終戦とエピローグ
カルナは、消えていくアンチデーモンを尻目に雄叫びを上げた。アルフレッドは、ゾクリと震える。汗が頰を伝った。しかし、口角は依然上がったままだ。ここまで、やるのか、人間は……!!そういう思いがアルフレッドの心の中を巡った。
「くそ!こんな筈では!」
ベルは歯を食いしばり、悔しがっている。アルフレッドは、ついに声を出して笑った。
「見たか、ベル。こいつが人間の力だよ」
静かに言う。それだけでベルは、顔を真っ赤にして怒り狂った。
「じゃあ、俺らも決着をつけよう」
続けてアルフレッドが言う。
「お前を殺して、あいつも殺してやろう」
ベルは、顔を赤くしたまま答えた。
「があ!」
ベルは、アルフレッドに襲いかかる。アルフレッドはそれを避け、ベルの背中に強烈な一撃を叩き込む。
「遅いな、ベル。止まって見えるよ」
背中を抑えて呻くベルをアルフレッドが煽る。
「ゆ……許さん!!絶対に殺してや__」
「許さねぇのはこっちだ馬鹿野郎!!」
アルフレッドは、ベルに一瞬で近づき、その頰を殴る。
「お前のせいで、何人死んだと思ってる!!何人絶望したと思ってる!!」
次々と繰り出される攻撃にベルは、何も出来ず、その攻撃をくらい続けた。
「挙げ句の果てに、許さんだと?殺してやるだと?まだ、そんな事を言うつもりか!」
アルフレッドの攻撃の速度が上がる。
「こいつで終いだ!」
ベルを上から叩きつける。「ぐえ」と惨めな声を出したベルは下に突き落とされる。
「黒炎!!」
アルフレッドの右手から黒い炎が溢れ出した。その炎は、まるで生きているかのようにベルを追いかけ、その体を包み込む。
「ぐおおぉ!くそ、くそぉぉ!!」
その言葉を最後にベルは完全に消えていなくなった。
ベル達がいなくなった事で、異常気象で黒い雲がかかっていた空は少しずつ晴れていき、星が瞬きが見えるようになっていった。依然として町は、燃えている。生き残った人はいない。その事実は、2人の心に深く突き刺さった。
「じゃあ、私はこの町の人達の魂を天界に送り届けて来ます。あとはよろしくお願いしますね」
「天界、か。エマリーに会えるのだろうか」
「アル君!またねぇ」
オーファンは、ウルやアリス、町の人達を連れて天界に向かった。丸一日かかるそうだ。アルフレッドは、それまで異世界オーファンで待機となった。
町の近くの丘でアルフレッドとカルナは、座っていた。というのも、2人とも、疲れ果ててアイールまで移動したく無かったのだ。という事で、近くの丘で夜を過ごす事になった。
「アルフレッド、改めてありがとう。お前がいてくれたから、今回は勝てたと思う」
「何を言ってるんですか。俺は、そんなに活躍してないでしょう。今回の最大の貢献者は、隊長じゃないんですか?」
「それは、そうだろう。隊長だからな」
即答するカルナにアルフレッドは苦笑いを浮かべる。そして、2人で寝転がり、夜空を見上げた。
「今回の被害者達には、悪い事をした」
カルナは、小さく呟いた。
「しょうがない……とは、言えないですよね。たとえ、小さな町の住民だって生きている。それを守れなかったのは、俺らの責任です」
「そう、だよな。私は、私達は弱かった。だから、強くならなくてはいけない。全てを守れるように、強く」
カルナは、決意のこもった目で言う。その目には、誰にも負けない覚悟の炎が灯っていた。
「そうですね。俺も、そう思います。俺は、この世界の存在では無いので、ここに残って戦うということは出来ませんが、また、このような事が起こった時には、全力で手伝いますよ」
「あぁ、よろしく頼む。まぁ、お前が来なきゃいけなくなるような事は起こらない事を祈るがな」
2人は笑いあった。アルフレッドも、もう、こんな事が無いようにと願いながら目を閉じ、眠った。
