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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
92/133

第17話:青春協奏曲~運命の世界~02

真っ暗で何も見えない。

それどころか、何かに触れている感触も無い。

自分の体が、ゆらゆらと宙に浮いているのを感じる。


これがすぐに夢だとわかったから、怖いとは思わなかった。

そう、これはあの時に見た夢とまったく同じだ。


僕はしばらく浮遊感を楽しんでいると、向こうにもう一人見えてきた。

見覚えのあるその姿は、かつての自分だった。


引き寄せ合うようにお互いは近づいていき、三歩手前くらいでぴたりと止まった。


ひさしぶり…でいいのかな?


今、僕の目の前にいるのは、元々こっちの世界にいた僕に違いない。

二か月ぶりの再会になる。


あちらの僕は、無表情でこちらを見ているだけだった。


なんとなくだけど、僕はこの夢の意味を察していた。

だから僕は、ありのままの気持ちをあちらの僕に伝えた。




君と入れ替わってから、色々あったよ。

本当に色々…。


僕には不要だって無理やり諦めていた事が、洪水のように押し寄せてきた二か月だった。


今まで他人を避けていたから、どうしたらいいかわからなかった。

恥をかいて、きつい思いをして、頭が混乱したりして。


でもね。頑張った甲斐があったよ。

今じゃ一人でいる時間の方が少ないんじゃないかな?

たまに窮屈さを感じるけど、それでも楽しいんだ。


僕が格ゲーを好きな理由はたくさんあるけれど、

もしかしたら一番の理由は"相手がいる"からかもしれない。


結局、僕は一人が寂しくて、みんなでいるのが好きなんだ。


それなのに、格ゲーが趣味だからしょうがないとか、自分は人見知りだからとか、言い訳を並べて諦めた。

こっちの世界に来ても、みんなに手を引いてもらわないと何もできない情けない奴だった。

僕は本当にダメな男だよ…。




滑稽な自分に少し笑えてくる。

けれどそれは、もしかしたら過去の自分を乗り越えつつあるのかもしれない。




聞いてよ。僕は最近大きな発見をしたんだ。

それはすごく当たり前の事だったんだけど、こっちの世界に来て、みんなと出会わなければ気付けなかった。


嫉妬のあまり他人を傷つけてしまうことがある。

自分を過信してまわりを振り回してしまうことがある。

自分の事について考えることをやめてしまうことがある。

過去を引きずったまま前へ進めないことがある。

親友の本心がわからなくなって落ち込むことがある。

親友を利用してしまって心のバランスを崩すことがある。


知識や教えとしては知っていたんだ。

でも、独りでいるとそう思えなくなってくるんだ。


"誰でも失敗する"

それだけのこと。


学校の人気者だって、真面目な優等生だって、社会経験のある大人だってダメな時がある。

失敗しなくなることなんて無いんだ。


"人生うまくいかないのは、僕だけじゃなかったんだ"


それに気が付いたら、ちょっとだけ自分を認めてあげる気になったよ。

他人を尊敬したり許したりする気になったよ。


"見えている世界が変わったよ"




ちょっとだけ胸を張ってそう伝えると、あちらの僕もちょっとだけ笑った。


ん?じゃあ元に戻るかって?


僕は笑い飛ばすようにニコリと笑顔をみせる。




それはない。


漫画や小説なら、心を入れ替えて一からやり直すエンディングを迎えるんだろうけど、

僕はそんなことをしないよ。

だって、格ゲーがこんなに認められている世界、出たくないに決まっているじゃないか。


生まれた世界で人生をまっとうしろなんて言う人がいるかもしれないけど、

生まれた国を出て海外で人生を謳歌する人がたくさんいるんだ。

だから、ただの偶然だったとしても、僕は気に入ったこっちの世界で頑張るよ。


そりゃ、本当の両親のことは気になるけど、君がいるだろ?

こっちにも僕がいる。


それに、君も気持ちは同じだろ。




あちらの僕が頷くと、ゆっくりと僕らは離れていった。


そう、これは元の世界に戻れる最後のチャンス。

でも僕らはそれを拒否した。


抵抗がまったく無いわけではない。

もう戻れないんだ。大きな何かを失う怖さがある。


けれど、僕らは流れ逃げてきた世界が気に入ったんだ。

そこで頑張ると決意したんだ。


それに文句を言う声なんて、僕はもう無視することができる。


第17話 -完-

部活パートはこれで完結になります。

次回から格ゲーパートの最終章に入ります。

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