第18話:いざ表舞台へ02
「さて、今日もチーム活動を始めたいところなんだが…」
全員が集まったところで、いつものようにお兄さんが最初に話をする。
「ライジングのオーダーを提出する日が近い。そこでだ、今日一日をすべて総当たり戦に使って、レギュラーメンバーを決めようと思う」
そんな重要決定事項を突然聞かされても誰も何も言わなかったが、ピリッとした空気を僕は感じた。
今日で、目標にしていたライジングに出場できるかどうかが決まる。
ここ最近の戦績がいいだけに、期待がかかって余計に緊張してきた。
「中には負け越していて出場を諦めている奴もいるだろうが、ちゃんと勝つつもりで対戦してほしい。
その対戦は、出場がかかった誰かに影響するかもしれないんだ。悔いが残らないようにしよう」
お兄さんは鈴木さんの方を向いた。
「たしか今日一日総当たりをやれば、キリよく終われるんだよな?」
「うん。このままいけば、いい感じにレギュラーが決まりそうだよ」
「…だそうだ。お前ら、気合入れていこう!」
お兄さんがそう締めくくると、鈴木さんが指揮を取り、最後の総当たりが始まった。
僕はここまで勝率75%。
かなり勝ち越しているが、特定の人達に勝てていない。
その人数が、ちょうどレギュラーになれる5人。お兄さんを含む、格ゲー歴が長いベテラン達。
その人達に僕だけが勝てていないなんてことはないだろうから、出場できそうでできない微妙な状況だ。
「おっ、本当に気合が入っているね」
自分の置かれた状況を整理していると、横から声をかけられた。
かなりフォーマルな格好をしているその人は、僕の隣に来るとゲーム筺体の方を向いた。
名前は東錠さん。ベテラン勢の一人。
「私が見た限りだと、現内くんかなり勝っているよね?レギュラーになれる可能性高いんじゃない?」
「勝率はたしかに悪くないんですが、東錠さん達に勝ててないんですよ」
「"達"か。それで険しい顔をしていたのか」
「みなさんで今どのくらい勝てているのか?って話はしなかったんですか?」
「してないよ。それだけみんな真剣でフェアにやっている」
ということは、全体を把握しているのは鈴木さんだけってことか。
出場が確定していて気を抜いている人なんていないということ。
まぁ、最初からそんなものは期待していなかったけど。
「ほんと、いいチームだよねここ」
後ろから別の人が話に入ってきた。
全身を黒で統一したこだわりを持つその人は、僕と東錠の背中を軽く叩くと、僕らの間に入った。
名前は南宝さん。彼もベテラン勢の一人で、その中では一番僕と年齢が近い。
「僕は色んな所を転々としてきたけど、ここが一番協調と競争のバランスがいい。時間をかけて総当たりで決めるなんて、実は結構難しいことだと思うよ」
「そうかもしれないね。栄樹くんはメンタル面も試すためって言っていたけど、もしかしたらチームがギスギスしていたかもしれないな」
言われてみるとそんな気がしてきた。
手段を問わずレギュラーになろうと思ったら、派閥を作るとか、わざと負けさせるとか、そういった手段がとられていたかもしれない。
このチームのいい所は僕もたくさん見つけていた。
でも、そのおかげで回避できている悪い面なんて考えたことがなかった。
そういった事に気が付いて言葉にできるこの二人は、やっぱり大人なんだなと僕は思った。
「じゃあ、第二回戦やるよー!」
一回目の対戦がすべて終わり、鈴木さんがみんなに呼びかけた。
「えーと、一番台で対戦するのは、北森さんと現内くん」
「あ、呼ばれた」
「がんばれよ」
名前を呼ばれ、一番台へと向かう。
反対側には、もう北森さんが座っていた。
彼もまたベテラン勢の一人で、今度は一番の年配者。格ゲーの第一ブームからやっている人で、知識も豊富な人。
気さくに話しかけてくれる人だけれど、今は軽くおじぎをするだけ。
きっと、北森さんの配慮なのだろう。
僕もおじぎをして席につき、スタートボタンを押した。
シハラにカーソルを合わせ、ちょっとだけ心を落ち着けてから選択する。
北森さんが選んだキャラは「キリツメ」。遠距離攻撃キャラ。
ランブルギアの中で一番リーチの長い通常攻撃を持っていて、攻撃角度も豊富に揃っている。
当然近距離は弱いのだが、攻撃力が低いわけではないので、油断すると大ダメージをくらってしまう。
移動速度が遅いシハラにとっては、スピードキャラとは別の意味で苦戦するタイプ。
接近していかにダメージを与えられるかが勝負の鍵になるわけだが、攻撃力が低いスピードキャラよりもいかに相手の考えを読むかがポイントになってくる。
しかも、相手は知識と経験が豊富な北森さん。
この総当たり戦でまだ一回も勝てていない。苦手意識すらもっている。
しかし、一方的に負けているわけでもない。
どこかに突破口があるはずだ。
やる気と不安が入り混じった気持ちを抑えつつ、最後の総当たりの一戦目が始まった。




