家族と相棒
アルフレッド達が戦っていた平原より更に北にあるバリオンの町__。そこの人々は、ほとんどの人が、家の窓から空を見上げていた。
「お父さん……。あれ、なんか怖い」
その町の一角__。ウル・バートン家では、窓の外を見ながら、震える、ウルの娘、アリス・バートンの姿があった。窓の外、夕焼けの空には大きな穴が開いており、そこから何かがうごめいている。
「大丈夫だ。今、対アンチ部隊が戦ってくれているはずだ。もしかしたらアル君も戦っているかも知れないよ」
アリスの後ろからウルがホットミルクの入ったカップを2つ両手に持ってくる。そのカップを部屋の中央のテーブルに置き、アリスを手招きする。部屋の中央にはテーブルと椅子、周りに本棚や食器棚が並んでいる。壁や床は木材で出来ており、2人の気持ちを落ち着かせた。
「アル君!じゃあ安心だね!」
アリスはテーブルにテトテトと歩いてきてウルの隣の椅子に座る。カップを両手で持ち、ミルクを飲んだ。
「……大丈夫だろうか」
アリスにも聞こえない声でウルがボソリと呟く。そして、アリスがカップを置いたのと同じタイミングだった。
「グガアアアアアアア!!!」
「ひっ」
何かの咆哮が響き渡る。アリスは怯えて体をビクリと振るわせる。
「……大丈夫、大丈夫」
ウルはアリスの頭を撫でながら、語りかける。それは、まるで自分にも言っているように聞こえた。
カップに入ったミルクも飲み終わり、徐々に怯えていたアリスも、落ち着いてくる。もう、怖がっている素振りなど見せずに窓際に立ち、外を見つめている。
(なんだかんだ言って、この子も強い子だ)
ウルは窓に向かって外を見つめる彼女の背中を見て思う。
(2年前までは泣き虫だったのになあ)
ウルは、部屋の隅にある写真立てを見つめる。バートン家の家族写真だ。そこには、アリスと手を繋ぐウル、そしてアリスの反対の手を握る女性__ウルの妻の姿があった。アリスは満面の笑みを浮かべているが、写真を撮る瞬間にアリスがジャンプをしていて、ピントが合わず、盛大にブレている写真だった。前までは、ウルの腕の中で大泣きしているアリスと苦笑いを浮かべるウルとウルの妻との写真を飾っていたのだが、アリスが替えろ替えろとうるさかったので今の写真になった。泣いている自分が写っている写真がよっぽど嫌だったのだろう。ウルはそう感じた為、しょうがなく写真を替えた。
「あれから全く泣かなくなったなあ」
ウルは呟く。その背中は少し寂しそうに感じた。
「見て見てお父さん!」
アリスが窓の外を指差し、言う。その言葉で我に帰ったウルは、窓の外を見る。そこには薄緑の巨大な直線が空に向かって伸びていた。
「綺麗だねー」
「……そうだね」
アリスが笑顔で言う。ウルはポンとアリスの頭の上に手を置き、答えた。
(どちらなのだろう)
彼はアリスの頭を撫でながら考える。あれは、対アンチ部隊の反撃の印なのか、それとも……。
少し時間がたった後、ドンドンドンドンと玄関から扉を叩く音が聞こえた。
「こんな時に誰だろうか……。はい、今出ます」
ウルは玄関の方に向かうと声が聞こえた。
「あぁ、バートンさん!ワシだよワシ!」
少し掠れた、男の声がした。その声は、ウルのよく知る声だった。急いでいるような口調だった為、ウルは少し急ぎ目にドアを開ける。
「なんだ、ロウさんでしたか。何か御用ですか?」
ウルは、目の前にいる男性__ロウに声をかける。ロウは、この町に住む唯一の医者で、ウルの家の2軒隣に住んでいた。昔は都市で働いていたのだが、年のせいもあって故郷に戻ってきたのだ。彼は58歳の白髪のおじいさんで、簡単な布の服の隙間から肋骨が浮かんでいる。だが、年と外見の割に、体力はあるようで、町の草むしりや掃除、時には、畑の手入れの手伝いなどもやっていた。
「急ぎでシラキ草とトマク草の汁を分けてもらいたいのだが」
ウルは、基本的には運搬業を営んでいるが、副業として、運搬の為に都市や他の町に行っては、珍しい物や、食料、薬品などを大量に買って、バリオンの町の人々に安く売るという、仕事をしていた。その為、ウルの家の倉庫には、そういったものが、多く保存されていた。
「……シラキ草はありますので、すぐにでも出せますが、トマク草の汁は今、手元にはありません。トマク草自体はあるので、作る事は出来ますが」
「あぁ、それで構わない。とりあえずシラキ草だけでも分けてもらいたい。トマク草の汁はどれぐらいで出来そうだ?」
「おそらく、15分程ですね。アリス!倉庫からシラキ草1束とトマク草1束、トマク草は根元を切った状態で持ってきてくれないかい?」
「わかった!」
ウルからお願いを受けたアリスは急ぎ足で倉庫に向かって走っていった。
アリスが出て行き、シンと静まった部屋内でウルの声が響く。
「このタイミングで薬草とは、何かあったのですか?」
「あぁ、さっきの何かの叫び声__といってもおそらくアンチだろうがな。それと、薄緑色の何かが南の空に出ただろう?」
「はい。確かに見ましたが」
「そこで戦っておった対アンチ部隊の隊長さんが負傷しておってな。先程、若いもんに担がれて、ワシの所に来たんだ」
「っ!それは本当ですか!?」
ウルは目を見開き、衝撃を受けた。隊長という事はカルナ・アイギス隊長で間違いないだろうと、ウルは結論付ける。彼は、以前、都市に仕事で行った際に、アリスに連れられて対アンチ部隊の公開訓練と試合を見に行った事があった。その時の彼女は、まさに圧倒的な力で他の隊員達を次々に倒していった。しかし、それでも慢心しない。強い人だとウルは感じた。そんな人がまさか、自分で移動出来ないほどの負傷をするとは思えなかった。
「お父さん!言われた通り持って来たよ!」
アリスはウルにシラキ草を渡す。トマク草はもう既に、机の上置かれていた。
「ありがとう」
ウルはアリスの頭にポンと手を置き、お礼を言う。そして、シラキ草を受け取り、ロウと向かい合った。
「これがシラキ草です。とりあえず、1束お渡しします。足りない事は無いとは思いますが、足りなければまた、言ってください。トマク草の汁は、私が今から作りますのでその後にロウさんのお宅に持っていきます」
「あぁ、それで良い。何から何まですまない」
ロウはウルからシラキ草を受け取り、頭を下げる。そして、カルナの治療を行いに、戻って行った。
ロウを見送った後、ウルは玄関の扉を閉めて、棚から長方形の布を1枚取り出す。それを頭に巻いて、袖をまくった。これが、ウルの作業をやる時の格好なのだ。
「アリスもやる!」
アリスがウルの足元でぴょんぴょん跳ねる。ウルは苦笑いを浮かべるが、棚から少し小さめの布を取り出し、アリスに手渡す。アリスは笑顔でそれを受け取り、ウルと同じように頭に巻き、袖をまくった。
「よし、じゃあ始めようか。アリス、調合用の小鍋に真水を少しだけ入れておいて」
「わかった!」
アリスは調理室の棚に向かって歩いていく。その姿をウルはじっと見つめていた。
もう、2年前とは違うんだという事をウルは感じた。今では、こうして、一緒に仕事をしている。まるで、相棒みたいだなとウルは心の底から思った。
「よし!やるか!」
ウルはパンと頬を叩き、調理台と向かい合った。




