兵器と傷
大きな音が鳴り響き、巨大な黒い手が地面に衝突する。アルフレッドは、そのまま着地し、構え直す。
「気をつけてください!囲まれていますよ!」
アルフレッドが叫ぶ。その声にハッとしたカルナ達は周りを見渡す。何もいなかったはずの空間が歪み、アンチが大量に出てきた。
「俺がこの手を抑えておきます!その間に周りのアンチをお願いします!」
アルフレッドが怪物の手の方に走りながら叫ぶ。
「ちぃ!こんな時に!」
男隊員が叫びながら素早く近くのアンチに向かって剣を振り下ろす。斬られたアンチの左肩が飛ぶ。血が飛ぶような事は無いが、斬られた肩の部分から黒いモヤのようなものが溢れ出ている。しかし、アンチは少しも怯みはせず、男隊員の肩に掴みかかろうとした。
「しまっ__」
男隊員は、思わず声を上げるが、その瞬間、アンチの首から上が飛ぶ。そして、アンチはそのまま、前のめりで倒れた。
その奥から横に剣を振り抜いた体勢の女隊員が現れる。
「何やってんですか。私が居なかったら、あなた危なかったですよ」
「わ、悪い」
女隊員は剣を構え直し、言った。男隊員はバツの悪そうに答える。
「あまり、深追いし過ぎるな!敵の数が多い!2人1組で1体ずつ確実に倒していくんだ!」
カルナが叫ぶ。隊員達は、互いの顔をみて頷くと、背中を向けあって、周りに群がるアンチと相対した。
「ふっ!!」
アルフレッドは、空を舞っていた。襲ってくる手を避け続けている。アルフレッドは隙があると、すかさず、蹴りを食らわせていたが、怪物の手がダメージを負っている感じを受けられなかった。
「くそ!全然効いてない!どうしたら!」
アルフレッドは、焦っていた。アルフレッド自身は疲れているという訳では無かったが、予想以上に敵の数が多かった。戦い続ければ、当然、隊員達も疲れてくるだろう。疲れてきた所を突破されて、人里にでも行ってしまえば、完全にアウトだ。しかし、アルフレッドは、怪物の手の動きを封じる事で手一杯。アンチの討伐に加わる余裕は無かった。
「くっ……!このままでは!」
アンチを次から次に斬り伏せるカルナの顔にも徐々に焦りが出てくる。カルナといえど、体力は無限ではない。それはカルナ自身もよく分かっている事だった。
「うわっ!」
カルナは男隊員の声に反応し、そちらを見る。アンチが2体、男隊員の横を抜けて、何処かへ走っていく。
(あっちの方角には、確か、小さい町があった筈!)
カルナは舌打ちを1つして、迫り来るアンチの攻撃を避けながら太ももに巻いてあるベルトに手をかける。そして、そこに刺してある小型のナイフを逃げるアンチに向かって投げた。
ザクリとナイフはアンチの足に刺さる。しかし、アンチは、止まる事なく走っていく。
「くそ……。やはりナイフ程度じゃ足止めにもならないか」
カルナはしかめっ面で吐き捨てる。こうなれば、捨て身で、この場を切り抜けて行こうと思ったその時__。
「カルナ隊長!助太刀します!!」
走り抜けるアンチの1体、その足と、肩、頭に1本ずつ矢が突き刺さる。矢に討たれたアンチは、そのままぐらりと倒れる。
「じゃあ、俺も1匹貰いますよっと!」
もう1体のアンチに近づく影があった。アンチにすぐさま近づくと、手に持っている三節棍を振り抜く。三節棍の先端には、刃物が付いており、アンチの肩に刺さり、そのまま横に振り抜く事で、首から上を飛ばした。
「西部隊、カルナ隊長に助太刀致します!」
「つっても、俺と副隊長の2人しか居ないんですけどね」
現れたのは、西部隊の副隊長とレオンだった。カルナは突然の出来事に一瞬驚くが、口角を上げる。
「ありがとう!これで、押し切れる!」
カルナは2人に礼を言うと、自分の周りにいるアンチ3体を体を回転させて、ほぼ同時に斬りつける。胴体から真っ二つに斬られたアンチをすり抜け、怪物の手に向かって走り出した。
「いきなりで悪いがここは任せた!!私はアルフレッドの手助けに行く!」
カルナが叫ぶ。レオンは、すぐさま、敵の懐に飛び込んで、次々とアンチに斬りかかっていった。副隊長は、矢を2本持ち、素早く放つ。その矢は、アンチの胸と頭を的確に打ち抜いていった。
