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天界異世界課の天使?  作者: 切島直人
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運命と過去


「竜巻!?」

アルフレッドは叫ぶ。それに対してウルが答える。


「そうだ。1ヶ月程前から毎日、こういう異常気象が局所的に起こっているのだ。いつもは、突然の大雨や落雷で死者も出てはいなかったのだが今回は竜巻。しかも私達が来た方角だ。もう少し遅かったら危なかったな」


そう言うとウルはアルフレッドの方を向く。


「それにしても、異常気象がどういうものか知らないのか。誰もが知っていることだと思っていたが」

「あ、いやぁ僕の故郷の方では全く無かったので。かなりの田舎町ですし、他の街の情報とかも中々、来ないんですよ」


アルフレッドは苦し紛れの言い訳をする。ウルはそういうものなのかと納得した。アルフレッドは胸をなでおろす。


「そういえば君は明日はどうするのかね。仕事は何かは聞いてはおらんが、大方カンバル殿達と同じような護衛だろう?」

「そうですね。似たような仕事ですが、対アンチ部隊に入隊したいと思いまして。明日はその見学に行く予定なんです」

「そうなのかい?まあ、君は腕が立つから適職だと思うよ。頑張ってね」


ウルはアルフレッドの顔を見てニコリと笑う。


「ありがとうございます。頑張ります」

アルフレッドは笑顔で答えるが、どことなくぎこちなく見えた。




「すまないね。1番安い部屋だから布団も固くて薄いけど我慢してくれ」


アルフレッドはウル家族と夕食をとったあと、部屋に案内された。4畳程の小さな部屋だが1人部屋で布団もある。ウルは、申し訳無さそうにしていたが、アルフレッドは首をブンブンと横に振る。


「とんでもないです。何から何までありがとうございます。助かりました」

「何度も言うようだが君は私達の命の恩人だからね。これでも足りないぐらいだよ。じゃあ、私達は、朝早いからもう寝るけどゆっくりしていてね。一応、明日までの宿は取ってあるから」

「ありがとうございます」


アルフレッドは深くウルに頭を下げる。それと同時に申し訳なく感じた。何故ここまで良くしてくれるのかがアルフレッドには理解出来なかった。


「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


ウルはそう言うと部屋を出た。1人になった部屋でゴロンと布団に横になる。腕で目を隠し、深呼吸を1つした。


「良い人で良かったですね」


すう、とオーファンが現れる。アルフレッドは起き上がるとオーファンを見つめる。


「そうですね。感謝してもしきれないです」

「うんうん、感謝する事はとても大事な事ですよ。するとしないとじゃあ人からの見え方も自分の考え方も違ってきますから」


オーファンが腕を組んで頷く。アルフレッドは、一息置いた後にオーファンを真剣な表情で見る。それを見たオーファンは、察しがついたようでハァと息を吐く。


「オーファンさん、ウルさんの事ですが」

「うん、そうですよね。分かっていますよ」

「ウルさんの死期が近いと言っていましたよね?それはどういうことなんですか?」


アルフレッドはオーファンに詰め寄る。オーファンはバツが悪そうに答える。


「言った通りです。彼は私の姿が見えました。それは彼の魂が、この世から少しずつ離れていっているということを表しています。まだ声は聞こえていないようですが、さらに死に近くなると聞こえるようになります。そうなってしまえば1週間を持たずに

亡くなってしまうでしょう」


アルフレッドは頭を抱えた。それもそうだ。ここまで良くしてもらったのに死んでしまう。そうしたらアリスはどうなる?母親はいるのだろうか。食べるものは?そういう考えがアルフレッドに押し寄せる。


「あの、オーファンさん。今からでも何とかウルさんを助け__」「駄目です」


食い気味にオーファンは言う。何でなのかと詰め寄ろうとしたアルフレッドだが、オーファンの真剣な表情、眼差しを見て何も言えなくなってしまう。


「あなたの気持ちも分かります。自分だけが死を知っている。しかし、何も出来ない。それは確かに辛いことです。ですが、彼はこの世界の人間であなたは異世界の天使なのです。この世界の人間の生死を個人のひと時の感情で変えてはなりません。あなたも、私も」


