復興が進むから」


 ウリエルがメガネをクイッと持ち上げながら言えばエウレカの頬が赤くなる。図星だったのだ。ウリエルはエウレカの目的を知った上で告げる。


「引き受けるよ、話し合いへの参加を」


 ウリエルの声は、王の間に凛と響いた。

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