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魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第一部 魔王が動画配信を始めました
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【第6章】魔王様のお仕事!【振り返り】

「出来たー!」


 エウレカの歓声が王の間に響き渡る。その手には松葉杖ではなく、びっしりと文字で埋め尽くされた報告書があった。


 エウレカの手から報告書を奪い取る白く細い指。次の瞬間、エウレカの両手にずしりと分厚い書類の束が乗せられた。エウレカが驚きのあまり口をあんぐりと開くも逆らうことなど出来ない。


「まだ、月末書類の承認・非承認が残ってますよ」

「ぬおーー!」

「もちろん、テキトーに印鑑を押すのはダメですよ? わかってますよね?」

「ううー。一体何枚あると思っているのだ?」

「フェンリルからの連絡によれば……ざっと200枚はあるかと」


 シルクスから渡された書類の束は月末書類と呼ばれるものであった。いくつもの書類に目を通し、その内容を確認し、承認か非承認かを決めなければならない。それは毎月月末に定められている魔王の仕事でもある。


 もちろん、月の半ばから少しずつ書類の山に手をつけていればこんなことにはならない。今回、エウレカは動画撮影やドラゴンとの騒動で余裕がなくなった。その結果書類の存在をすっかり忘れ、締切ギリギリになって辛い現実を突きつけられることとなったのである。


「何がどうしてこんなにかさばることになったのだ……」

「書類の構成は始末書、会議で承認された企画関連、人事関連、魔族や魔物からの意見に――」

「わかったわかった、ちゃんと見る! 民の声が入ってきてるとなればしっかり読まねばのう」

「その心意気を他のことにも回してください」

「我もそうしたいとは思うが……民のことを思うと不思議と力が湧いてくるのだ。何故であろう?」

「知りません!」


 魔族や魔物から寄せられた意見があると知り、エウレカの目の色が変わった。それまでは書類の束にがっくりと肩を落としていたのだが、急にやる気になって指のストレッチを始める。


「民への意識の1パーセントでいいから、私個人に向かないでしょうか?」

「ん? 何か言ったか、シルクス?」

「……いえ、何もありません。その月末書類で最後なので、頑張ってくださいね」

「うむ、もちろんだ。民のためとあれば、我はいくらでも頑張るぞ」


 エウレカは今日もシルクスの思いに気付かない。シルクスはメイド服の裾を少し引っ張ると、しょんぼりとした顔でカメラを構える。白い猫耳と尻尾がだらりと下に垂れた。





 硬い玉座の上に横たわりながら背もたれを使って器用に書類にサインや捺印をしていくエウレカ。その赤い瞳はしっかりと書類の文面を読んでいる。


 最初はエウレカの頭部と変わらない大きさを誇っていた書類の束。だが今すっかりとその厚みを減らし、書類を数枚残すだけとなっている。1番最後に残されたのは、エウレカがこれまで「まおうチャンネル」に投稿した動画の一覧表であった。


「最初のスライム企画、懐かしいのう」

「呼ばれたので何事かと駆けつけたら、それがきっかけで魔王様の手伝いをすることになりました」

「ケーちゃんの動画はあまり評判が良くなかったのう」

「魔王様の部屋の汚さと無計画さが原因だと思いますが」

「むう。この『【魔王エウレカ】魔族の三大珍味を食べる【食レポ】』は例の珍味を食べた時であるな」

「そちらの動画はグルメ動画として、結構人気ですね。三大珍味を3回に分けて投稿した、初の分割回でもあります」


 一覧表に記載されているのは動画のタイトルと再生回数、高評価と低評価の数、総コメント数、である。これまでに投稿したどの動画も、1つ1つに思い入れがある。


「『【魔王エウレカ】勇者と話し合いをする』はあれか、魔王城に勇者が来た時の……」

「はい。そちらはどうにか1本にしましたが、その次の『【魔王エウレカ】勇者と共にドラゴンの巣へ』は前編後編に分ける長編動画となってます」

「フェンリルに飛ばされかけた時の、であるな? あんなに飛ばされていたのによく撮れたのう」

「ちなみにその次の『【魔王エウレカ】勇者と一緒にドラゴンの巣から脱出!』は魔王様に付けていた隠しカメラの映像による脱出劇になります」

「隠しカメラだと?」


 思わぬシルクスの発言にエウレカが大きな声を出した。慌てて今着ている衣服にカメラが無いかを確認するがそれらしいものは見つからない。激しく動揺するエウレカにシルクスがクスリと笑った。


「今はありませんよ。あの日は面白そうでしたので、魔王様が寝ている隙に取り付けました。正確には、魔法を使って録画しました」

「魔法だと? シルクス、お主、魔法が使えたのか」

「今更ですよ、魔王様。魔法で第3の目を作り出して、その視界と電子機器を繋いだだけじゃないですか」

「……お主、今からでも軍に行くか?」

「それ、女性に言うセリフじゃないですよ?」


 シルクスの尻尾がエウレカの頬を叩いた。白い毛が数本、エウレカの口元に入り込む。


「登録者9999人、魔族のi(アイ)tuber(チューバー)は0人から24人まで増えました。これだけでも十分な成果かと」

「もっと人気になれば、その収益を魔王城の利益に回せるのだがのう」

「……急ぐより先に、目の前の仕事を片付けてください。来月からは、今日みたいになっても手伝いませんよ?」


 エウレカとシルクスが言葉をかわすそのすぐ近くで、パソコンに通知が届いた。音もなく告げられた記念すべき瞬間。エウレカ達がその通知に気付くのは、もう少し先の話……。

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