「おらぁ!」
アルフレッドが怪物の手を蹴り飛ばす。何もダメージは与えられていないが、時間稼ぎにだけはなった。
「あれは何なのですか!?」
アルフレッドはオーファンに聴く。オーファンは残念そうに首を横に振った。
「正直なところ、私にも分かりません。見たところ、あの手は、異世界の扉の中にいる、巨大な怪物の手のようですね。そして、おそらくでしかありませんが、あの怪物はアンチの進化系のようなものでしょう。何故、どのようにあのような姿になってしまったのかは想像出来ませんが物理の攻撃が効かないとなると、かなり厄介な敵ですね」
オーファンは手を顎に当て、言う。
「とりあえず、時間を稼ぎます。その内に突破口を探ります」
アルフレッドは、そう言うと、怪物の手に向かって駆け出す。土を蹴ると、周りの地面が少しえぐれる。その勢いのまま、怪物の手に膝蹴りを食らわせた。
「ちっ、こいつもダメか」
アルフレッドはボソリと呟く。アルフレッド達は未だに、攻略法が分からないでいた。
「アルフレッドォ!!避けろぉ!」
アルフレッドはいきなり聞こえた声に一瞬ビクリとし、声のした方を向く。そこには、Eマグナムを腰に構えたカルナがいた。
「これで、そいつを撃ち抜く!」
Eマグナムは光を放っており、もういつでも放つ準備は出来ていた。
アルフレッドは怪物の手の指を1本掴み、上空に放り投げる。カルナの放つビームで、周りに影響が出ないようにだ。
「今です!」
アルフレッドはカルナに合図を送る。カルナは既に怪物の手にEマグナムの照準を合わせていた。
引き金を引く。次の瞬間、轟音が響き渡る。一直線に放たれたビームは、怪物の手を打ち抜き、そのまま遥か上空に薄い緑の直線を作る。
「ぐ……」
カルナが呻く。Eマグナムを放った反動でかなりの重力がカルナに襲いかかる。カルナは歯を食いしばり耐えていた。
数秒後、ビームがゆっくりと消え、そこから、中指から右半分が消え去った怪物の手が現れる。半分残っているものの、その残り半分も、少しずつ黒いモヤとなって消えていく。しかし、最後の力を振り絞ったのか、少しずつ消えながらもカルナに一直線に飛んでいった。
「カルナ隊長!」
助けに行くのは間に合わないと思ったアルフレッドはカルナに向かって叫ぶ。カルナは避けようと足に力を入れる。
(ッ!足が!)
足が動かなかった__。カルナはまるで、地面に縫い付けられたように動かない足を見る。足は小刻みに震えており、いくら動かそうとしても動かなかった。
かなりのスピードで突っ込んでくる怪物の手を見据え、思わず目を瞑る。
カルナの腹に衝撃が走る。もはや小指だけになった怪物の手がカルナの腹に正面から突っ込んだのだ。
「ごはっ!」
カルナは口から血を吹き出す。鎧を身に纏ってはいたものの、衝撃は防げず、脳が揺れる感覚に陥った。十数メートル吹っ飛んだカルナは地面を転がる。怪物の指はそのまま消えていった。上空に開いた穴もいつのまにか閉じていた。
「カルナ隊長!」
アルフレッドがカルナに駆け寄り、脈と呼吸の確認をする。カルナは生きてはいたものの、かなりの傷で、虫の息だった。
遅れて周辺のアンチを倒しきった隊員達が駆けてくる。隊員達はカルナに駆け寄り、顔を青ざめる。
「そ、そんな……」
「隊長……」
隊員達は絶句している。しかし、副隊長だけは、顎に手を当て、何かを考えている。
「とりあえず、医者に見せなければ……」
副隊長がボソリと呟く。アルフレッドは何かを閃き、オーファンを探す。
「アルフレッドさん!」
オーファンが北の方から飛んでくる。
「オーファンさん!この近くにバリオンという町はないですか!?」
「そう言うと思って確認してきました!あの林の向こうにあります!」
オーファンはそう言って北の方にある林を指差す。アルフレッドは頷き、カルナを抱きかかえた。
「アルフレッド!?何を!?」
レオンが驚く。
「ここから北にバリオンという町があります。そこでカルナ隊長を診てもらえるかもしれません。自分は先に行きますので、後の事はよろしくお願いします!」
簡単に説明だけして、アルフレッドは北の林に向かって駆けていった。




