第18話:いざ表舞台へ01
目覚まし時計の音で、僕は夢から醒めた。
夢の内容をはっきりと覚えてるせいか、眠気が無いすっきりとした目覚めだった。
僕は自分の部屋を見渡し、スマホの中身をチェックする。
元の世界とは決別したはずだが、もしかしたらと考えてしまい、こっちの世界に残れた証拠を探す。
スマホには、屋良さん・箕内さん・花尾間さん・関泉さん・栄樹さんの連絡先とメッセージが入っていた。
ゲームを起動してみると、ここでの二か月間の戦績がしっかりと記録されている。
僕は安堵の息を漏らし、思わず口元が緩んだ。
僕は、この世界で生きていく。
気持ちを新たにして、僕は自分の部屋を出た。
通勤のバスに揺られながら、いつものように対戦動画を観る。
その途中で栄樹さんからメッセージが来て、学校に着くまで相手をする。
本当になんでもないやりとりが続く。
昨日のネット対戦の結果、今日の予定、観ていた動画の感想。
これが意外と格ゲーのひらめきをくれる。
人に教えるのも勉強になるということで、部活でコーチをしているのがけっこう有益になっているのだが、ただの雑談もなかなか馬鹿にできない。
まぁ、楽しくやっている主な理由は、事あるごとに栄樹さんが褒めてくれるのがうれしいだけだったりするのだが。
教室に入ると、花尾間さんと関泉さんがいた。
昨日の今日なので、まだちょっとこそばゆい思いをするが、すっかり今までの感じに戻れている。
昨日の部活の後、ようやくロケテの話ができて、無事三人で行くことが約束された。
今もその話で盛り上がっている。
何かの予定を立てるのは楽しいものだなと改めて思った。
話が具体的になっていくにつれて、それが現実味を帯びてくると、待ちきれなくなってくる。
それも、かわいい女子二人と行くのだから、胸が躍らないわけがない。
当日着る服があるのか?という不安があったりするが、二人はどんな服を着て来るのだろう?という期待が上回っている。
昼休みに何気なく競技館に足を運ぶと、屋良さんが人だかりを作っていた。
屋良さんを中心に、みんなで楽しそうにゲームをしている。その中には箕内さんもいて、勝利のガッツポーズをとると、僕に気が付いて手招いてくれた。
上級生ばかりだったから遠慮しようとしたが、屋良さんに引っ張られて仲間入りを果たす。
やっていたゲームは運要素が強いレトロゲーム。これなら実力関係なく楽しめる。さすがのチョイス。
それがわかっているのなら、おとなしく運任せで楽しめばいいものを、僕はつい知っているセオリーを駆使してしまう。
圧勝という場違いな結果を叩きだしてしまうのだが、僕が強者でいる事も盛り上がれる一つの要素であるのがこの世界だったりする。
放課後。
今日はチーム活動がある日なので、ホームにしているゲーセンへ向かう。
花尾間さん達との会話もそこそこにして校舎を出ると、箕内さん渡辺さんペアと遭遇した。
各々で最近関係性に変化があった三人なので、気まずい雰囲気になった。
あははとちょっと照れ笑いする箕内さん、余計な事を言うなよと視線を送る渡辺さん、何を言っていいかわからないがスルーするわけにもいかない僕。
意外な事に一番最初に音を上げたのが箕内さんで、「じゃあね」と一言いって渡辺さんを引いてどこかへ行ってしまった。
ちょっともやっとした気持ちになったが、二人とも青春しているんだな、なんて感想を抱いて心の中で応援した。
ミツルギに着くと、めずらしく栄樹さんのお兄さんだけがいた。
まだ二人っきりになるのが少し恐かったが、ここで見て見ぬふりをしていては何も変わらないと自分に言い聞かせて挨拶をした。
案の定、「おう」とドスの効いた声で返事をされただけだけで、すぐに沈黙してしまった。
が、最近の栄樹さんの変わり様が気になっていたようで、遠回しに探りを入れてきた。
ただの部活仲間兼友達ですよという回答に嘘はないわけだが、栄樹さんが僕のことを男として好きである可能性があるのが、どうしても僕の態度をうさんくさくさせてしまう。
そのせいで似たような押し問答をループさせていると、ちらほらとチームの面々が集まってきて、次第にうやむやになっていく。
これが、今の僕の生活。生きる世界。
そして、これからが僕の進むべき道。望んだ世界。