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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第二部 魔王が復興に向けて動き始めました
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【第9章】物資を集めよう!【魔王城近辺】

 赤茶色の髪に2本の黒い巻角、魔族の証である赤い瞳。耳は尖っておらず、尻尾も生えておらず、背丈も成人男性の平均身長と同じ。そんな人に近い外見をした魔族こそ、魔王エウレカである。


 エウレカは今、魔王城からそう遠くない位置にある草原を訪れていた。後ろを振り返れば、堀に囲まれた魔王城城域が見える。遠目から見える魔王城は原型を止めておらず、居住区の無くなった魔王城城域はどこか虚しい。


「我こそは130代目魔王、エウレカであるぞ」


 エウレカお得意の決まり文句は草原の中では虚しく消えていくばかり。エウレカの声に反応して鳥が空へと逃げていった。しかしそんなことを気にしてはいられない。


「本日は魔族を養うべく、食糧と飲み水を集めたいと思う」


 魔王であるエウレカがわざわざ草原にまでやってきたのは、食糧と飲み水を確保するため。そして他の魔族が魔王城修復作業のために動けないためである。魔王が魔族のために動くのは当然のことと言える。


 そんなエウレカの姿をカメラに収めるは、今や動画投稿専門として魔王直属のメイドとなったシルクス。白い猫耳は周りの音に反応してピクリピクリと動き、白い尻尾は風に煽られて不機嫌そうに揺れる。


「魔王様、魔法で生み出した水ではダメな理由の説明をしてください」


 シルクスが小声で告げると、エウレカの目がハッと見開かれる。


「魔法で生み出した水や草は人だけでなく我々魔族にも毒なのである。故に、飲食には不向きで、攻撃にしか用いられないのだ。また、魔法で生み出したものは簡単に消えてしまうため、修復作業にも向かぬのう」


 カメラ目線で魔法で生み出した物資が使えない理由を説明するエウレカ。だがその顔が徐々に曇っていく。原因は、視界の端にいた。


 エウレカの視界の中に突然入り込んできたのは、特徴的なタマネギ型のシルエット。水色の体に大きな赤い目、可愛らしい顔。それは、プルプルと体を震わせながらも少しずつエウレカに近付いてくる。


「も……もう、もうスライムは見たくない。スライム風呂、スライムゼリー、水の代わりで増やすスライム……。我はもう、スライムを見飽きたのだー!」


 エウレカの手のひらがスライムに向けられる。その刹那、「ファイア!」の声と共に手のひらから火球が生じる。火球はスライムに向かって飛んでいき、あっという間にその体を燃やし尽くした。


「魔王様……スライム、そんなにお嫌いですか?」

「嫌いじゃ!」

「こんなに可愛いのに、ですか?」

「お主! なんてものを持ち歩いておるのだ! スライムを連れた状態で我に近づくでない」


 どこから現れたのだろう。いつの間にか、カメラを構えるシルクスの肩にはタマネギ型の可愛らしい姿をしたスライムが乗っている。エウレカの赤い瞳からホロりと一雫、涙が零れた。





 黒いマントを風にはためかせ、エウレカは草原で仁王立ちをする。その赤い瞳は周囲を見回し、何かを探している。


「野生の魔物なんて、おったかのう?」

「スライムなら――」

「スライム以外じゃ!」

「そんな食い気味に反応されなくても……」


 右を見ればスライム。左を見ればスライム。前を見ても後ろを見てもスライムスライム。タマネギ型の、ゼリーを思わせるぷるぷるした体が草原のあちこちに存在する。


 エウレカは視界にいるはずのスライムを無かったことにして魔物を探す。スライムは草原だけでなく、魔王城にもたくさんいる。


 すでに見飽きた、食べ飽きたスライムをわざわざ倒してまで倒して手に入れる必要はない。それどころかスライムに費やすわずかな時間すらも惜しい。故にエウレカは言い張る。


「決して我がスライムを苦手としているからではないぞ。今必要なのはスライムではなく、コカトリスや龍魚といった主食に値する肉じゃ。一番必要なのは、栄養を取れる野菜、植物であるぞ?」

「しっかり把握されてるようで何よりです。主食となる魔物ですと……この辺りならグリフォン、ウルフ、ラビット、ですね。植物となると……エルフを頼る他にはないかと」


 エルフという言葉に、エウレカの顔が大きく歪んだ。酸っぱいレモンを食べたような、苦虫を噛み潰したような、梅干しのようにしわくちゃにした顔をシルクスに見せる。


「薬草があるかもしれぬじゃろう? エルフを頼るのは最終手段じゃ」

「そうですか。面白い映像が撮れると思ったのですが」

「もはや動画のためではないか!  動画のためだけにエルフに関わるのは嫌じゃ!」


 動画のためであることを隠そうとしないシルクス。その顔がクスリと小さく微笑む。目に毒な豊満な胸が揺れた。その姿にエウレカは視線を逸らすことしか出来ない。


 草原を優しく風が撫でていく。風になびく銀髪、怪しげに左右に揺れ動く尻尾、周りの音に反応してピクリピクリと動く猫耳。だが猫の獣人を模した姿の奥には、最強と名高いドラゴンと似たような厳かな雰囲気を覗かせている。


「手始めに、何をされます? 魔物狩りですか? 植物探しですか? それともエルフと戯れますか?」

「……食べられる植物を探すしかなかろう。エルフに助けは求めぬ。我一人でも食糧くらい見つけられるぞ」

「そうですか。では、頑張ってくださいね、魔王様」


 ニコニコと笑うシルクスの手には、微かな音を立てるカメラがしっかりと握られている。エウレカは自らに黒い巻角を撫で、必死に獲物を探すべく目を凝らす。


 今、魔王城再建に向けて物語が動き出そうとしていた――。

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