次の日、早朝に丘を出発した2人は、昼過ぎに都市アイールに到着した。部隊の隊員達に囲まれて、質問責めを受ける。どうやら、2人を探す為の特別部隊を作っている最中だったらしい。重々しい雰囲気の中、始まっていた会議は、2人の帰還により、壮大な宴へと変わった。
「流石だな!まさかここまでやるとは思わなかったぜ!」
アルフレッドは男隊員に肩を組まれる。ちなみにアルフレッドは今、羽を戻している。無地の布の服を着て、はたから見ても、悪魔だと分かる人はいない。アルフレッドは、照れ臭そうに笑った。
「カルナ隊長!ご無事で良かったですぅ!」
女隊員が泣きながらカルナに抱きつく。カルナは女隊員を抱きとめる。
「あぁ、すまなかったな。心配かけた」
そう言った彼女の顔は、とても朗らかで、綺麗な笑顔だった。
そうして、時間は過ぎ、辺りは少しずつ赤くなってくる。隊員達は、武器を構え、都市アイールの外で、その時を待った。
「今日も来るのだろうか」
「分かんないな」
「でも、原因だった。ベル総隊長は倒したんでしょう?大丈夫じゃない?」
心配する声、楽観視する声が上がる。カルナとアルフレッドは、ただ、ジッと夜が訪れるのを待った。
そして、空は星が瞬く夜へ変わった。隊員達の歓声が上がる。
「異常気象が……来ない!!」
「やったぁ!!私達勝ったんだよ!!」
次々に歓声が上がり、全員が1箇所に集まっていく。抱き合う者。雄叫びを上げる者。持ち込んできた酒をがぶ飲みする者。喜び方は人それぞれだったが、心の底から喜んでいる事だけは間違い無かった。カルナは、その光景を脳内で焼き付けるかのようにジッと見つめる。
「イマリアさん、私は最強の騎士になれたでしょうか」
カルナの問いに返してくれる者は、誰もいない。しかし、カルナは笑顔で一歩を踏み出す。
「アルフレッド!せっかくだし、私達も混ざりに__」
自分の後ろにいた筈のアルフレッドに振り向きながら手を差し伸べる。しかし、そこにアルフレッドの姿は無かった。あるのは、ただ広がる草原だけだった。
「……そうか」
カルナは、悲しそうな顔で呟く。分かっていたとしても、別れというものは辛い物だった。
「ありがとう」
それでも笑顔でカルナは、お礼を言った。聞こえているかどうかは、わからない。ただ、無性にそう言いたい気分だった。
カルナは、また振り向くと、1人、歓声の輪の中へ歩いて行った。
アイール平原の南に位置するシュラウ湖。そこに、黒髪の少年と薄桃色の髪をした女性が立っていた。
「本当に行かなくて良かったんですか?」
オーファンが言った。アルフレッドは、静かに笑みを浮かべる。
「良いんですよ。そんなに長居もしていられませんし。それに、別れなんてあまり経験無いですから、どうしたらいいかも分かりませんし。いつの間にか消えていた……の方がカッコいいですから」
「……そうですか」
オーファンは笑顔で呟く。しかし、その後直ぐに真剣な表情になった。
「あのベルとかいう悪魔ですが」
ピクリとアルフレッドの顔が動く。
「その悪魔が開けた異世界の扉。どうやら魔界に繋がっていたようです。魔界は、負の感情で溢れかえっています。ですから、あそこまで巨大なアンチも生まれたのでしょう」
こんな事、最近は無かったのですが__。そうオーファンは締めくくった。こんな事というのは、悪魔が世界に介入してくるという事だろう。アルフレッドは、顎に手を添え、考えるそぶりを見せた。
「まぁ、今考えても仕方ありません。どうするかは、帰ってから決めましょう。おそらく、次の仕事も待っているでしょうし」
アルフレッドは背伸びをして言った。オーファンは「そうですね」と呟き、異世界の扉を顕現させる。
2人は、もう一度都市アイールを振り返った後、異世界の扉に入って行った。
「お元気で」
そう呟いたアルフレッドは、スゥと消えて行った。
これにて、第1章が終わりとなります。
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