【序章2】魔王城再建のために【活動再開】
今日から第二部のスタートです
穴が空いたりヒビ割れたりしたままの魔王城外壁。中庭はドラゴンに燃やされた影響もあり、植物の類が存在しない。魔王城の敷地内に存在した居住区では木造住宅の残骸が無惨にも散らばっている。
ドラゴンによる襲撃の痕跡は魔王城の内部にも残っていた。瓦礫の散らばる床、ボロボロの壁、倒されたり壊れたりした装飾品達。魔王城に雇われている者達は皆、魔王城修復作業に追われている。
魔王城敷地内で暮らしていた者達は皆、一時的にドワーフの作り出した地下空間へと身を寄せている。使用人はもちろんのこと、使用人の家族やペットも地下空間に避難している。このような状態で食べ物や水が十分に揃うはずもなく、それらの確保が魔族に課せられた重要な任務でもあった。
「ようやく動けるようになった。長かったのう」
「元はと言えば魔王様の自業自得ですけどね」
「そこは言うでない! さて、やはり城の外で魔物を狩るのがよいかのう。今の我なら狩りでもなんでも出来るぞ」
「魔王様、肉は足りています。足りないのは野菜、植物です。今のままでは栄養が偏ってしまいます」
「むむむ。あれだ、森の木の皮を剥いで食べるというのはどうだ?」
「木の皮1枚が米の代わりになるとお思いですか? パンや麺類の代わりになるとでも?」
壁に空いた穴から外の景色が見える王の間。床には瓦礫やシャンデリアの破片が散らばったまま。エウレカが王の間ではなく居住区の再生を優先させたため、王の間は全くと言っていいほど片付いていない。
そんな王の間で食料問題について話すは魔王エウレカとメイドのシルクス。唯一無傷な玉座とその周辺に集まり、議論を繰り広げる。エウレカの右足は先日、緊急事態だからと白魔法を使用して治してもらった。もう普通に仕事が出来る状態だ。
「水も足りないのであったか?」
「足りませんね。今は入浴に使う水をスライムで代用し、事なきを得ています」
「むむ、それはよくない。野菜を集めるのと水の確保は緊急を要するのう。我が動こう」
「スライム風呂を嫌がるのは魔王様くらいですが、飲み水が少ないのは確かに問題ですね。ですが、魔王様がわざわざ、ですか?」
「他の者は修復で忙しいであろう? 我はしても人族のビルドなる人物とやり取りをする程度。1番手が空いているのは我であるからな」
ビルドと言うのは、エウレカが支援を求める動画を掲載した際に連絡してきた人族の者である。複数ある人の国。その中でも魔族に対して比較的寛容らしく、エウレカと話し合いたいと言ってきている。
ビルドとの話し合いが人族と魔族の友好に繋がるかもしれない。魔王城再建に繋がるかもしれない。魔族のため、長年の夢のため、エウレカはビルドとのやり取りを最優先にしていた。
「ビルドという方とのやり取りはどこまで行きました?」
「連絡用のメールアドレスを交換し、メールでやり取りを進めておる。やっと、場所と話し合いの条件が決まったところじゃ」
「条件?」
「共闘した勇者達がおったじゃろう? まずはあの勇者のパーティーを同行させ、三者会談から始めることになった」
「三者、ですか?」
「互いに警戒しておるからのう。互いをよく知るあの勇者を挟むことで、魔族に話し合いの意思があることを示しつつ、互いを牽制する。そして、魔族に不利な話し合いとならないように全力を尽くす、というわけだ」
エウレカが勇者と共にドラゴンと戦った話は記憶に新しい。その事がきっかけでドラゴンとの関係に大きく亀裂が入った。ドラゴンとの関係が崩壊し、ドラゴンが魔王城を襲撃したのは数週間前の話である。
「……魔王様。支援金を集めるためにも、itubeへの動画投稿を続けましょう」
「投稿? 今はそのような状況ではなかろう?」
「大丈夫です。魔王様が食料や水を集めようとすれば、きっと何かが起きますから!」
「そんなキラキラした目で我を見るでない!」
「魔王様が面白ければ面白いほど、注目が上がります。運が良ければ、広告収入というものが貰えるほど人気になるかもしれませんよ? ピンチこそチャンスです!」
「だが……」
「広告収入が得られれば、魔王城再建に役立つかもしれませんよ。今、魔王様の注目度はすごいんです。今がチャンスですよ!」
実はエウレカは、資金援助を頼む動画を最後に動画投稿を中止していた。魔王城の状況が芳しくないことと、ビルドとのやり取りに追われていたためだ。しかしシルクスは、今の状況すらも動画配信のチャンスだと言い張る。
シルクスがカメラを構えた。シルクスのわざとらしい満面の笑みに、エウレカの顔がひきつる。こうして、エウレカは魔王城再建のためにも、「まおうチャンネル」を再開することとなったのだった――。




