治療と再会
「……カルナ隊長」
アルフレッドの声が小さな部屋に響く。小さな部屋の真ん中に小さく座る彼は、目の前の布団に横になるカルナを見る。鎧は既に外されており、白いタンクトップから、胸のあたりに大きなアザが見えていた。かなり危険な状態だったらしいのだが、幸いにも、この町に入って1番最初に尋ねた家が、医者の家だった事、薬草を扱う家がこの町にある事もあり、なんとかなるかもしれないとアルフレッドは、その医者__ロウに言われた。そのロウは、今、その薬草を取りに行っている。
アルフレッドは、今にも消えそうな呼吸をするカルナを見つめる。
「……オーファンさん。自分は、今、役に立てているのでしょうか」
アルフレッドは、オーファンに問いかける。オーファンはふわふわと浮かびながら、アルフレッドの横に座る。
「それは、正直、分かりません……が、役に立てているかもしれません。実際にここまでカルナさんを運んで来たのはアルフレッドさんですから」
オーファンは、優しい声色で言った。
「……確かに隊長をここまで運んだのは自分です。それはそうなのですが……。それは元々は自分があの怪物を倒せなかったからだと思うのです。運んだ、運んでない以前に、あの戦いの中で1番役に立っていなかったのは自分です。ただ、怪物を倒せもせずに抑えてただけ」
アルフレッドは、自身の黒い髪をグシャリと潰す。
「それは……。しかし、それはあなたでないと出来ない事ではないですか?」
「……分からないです。ただ、自分がカルナ隊長を援護する形をとり、真っ先に怪物を倒しておけば、もっと楽に、安全に倒せたのは事実です」
「それは、カルナさんの武器があれほどの力を持っている事を知っていればではないですか?」
実際にカルナがEマグナムを使ったのは今回が初めてだった。
「……すいません。ちょっと気持ちが後ろ向きになってしまってます。少し、気持ちを整理させて下さい」
アルフレッドは、無理矢理、会話を切ると目を瞑る。オーファンはアルフレッドを見て、優しい笑顔を向けると、ふわりと部屋の外へ消えていった。
「何が、期待の新人だ……!」
頭の中で、総隊長__ベルの言葉が聞こえてくる。アルフレッドは両手で、髪を掻き回す。その後、また、グシャリと髪を潰した。ギリッと歯を食いしばる。少しだけ目も潤んでいた。
「肝心なところで役にも立てない……!俺は、何の為に、この…世界に、来たんだ…!何の為に、天使に……!異世界課に……!」
噛んだ唇から少し血が出てくる。それにも気付かずに彼はただ頭を抱えた。
「い…まの、はな、し。本…当か?」
アルフレッドはハッとする。部屋には、今、アルフレッドとカルナしかいない。彼はカルナの方を見た。カルナが薄っすらと目を開けてこちらを見ていた。呼吸は変わっていないが、意識は、はっきりしているようだった。
「カルナ隊長!」
アルフレッドは声を上げる。
「しん、ぱいを…か、けたな……」
カルナが苦しそうな声で返事をする。
「それ…よりも、さっきの……は、なし。本…当……か?」
「さ、さっきの話とは一体__!」
アルフレッドは最後まで言葉を出す事が出来なかった。カルナが今までにない真剣な眼差しで彼を見つめていたからだ。
「……そうです。俺は、こことは別の世界の人間__いや、人間ですらない。天使なんです」
「……そ…そうか…………ふふっ」
「なんでそこで笑うんですか」
突然笑ったカルナにアルフレッドが問いかける。
「いや、天……使も、案外……人間ぽいと、思ってな」
「……どういう意味ですか」
「お前、さっき……自分が、役に、立てて……いるのかと、いっていた…だろう?」
「確かに言っていましたが」
「正直に…言おう……。お前が、それを……考える、必要は無い。それを、決めるのは……お前じゃ無い……から。それ…と、自分を、責める……必要も……無い。私や、他の奴…が…ちゃんと、必要な…時に…責めてくれる…からな」
カルナは「ぐっ」と呻き声を上げながら隣に胡座をかいて座るアルフレッドの足に手を置く。
「お前に……出来るのは、努力……だけだ。死ぬ気で……頑張れ……!少年……!」
カルナは、そこまで言うとニカリと微笑む。アルフレッドは、一瞬唖然とするとまるで、憑き物が落ちたような顔をして言った。
「ありがとうございます。………………ただ俺、160歳超えてるので、少年じゃないですよ」
