表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
57/98

【第10章】魔王城復興に向けて!【悩み】

 魔王城に暮らす人々は今、ドワーフの掘った地下空間にいる。昼間は魔王城復興のために働いて少ない食糧を分け合う。にもかかわらず、住む場所が狭いだの物が足りないだの文句を言う者はいない。多くの民が苦しい状況の中で団結していた。


 草地は燃え、住居は壊滅、魔王城も破損。居住区の再建を最優先にしているため、魔王城の片付けは全くと言っていいほど進んでいない。魔王城の片付け、特に王の間の片付けはエウレカ一人で少しずつ行っている。


「居住区に必要なのは木材に石材。大量の木材や石材を確保するには……」


 魔王城の最上階最奥に位置する王の間。初代魔王に合わせて作られた巨大な玉座を除き、あらゆるものが壊れている。太陽の熱を遮るものがない中で、魔王エウレカは玉座の上で頭を抱えていた。


 本来、居住区には使用人と魔王軍の身内が暮らすための家があった。木造だったそれは火に弱く、ドラゴンの炎によって呆気なく消え失せた。今エウレカが考えているのは、そんな居住区をいかに再建するかである。というのも、今回の一件で住居の弱さが目についたからだった。


 これまでと同様に木材で再建するにしても大量の木材が必要となる。加えて、エウレカとしては少しでも火に強い石材を使用した家を立ててあげたかった。また来るかもしれないドラゴンに備え、耐火性は上げておきたい。だが石材で家を建てるとすれば、今度は大量の石材が必要となる。いかにして物資を確保するのか。その最善な方法が見つからないのだ。


「石は揺れに弱いし木は火に弱いし、土は雨に弱いから論外。むむむ、どうしたものか」


 いいアイデアが浮かばず、パソコンを駆使して異世界文化を調べていく。そんな中、エウレカの目があるものを捉えた。


「えー、友達に頼まれたのでレンガの作り方を紹介します。レンガはですね、耐熱性、断熱性、保湿性、耐水性、耐久性、などに優れておりまして、俺の元いた世界では家の材料や窯の材料として、今も使われているものですね」


 熱に強く水に強く耐久性もある。そして異世界ではかつて家を作るのに使われていたという。元陶芸家だという勇者が動画で紹介しているレンガ。その内容にエウレカは釘付けである。


 どうやら材料を混ぜて型に入れるなりして形を整え、焼き固めればいいらしい。だが材料の細かい成分比率は企業秘密。元陶芸家だというこの勇者も、動画では細かい成分比率を明かさなかった。さらに、配信者の締めの言葉はこれである。


「レンガを作る際にはお声かけを。材料とお金さえいただければ、いくらでもお作りします。組立の方は別料金です」


 素人がレンガを作ると失敗するリスクがある。それを、この勇者が代わりに作るというのだ。さらにレンガを使用した建造物の組立も、異世界の者が不慣れなのをいいことに有料で行うと。ご丁寧に注文先のリンクまでついている。


 動画を見たエウレカは腕を組んで呻き声を上げる。この勇者のやり方は実にうまい。レンガという異世界の建築材料を作ることは、実物を知る者にしか出来ない。加えて成分比率に秘密があるとなればもう、この勇者に頼むしかないではないか。





 エウレカは少しの間、腕を組んだまま目を閉じた。ウンウン唸りながら体を前後左右に揺すり、何かを考える。そしてカッと赤い目を見開き、ズボンのポケットに手を伸ばす。そこから取り出したのは異世界文化の一つ、スマートフォンなるものだった。


 異世界との交信こそ出来ないが、異世界産のスマートフォンに負けず劣らずの機能を持っている。電話、メール、チャット、検索、カメラ、といった必要最低限の機能を備えた必需品だ。それらは全て、異世界から来た勇者からの要望により、魔法技術を駆使して出来たものである。


 慣れた手つきでチャット画面を開くと、アドレス帳から目当ての人物を探す。名は勇者ノエル。先日、ドラゴン相手に共闘した勇者の名前であり、この度エウレカの野望のために一肌脱いでくれることとなった者だ。


『レンガを買いたいのだが、我が直接買いに行っても平気だろうか? 誤解されないだろうか?』

『やめとけ。襲われるのがオチだ』


 エウレカの送ったメッセージにはすぐさま既読完了のマークが付き、返事が送られる。その返事は実に簡潔でわかりやすい。


 魔王は人殺しを楽しみ、人を滅ぼそうとしてる。未だにそう考える者は多い。今の魔王が人と魔族の仲をどうにかしようとしているなんて、誰も想像すらしていないだろう。動画配信をしているとはいえ、エウレカに対する誤解はそう簡単に解けるものでは無い。


『どうしたらよいと思う?』

『ひとまず、レンガは俺がどうにかする。だから頼むから、ビルド様との話し合いが終わるまでは変なことすんな。魔王城修復の様子でも撮影しとけ』

『どうにか出来るのか?』

『してやるよ。俺だって本当は戦いたくねぇからな。俺のパーティは皆あんたに借りがあるし。その代わり、ビルド様との話し合い、何がなんでも成功させろよ?』

『任せろ』


 人の国キングス。ノエルはそこに属する勇者らしく、国王ビルドとの交渉のために動いてくれている。エウレカはその行動に対して欠片も疑っていない。相手を信じることが交渉の第一歩だと思っている。


「むう。レンガは勇者に任せるとして、我は復興の様子でも撮影するかのう」


 かくして、魔王エウレカは魔王城がいかにして修復されているかを撮影することにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