気合と根性
ガチッという音と共に、レオンの使う三節棍の節が外れる。それにより伸びたリーチと不規則な動きにより、カルナを翻弄しながら攻撃する。
「ぐっ」
カルナが思わず呻く。カルナの使う剣は、三節棍よりリーチが無い。より離れた位置から攻撃できるレオンは、優位な位置に立っていた。
「おらぁ!」
レオンは次々と攻撃を繰り出す。カルナに反撃のチャンスを与えない為だ。少しでも隙を見せれば手堅い反撃が待っている。それをさばける自信が、レオンには無かった。
カルナはレオンの攻撃を全て防ぎながら反撃の機会をうかがっていた。
(中々、隙が、無いな…。ここは無理に行ってみるか)
そう思い、カルナはレオンに一気に詰め寄る。レオンは驚くが、それも一瞬の事。三節棍の節を戻し、カルナの横腹目掛けて振り抜いた。
ガキンと鎧が鳴る音がした。カルナの横腹に衝撃が走る。飛ばされそうになったカルナだったが、歯を食いしばり、その場に踏ん張る。
「マジかよ!」
レオンは叫ぶ。相手は隊長クラスといえど、少しぐらいよろけると考えていたのだろう。油断していた訳では無かった。ただ、予想を超えていたのだ。
カルナが剣を横に振り抜く。レオンの腰にダイレクトに当たる。
「ああああ!!」
レオンは横に飛ばされ、そのまま片膝をつく。今までの連撃の疲れも一気に出て来たのか、数秒そのまま固まっていた。
(悪くは無いのだがな)
カルナは構え直し、レオンを見ながら思う。審査員も同じ考えだった。アンチと戦うという事は、これくらいの事、日常茶飯事だ。カルナでさえ、今は隊長という地位まで上り詰める程の実力を持っていたが、最初からそうだった訳では無い。戦闘や訓練で敗北した事だって何度もある。失敗と後悔を重ねて、涙を流しながら努力を重ねた。その末に、今のカルナが出来たのだ。
(今回の合格者は少なそう__!)
カルナがそう思った時、レオンはピクリと動いた。
「こんな、所で、お、終われる訳ねぇ……!」
震えながら立ち上がる。ギロリと睨むその目には、闘志が燃えているように感じた。
しかし、レオンは今にも倒れそうな状態だった。三節棍を杖のように使い、何とか保っている。
「おああぁあ!!」
咆哮を上げながらカルナに突っ込む。レオンは、この最後の一撃に全てを込めた。
「うん、悪くはないね」
ニカリとカルナは笑みを浮かべる。カルナは敢えて、避けようとはしなかった。アンチは攻撃的に動く為、あまり攻撃を避ける事はしない。その理由もありはしたが、ただ、レオンの全てを込めた一撃を体感したかった。そんな理由だった。
レオンの一撃がカルナの頭の上から振り下ろされる。カルナは剣で防御した。
訓練場に衝撃が走る。砂煙が舞い、風が起こった。レオンの三節棍とカルナの剣がぶつかり合う。
バキッという音が鳴る。カルナの剣が折れたのだ。元々、訓練用の木製の剣だった為、鉄製の剣より、遥かに折れやすいのだが。
「おおおぉ!!!」
そのまま三節棍を振り下ろす。
「ッ!!」
カルナは咄嗟に三節棍を両手で挟む。白羽取りのような形になる。再び衝撃が走ると、カルナの両手で、三節棍は完全に止まった。
「……ちくしょう」
その勢いのまま、レオンは気を失い、グラリと前のめりに倒れる。その体をカルナは抱き抱え、すくっと立ち上がった。横腹が痛むものの、カルナは特に疲れた様子も無く、審査席にレオンを連れて行く。その後、レオンは治療室へと連れて行かれた。
「大丈夫かい?あと1人だが、少し休むか?」
審査長のエリオンがカルナに回復薬の入ったビンを渡しながら言う。
カルナはビンを受け取り、ゴクリと飲むと静かに喋る。
「大丈夫です。直ぐに始めましょう。今、気持ちが上がってきてますので」
審査員は顔を見合わせる。そして、次の受験者に同情した。この状態のカルナを相手にすることもそうだが、最後の受験者は装備も何も持っていない少年だからだ。頭や胸の急所の部分にも、特にこれといった防具も無い。ただの服だ。これでは、直ぐに終わってしまうだろうなと審査員は考えた。
「オーファンさん、今気づいたんですけどみんな何かしらの防具着けてますよね。僕だけ普通の服ですよね。白ローブ目立つんですよね。これ、逆に浮いてますよね」
「うぅ、すいません」