「………………そ、そうか」
「……おぉ!目が覚めたのか!」
暫くして薬草を持ったロウが部屋の中に入ってくる。カルナは、たどたどしい口調ながら、彼に謝罪とお礼をいう。ロウは、とんでもないと顔を横に振る。
「よし、意識も戻ったことだし、直接薬を飲ませるからな。しかし、薬を持ってくる前に意識が戻って良かったな!戻んなかったら座薬にして摂取しなきゃならなかったからな!」
ガハハとロウは笑う。意識が戻った事で少し、安心したように見えた。アルフレッドとカルナは、苦笑いを浮かべた。
バタバタと何人かの足音がした。ロウは、部屋の中にある木で出来た古い棚から乳鉢と乳棒を取り出しながら、アルフレッドに言った。
「外からなんかバタバタ聞こえてくんなぁ。さっき坊主が言っていた、お仲間さんじゃないんかい?」
アルフレッドは頷くと外に出る。案の定2人の隊員が町中を歩き回っている。自分達を探しているのだろう、アルフレッドはそう考え、2人に声を掛け、ロウの家に案内した。
「2人も来んのかい。うちは、そこまで広い方じゃないんだがなぁ。そうだなぁ……」
ロウは、薬草を乳鉢と乳棒ですり潰しながら、考える。
「坊主供は、井戸で水を汲んで来てくれ。桶一杯に2つだぞ。家を出て右にずっと行けばあるから。そこの嬢ちゃんは、そこの棚からコップと小さい桶、それから布を用意してくれ」
ロウは動ける隊員全員に指示を飛ばす。隊員達は、一瞬唖然とするが、言っていることを理解すると、各自行動した。
アルフレッドは男隊員と共に井戸で水を汲んでいた。
「アルフレッド」
男隊員はアルフレッドに呼びかける。アルフレッドは、「何ですか?」と短く返した。
「まず、西軍のやつらは自軍に戻って行ったから、こっちに来ることはない。向こうも自分の隊があるからな。そして、これからの事なんだがな。とりあえず明日の朝、俺は報告の為に、1度アイールに戻る。隊長があんな状態だからな。それも含めて、色々と総隊長に報告しなきゃならん。だがお前とあいつは、カルナと一緒にここにいろ」
あいつとは、女隊員の事だ。アルフレッドは、少し考えた後言った。
「……どうしてですか?なら自分も一緒に__」
「ダメだ。万が一、さっきの怪物がまた、この辺に出たらどうする。隊長は、おそらくあの体で無理矢理戦いに行くだろう。それどころか、少しでも歩けるようになった段階で無理にアイールに戻るかもしれん。それじゃあ、せっかく助かった命を捨てるようなもんだ。それに、あいつも実はかなり怪我をしている。平気なフリをしているが、無理をしているはずだ。おそらく医者のじーさんは、そういうのを見極めてコップやら布やらの準備をお願いしたんだろう。まぁ、単純に女だったからかもしれんが」
そこまで言って、彼は水の一杯入った桶を持ち上げ、元来た道を戻り出した。アルフレッドは、彼の後を追うように桶を持ち、歩き出した。
アルフレッド達がロウの家に入ると、焦ったような表情の女隊員が目に入ってきた。
「大変です!カルナ隊長が!」
驚く2人は、急いでカルナに駆け寄る。カルナは、大量の汗をかいていた。呼吸も弱く、荒い。2人の顔にも焦りが見える。
「おいこら嬢ちゃん、あんま坊主供を焦らせんな。そこまでの問題はねぇよ」
ロウが女隊員を叱る。その後、ため息を1つ吐き、先程、薬草をすり潰していた乳鉢を取り出して言った。
「こいつを飲ませただけだ。シラキ草っていってな。人間の自己修復機能を活性化させるんだよ。活性化させるから熱も出るし、汗も出る。ほら、そこでポケ〜とする暇があったら、その水と布で汗でも拭ってやりな」
女隊員は、布を井戸から持ってきた水に浸し、固く絞った後、カルナの体を拭き始める。最初は、アルフレッド達も手伝おうとしたが、「女性の体に触るなんて、絶対にダメです!」と、頑なに手伝わせようとしなかった。
「ロウさん、トマク草の汁を持ってきました。一応、簡易的な釜戸と火種も持って来ましたが、そこに寝ている彼女の頭の奥で煮沸させればいいですか?」
玄関の扉が開けられ、2人が石のお椀のような物と、小鍋を持ってくる。その2人は、アルフレッドの見知った顔だった。
「……あれ?君は」
2人の中の1人__ウルがアルフレッドの顔を見て言う。そしてもう1人__アリスがアルフレッドに指を差し、叫ぶ。
「アル君だ!!」




