表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
90/133

第16話:青春協奏曲~月と太陽~06

僕は黙ってそのイヤホンを受け取る。

たぶん、録音した何かだろう。僕はそう思った。

イヤホンを耳にはめると、関泉さんに目で合図した。


関泉さんはスマホを操作し始めたが、途中で固まって動かなくなった。


「面と向かわれるとつらいから、反対側を向いてくれない」


関泉さんにそう言われ、僕はイヤホンのコードを引っ張らないように一歩前に出て、回れ右をした。

平日の学校にいるのに、誰もいないくて不思議な感じだった。

なんとなく見渡していると、腰の上あたりに温かいモノがもたれかかった。

それが関泉の背中だとわかるやいなや、僕の体は強張り、ぎこちなくなる。

心音が早くなっていき、関泉さんにそれがバレてしまうのではないかと不安になってくる。

体重なんてかけていないだろうけど、ほんのり暖かい背中の感触が、女子の華奢さを感じさせる。


「それじゃ、流すよ」


関泉さんがそう言うと、イヤホンから音がし始める。

僕は、流れてくる音や声に集中する。




「今から、私が隠していた事を正直に話すね」


「うん」


聞こえてきたのは関泉さんの声で、その後に聞こえてきた相槌は花尾間さんの声だった。

今流されているのは、関泉さんと花尾間さんの昨日の会話だろう。


「…実は私、半年くらい前から気になっていた男子がいたんだ」


僕の心臓は跳ね上がる。まさか関泉さんからそんな話を聞くことになるとは想像していなかった。


「一年生の時にクラスメイトだったんだけど、その男子は誰とも関わらうともせず、ずっと一人で席に座っているような人だった。だから、一年も同じ教室にいたのに一言も話すことはなかった。

だけど、もし蓮子がいなかったら私もあぁなっていたのかな?って思い始めたら、

ちょくちょく盗み見るようになっていて、そしたらなんか、

独りででも生きているっていうか…なんか他の人とは違って見えてきて、どんどん気になり始めていた」


一人ぼっちだったのは僕だけじゃなかったんだな。

その男子に少し親近感を覚えたが、関泉さんの目にとまるだけの価値があるあたり、僕よりは魅力的だったのだろう。


「ある日、彼は大勢の前で隠していた実力を披露して注目を集めていた。

そして、クラスが分かれてしまった私の前に、今まで見せた事のない顔で現れた」


その男子は、春休みの間になにか成功の秘訣でも掴んだのだろうか?

なんにせよ、二年生になって急に人が変わるなんて、やっぱり僕に似て…。

………ん?


「彼は、あっという間にみんなに囲まれて、同じクラスだったのに私の事なんて知らなくて。

声をかけたかったけど、いきなり男子に話しかける言葉なんて持っていなくて。

どうしようか悩んでいたら、突然ばったり顔を合わせることになって」


それは…。

それって、もしかして…。


「咄嗟に出たのが、彼と同じクラスになった蓮子の事だった。

私とは同級生だよ。あなたのクラスメイトだよって。

そしたら、結構ちゃんとしゃべれちゃったんだよね」


僕は思わず振り返ろうとしたが、それを察した関泉さんが体重をかけてきてそれを阻止した。

まずは全部聞け。そういうことだと理解した僕は、おとなしく録音に戻った。


「だけど、それがそもそも間違っていた。

その時から私は、彼と私の間に蓮子を挟まないと話もできないダメな女になっていた。

自己紹介をするにも、部活の説明をするにも、休日一緒に遊ぶにも、何気ない質問をするのも…」


それを聞いて、僕ははっとさせられる思いだった。

この二か月間、けっこう話をする機会があったのに、関泉さん個人の事をあまりよく知らない。

花尾間さんの事や、二人の思い出はたくさん聞いたのに、関泉さんのことだけが極端に少ない。


「本当は私が彼と仲良くなりたかったのに、そのせいで彼の目にうつるのはいつも蓮子だった。

いつの間にか私抜きで楽しそうにしていることが増えていた。

自業自得だってわかっていても、そんな状態が耐えられなくなってきた。

だから、勇気を出して電話をかけてみた。なんでもいいから二人だけの話をしたいと思った。

でも、その電話には出てもらえなかった」


あの電話は、関泉さんにとって本当に重要なものだった。

僕はそれを踏みにじってしまった。

イヤホンから聞こえてくる関泉さんの声は、悲しそうで今にも泣きそうな声だった。


「悪気が無いのはわかっていた。けれどすごくショックだった。

口を閉ざしていないと何を言ってしまうか自分でもわからなくなっていた。

必死に耐えようとしたけどダメだった。

蓮子が、私の心配じゃなくて彼を庇ったのがトドメだった。

もしかしら、私の知らない所で二人はもう…。そう思ったらもう止められなかった」


小さなしゃくり上げるような声が聞こえてくる。

今まで抑え込んできた感情が、決壊して溢れ出ているのがわかる。


「ごめんね蓮子。

今日怒鳴ってごめん。そして、今まで利用していてごめん。何にも話せなくてごめん。

私は………


現内くんが好きだったの」


第16話 -完-

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