アルフレッドは若干涙目のオーファンに言った。別にアルフレッドは怒っている訳では無いのだが、オーファンには怒っているように見えたようだ。
「では、最後の受験者!前に出ろ!」
「さてと」
呼ばれたアルフレッドはゆっくり立ち上がる。そして、前に歩いて行き、カルナの前まで来た。
「やぁ、また会ったな」
カルナが話しかける。
「代筆ありがとうございました。おかげで、こうして試験を受けられます」
「試験を受けるだけじゃダメだよ。受けるんだったら合格しないと」
「もちろん、そのつもりです。アルフレッド・ファン。行きます」
ドン、と大地を蹴る。アルフレッドは一直線にカルナに向かっていった。
「おかしい」
アルフレッドは感じる。
この前、ウルさん達を助けた時のように体が動かないのだ。
身体能力があの時に比べて著しく減少している。まるで、天界にいた時のような__。
オーファンはジィとアルフレッドを見つめる。そして、深くため息を吐いた。
「アルフレッドさん……。あなたは……」
「中々やるな。流石特攻部隊を志願しただけはある」
カルナはアルフレッドの攻撃を捌きながら言う。
「……そりゃどうも!」
アルフレッドはカルナの顔目掛けて殴りかかろうとする。カルナはそれを顔を逸らし避けようとした。アルフレッドはその隙を狙ってカルナの足を蹴った。
「!」
カルナがグラリと体勢を崩す。アルフレッドはそのままカルナの腹に蹴りを食らわせた。重い蹴りを食らったカルナは宙に浮き、吹っ飛ぶ。呻き声を上げ、数メートル飛んだあと何とか着地する。
「うん、結構やるね」
カルナは腹をさすりながら言う。息は切れていない。まだまだ余裕があるようだった。予想以上の攻防に、審査員と他の受験者達は目を点にしている。
「こっちは絶対合格しなければいけない理由がありますので」
アルフレッドは構え直し、真っ直ぐにカルナを見つめる。カルナは頷き、アルフレッドを睨み返す。それは、今までの見定めるような視線では無く、本気の、獲物を捕らえる野生動物のような鋭い目だった。
「しっ!!」
数メートル程離れた距離を一気に詰めたカルナは、アルフレッドの腹を目掛けて剣を横に振る。アルフレッドはそれを腕で防御する。
「ぐっ!」
痺れるような痛みが走った。だが、カルナの攻撃はそこで終わらない。
「ああああ!!」
カルナはそのまま剣を押し抜く。アルフレッドは体勢を崩し、片足立ちになった。__まずい、そう思った時にはアルフレッドは仰向けに倒れていた。片足立ちの軸足を思い切り蹴られたのだ。それにより、アルフレッドはあっけなく倒れてしまう。
倒れたアルフレッドの顔にカルナの鉄拳が迫る。アルフレッドはその拳を横から殴る事で軌道を逸らす。顔すれすれの所で地面にぶつかる。その地面は軽く凹んでいた。
すぐさまアルフレッドは両足でカルナを蹴り上げる。そして、宙に浮いたカルナが落ちてくるタイミングで拳を突き出す。カルナはそれに合わせて、同じように拳を突き出した。
互いの拳がぶつかる。しかし、力はアルフレッドの方が上のようでカルナは押し負かされ、後ろに下がる。そして、再び彼らは向かい合った。
「そろそろ、終わらせたいな」
カルナが呟く。
「じゃあ、次で終わらせますか」
アルフレッドが反応する。
「そうだな。君も全力で来てくれ………。行くぞ!」
カルナが真っ直ぐ突っ込む。アルフレッドはそれに答えるように構えた。
カルナはアルフレッドに向かって剣を振る。アルフレッドはそれにカウンターでカルナの顎を狙う。アルフレッドはカルナの顎を横から小突き、気絶させるつもりだった。流石に女を思い切り殴れないという思いだったのかもしれないが、それは完全な油断だった。
ふわりとアルフレッドの体が浮く。カルナがアルフレッドの足を掛け、倒れさせたのだ。
「ぐっ」
アルフレッドは直ぐに立ち上がろうとするが遅かった。
「終わりだ」
短く告げられた言葉。アルフレッドの首元にはカルナの腕から伸びた剣が首元にピタリと当てられる。これが、本当の戦いであったなら首が飛んでいたであろう。アルフレッドは、ため息を1つ吐いた。
「参りました」
両手を上に挙げ、言った。
「そこまで!全員終わったから、会議室に移動だ!それから解散とする!」
審査員長からの号令が会場に響いた。