表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が動画配信を始めました~魔王様は人族と仲良くなりたい~  作者: 暁烏雫月
第一部 魔王が動画配信を始めました
27/98

【第5章】真犯人を懲らしめろ!【VSドラゴン】

 その洞窟は山の岩壁に作られた巨大な穴だった。灯の類はなく、勇者が頼れるのは暗所にある程度適応した目のみ。先に進んだエウレカの姿すら、もうわからない。手探りで道を進むことしか出来ない勇者は小さくため息を吐いた。


 勇者を除く魔族と魔物、特にエルナとエウレカの視界は勇者と違っていた。赤い瞳に映る世界は、暗闇の中であってもまるで青空の下にいるかのようにはっきりとした色彩を持っている。


 洞窟の内部は外の大地より少し赤みを帯びた黄土色をしていた。フェンリルに乗ったエウレカが手を伸ばしても全然届かないほど高い天井。フェンリルとケルベロスが2頭ずつ並んでも歩けるほどの幅。洞窟は巨大な魔物が出入りできるだけの大きさを誇っている。


 遠目に見えてくる、植物の茎を積み上げて作られた巣。その中にはケルベロスとさほど変わらない大きさの白い卵が複数入っていた。巣の近くでは2体のドラゴンが見張りをしている。


 エウレカの目が巣の奥、洞窟の最奥を捉えた。洞窟再奥の壁面には3人の人間が紐のようなもので縛り付けられている。3人共四肢が僅かに動いており、生きていることが確認出来る。食料にするためにさらったわけではなさそうだ。


「エルナ。隙を作ってくれ。ケーちゃんはドラゴンの足止めを。勇者が合流出来るだけのスペースを作らねば」

「アホ。その前に光を用意しろ。勇者は魔族じゃねぇ。洞窟の中の様子なんて、明かり無しじゃこれっぽっちも分からねぇよ」

「なぬ! 人族は不便じゃのう」

「……エウレカは魔法で光の維持をしつつ攻撃しな。ドラゴン共の注意なら、俺様が引き付けてやるから」


 後から来るであろう勇者のことを考え、フェンリルがエウレカに助言を行う。戦うべきドラゴンとの距離は10メートルもない。覚悟を決めたエウレカがエルナに先へ行くよう促した。


 エルナのアイスブルーの毛束が揺れる。ケルベロスから飛び降りると、背負っていたハンマーの柄を両手で掴む。次の瞬間、ハンマーを大きく振り回し、勢いよく地面に叩きつけた。


 エルナの放った一撃で洞窟の内部が激しく揺れる。その振動に反応し、ドラゴンがエウレカ達の方を見た。地震を思わせる強い揺れの中、ドラゴン達は体勢を崩すことなくエウレカの顔を睨みつける。


「ようやく魔王様のおでましか」

()()()、狙いは勇者ではなく我であったか」

「あれは勇者だったか。ふふ、わざわざ人をさらったかいがあったものだ」


 トカゲを思わせる2つの顔がニタリと笑った。コウモリのような翼が狭い洞窟の中で左右に広げられる。長い尻尾が力強く地面を叩けば土埃のような細かい粉が宙を舞う。


「人族と仲良くしようなんて、随分甘くなったもんだな、魔王よ。挙句、魔王が顔も隠さずに動画投稿だと? とんだ甘ちゃんになったものだ」

「魔族も魔物も、変わらなければならぬ。人と魔族がいがみ合うだけでは、何も変わらぬ。変わらなければ……()()大戦を繰り返すことになるぞ!」


 エウレカが声を荒らげると同時にケルベロスがドラゴンに向かって突進した。ケルベロスが口を開けば、炎の息吹がドラゴンに襲いかかる。次の瞬間、エルナのハンマーがドラゴンの足に振り下ろされた。





 炎の熱さに顔を歪めることなく、足を襲う痛みにも動じない。ドラゴンは何事も無かったかのように平然とそこに立ったまま動かなかった。赤い瞳がギロリとエルナを睨みつける。


「人が滅ぼうが、魔族が滅ぼうが、知らん。ドラゴン族は気高き存在。他の種族は皆、害。お前に力を貸してやった理由、忘れてはおるまいな?」

「お主らは卵を押し付けただけであろう。それ以外で力を貸して貰ったことなどない。むしろ、好き勝手していたことを今日まで見逃してやっただけありがたく思うのだな」

「平凡な魔族が我らドラゴン族に勝てるとでも? 我らとの力の差、今一度思い知らせてやろう!」


 ドラゴンの言葉を最後に状況が大きく動き出した。ドラゴンが翼を羽ばたかせると小さなエルナの体が吹き飛んでしまう。ケルベロスの放った炎はドラゴンが作りだした風によって向きを変え、ケルベロスに襲いかかる。ケルベロスが炎を止めるとのエルナが岩壁に体を打ち付けるのはほぼ同時だった。


 ケルベロスが威嚇しながらもエルナに近寄る。その動きに食いついたのは1体だけ。もう1体はエウレカから目をそらすことなく、移動することなく、ただそこに立っている。


 ドラゴンの反応を見ていたエウレカの手がドラゴンに向かって伸ばされた。ドラゴンは攻撃をかわそうとしない。余程自信があるらしい。そんなドラゴンの態度にエウレカが小さく笑った。


「スノーストーム!」


 エウレカの声に呼応し、伸ばされた右手が白い光に包まれる。次の瞬間、エウレカの手のひらから真正面に立つドラゴンに向かって、強い風に乗った雪が吹き付けた。フェンリルの視界が一瞬にして真っ白に変わる。それはエウレカの作りだした小さなチャンスであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