第19話:熱帯夜01
時間の流れというのは場合によって本当に違う。
だらだらと動画を観ている時はあっという間に過ぎるのに、息を止めながら秒針を見ていると重苦しく感じる。
さっき与えられた5分は、長く感じた。
それは、最後の対戦に恐れがあったからだろう。
負ければライジングには出られない。
それがプレッシャーとなり、少しでも不安要素を取り除こうと脳がフル回転する。普段よりも思考速度が早いから、相対的に長い時間考えていたように錯覚する。
西蔵さんが使っているキャラ「キワージュ」とシハラの相性は悪い。
追い詰めることができれば優劣がひっくり返るが、それが非常に難しい。
キワージュは、キリツメとは別タイプの遠距離キャラ。
シューティングタイプなんて言われることがある性能で、飛び道具に特化している。
キリツメとの違いは、画面端にいても届く攻撃と、逃げ回るために高い機動力を持っていること。
その変わり、体力はスピードキャラよりも低く、攻撃力も無い。
シハラと相性が悪い理由は、いくつかある。
どこにいても攻撃が届くので、スピードキャラのように近づいてこない。
無敵技を持っていないが、素早いので捕まえるのが難しい。
そして、弾速の遅い飛び道具を持っている。
弾速が遅いことは本来デメリットなのだが、遅すぎる弾速はかなり厄介なのだ。
全然弾が進まない内に技の硬直が解けるので、飛び道具と並んで攻めることができる。
そうなると、こちらは手を出しにくくなる。
攻撃を当てられても相打ちになるし、ガードされたらそこからコンボを食らう恐れがある。
また、弾と別行動を取られても、こちらの行動に制限がかかるので動きを読まれやすくなる。
そうなる前に攻めるのが定石なのだが、シハラは動きがにぶいのでそれも難しい。
故に相性が悪い。
これは、僕にはまだライジングは早いという天のお告げなのか、はてまた、ライジングへの最後の試練なのか。
5分間をフルに使って、いつもとは違う精神状態になってしまった。
今までの調子の良さはどこかへ行ってしまい、自分が緊張しているということしかわからない。
こんなんじゃ、ライジングに出れたとしても…。
「時間です!現内くんと西蔵さんは席についてー」
鈴木さんが5分経過を告げる。
僕はまわりの応援に背中を押してもらい、対戦台についた。
あれだけ色々考えていたのに、今は「スタートボタンを押して、キャラを選んで…」なんて、目をつぶっていてもできそうなことを考えている。
頭をほぼ真っ白にしている僕の耳に、かすかに聞きなれたかわいい声が届く。
「えっ、うそ、本当に?」
そんな、誰かに何かを訪ねた結果うれしい事実を知ったようなリアクション。
「現内さーん!がんばってくださーい!」
その声が、一際大きくなった。
思わず振り返ってみると、栄樹さんが両手を振りながら応援してくれていた。
そのすぐ横で、お兄さんが嫌そうな顔をしている。
「はは」
僕はその見慣れた光景に少し安心感を得た。
視野が、ちょっとだけ広がっていくのを感じる。
栄樹さんのおかげで、冷静さを取り戻せた気がした。
お礼の意味を込めて、僕は栄樹さんに小さく頷くと、スタートボタンを押す。
僕がシハラを選択すると、西蔵さんもキワージュを選択して、対戦へと移行していく。
何千回と見た画面展開を終え、総当たり戦の最終戦が始まった。
開幕、僕が選択した行動はしゃがみガードだった。
キワージュが逃げ回るのはわかっているので、攻撃を出すなり前へ出るなりするべきなのだが、ここは相手が"西蔵さん"だから我慢した。
西蔵さんも僕と同様にムラッ気があると言われている。
その理由は、読み重視を通り越して勘重視と言っていいほど奇抜なプレイをする人だからだ。
キワージュのような体力の無いキャラは、まるで作業のようなミスの無いプレイングが求められる。
当然、西蔵さんもそれができるのだが、思いがけないところで緩急をつけてくる。
相手を画面端に追い込むほど攻め上がってきたり、開幕からプレイヤー読みを出してきたり、かと思えば突然逃げ回ったり。
観戦する分にはミラクルが起こるかもしれないので楽しいのだが、対戦するとなると疲れる。
前回も、前々回も開幕の読み合いに負けている。
劣勢スタートでシハラがキワージュを追いかけるのは精神的にも負担が大きい。
ここはじっくり立ち回って、西村さんのムラッ気を刺す。
と考えながら、キワージュがバックステップ、またはジャンプ読みの対空攻撃をしてくるのを想定していると、なんと真っ直ぐ走ってきた。
なっ!?
僕は反射的に投げ返しのボタンを押した。
しかし、ボタンを押すのが早すぎたために、カウンター投げをくらってしまった。
キワージュの投げは追撃できるタイプ、しかもカウンターなので通常よりも高く打ち打ち上がる。
画面の端にカウンターと表示され、西倉さんがそれを見逃すわけもなく、きっちりカウンター始動のコンボをきめられてしまい、スタートからいきなり大ダメージを受けてしまった。