オーファンは片時も目を離さずアルフレッドを見続ける。アルフレッドは、グッと何かを堪えると俯いた。


「……分かりました。すいませんでした」


消えるような声でアルフレッドが呟いた。


「辛いと思いますが、それが運命なのです。ですから私たちは、運命以外で死んでしまうことが無いようにしなければならないのです」


オーファンはなだめるように言う。そのままふわふわとアルフレッドの横まで移動する。


「……アルフレッドさん、私もですね、そういう風に思っていた時期があったんです」


アルフレッドは顔を上げ、オーファンを見る。彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


「まだ私が110歳代、見習いの神様だった頃、私の先生__といってもどちらかというと私の先代でしょうか。その人と丁度こんな感じで揉めた事があったんです。その時はあるおばあさんが死ぬ間際でした。小さな一軒家、おばあさんが寝ている布団を囲って、その人の夫のおじいさんとその子ども、孫がみんな泣きながら笑ってたんです。私は何で皆さんが泣きながら笑っているのか不思議でたまりませんでした。もっと生きていたらもっと笑い合えるのに、そう思うと耐えられなかったんです」




『先生!この人、どうにか死なないように出来ないの!?』


幼い私は、その世界の神様にお願いしました。


『無理だ。そのばあさんが死ぬのは変わらん。救ったところで死線が出れば人は死ぬ』


死線__神様は、神様としての力を付けていく事で、その人が死ぬ時期が見えてくるのです。私はその時は未熟でしたので見えてはいませんでした。


『どうして!?あんなに泣いているのに!』

『はぁ、ぐだぐだ言ってねぇで魂を拾いに行くぞ。出た魂は早く拾わねぇと霊になっちまう。霊になると色々と面倒だからな』


そうやって私と先生はおばあさんの家に行ったんです。もちろん姿は隠してですが。

私達が行った時にはおばあさんは、もう亡くなっていました。おばあさんは自分の死体とそれを囲む人たちを上から見下ろしており、笑っていました。


『よう、ばあさん。名前はレイナ・アイギスか。残念ながらアンタはもう死んじまったんだ。今、天界に連れて行くから大人しく俺に着いてきてくれ』


先生は気さく?におばあさんに話しかけました。


『あら?あなたは神様?随分と若そうなのねぇ』


おばあさんはのびのびとした声で話しました。ゆっくりと、優しそうに。

私は、笑顔で自分のいた布団を見下ろすおばあさんの横までかけていき、おばあさんを見上げました。


『生きてたいの?死にたくないの?』


私はおばあさんに静かに問いかけました。おばあさんは少し考えるとポツポツと話し始めました。


『生きたくないって言ったら嘘になるわねぇ。私もあの人ともっと庭でお茶でも飲みながらたわいのない話をしたかったわ』

『ならなんで笑っていたの?悲しくないの?』

『悲しいけど、それ以上に幸せだった。最期まで家族と一緒にいれて、笑い合いながら逝けたんだもの。孫の顔も見れてねぇ。かわいいでしょう?名前はカリンちゃんって言うんだけどねぇ。私にすごく懐いてくれてねぇ。楽しかったわぁ』


私はカリンと呼ばれた少女を見ました。赤髪を短く切っていて、凛とした雰囲気を持った少女でした。


『可愛いね』

『そうでしょう?』

……………。


少しの沈黙の後、おばあさんは私の前に座って私に語りかけました。


『小さな神様は名前はなんていうんだい?』

『……オルフェ』

『オルフェちゃん、人はね、いつかは死んで行くものなの。すごく頭の良い人も体が丈夫な人も男も女も全部。だから私は人って一生懸命に生きてるんじゃないかなぁって思うのよ』

『死ぬから懸命に生きる?』

『そう、誰だって死ぬから何かを残そうと頑張って頑張って生きていくんじゃないかしら』


私は、その言葉にハッとさせられました。死というものからは逃れられない。だから人は懸命に生きて行くのだと、何かを残そうとするのだと気付きました。確かに当たり前の事かもしれません。ですが、確かにその言葉は当時の私の心に深く刺さったのです。




「まぁ、100年以上前の話です。今はそのおばあさんも生まれ変わってこの世界のどこかで生活しているかもしれません」

「そんなことがあったんですね…」

「ちょっと暗い話しちゃいましたね。さあ!今日は早く寝ましょう!明日は対アンチ部隊の見学に行きますよ!」

「……分かりました。明日も頑張ります。おやすみなさい」


アルフレッドは、明日に備えて布団に潜り、夢の世界へと沈んでいった。


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