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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
88/133

第16話:青春協奏曲~月と太陽~04

僕が教室に戻った時にはもう花尾間さんはいなかった。

そのまま一人で部室に向かうと、もう部活は始まっていて、そこに花尾間さんの姿があった。


遅刻で怒られるのを覚悟して部長に謝りに行ったら、箕内さんに「日直お疲れ」と言われ何の事かわからなかったが、たぶん花尾間さんがフォローしてくれたんだろうと察した。


その後はいつも通り部活動に参加した。

まわりに変に思われないように、関泉さんの事は考えないように努め、いつもより口数が多くなっていた。


自分でも不自然だなと思っているのだから、みんなにはどう見えていたのか気になった。

けれど、特に何かを指摘されることなく、何事もなく時間が過ぎていく。


最後に、屋良さんから夏の大会の簡単な説明があって、今日の活動は終わった。


「現内さーん、おつかれさまでしたー」


そんな元気な声と共に、背中に小さな両手と軽い体重を感じる。

声の主は、見るまでもなく栄樹さんである。


「おつかれさま」


僕は振り返りながら応じた。


「なんか、今日は指導に熱が入っていましたね。どうしたんですか?」


「そ、そうだった?」


無事やり切ったと思った矢先に、僕の空元気がバレていた事を知る。


「はい、大会が近いからですかー?それとも、かわいい一番弟子の成長を感じましたか?」


「一番弟子…」


たしかにそう言われてみれば、一番最初に格ゲーを指導したと言えるのは栄樹さんな気がする。

それから、休日に顔を合わせて格ゲーをしていたのだから、弟子と言えなくないかもしれない。


かわいい弟子。

思わず短めのスカートが目に入ってしまう。


「んー?」


僕がどこを見てしまったのか完全にバレたようで、栄樹さんは二ヤリと笑いながら眺めてきた。

僕は照れながら視線をはずす。


そうしたら、一人で帰りの支度をしている花尾間さんが見えた。

栄樹さんには悪いが、こんなことをしている場合ではない。


「ごめん、今日はこのへんで」


「えー!」


栄樹さんは口をとがらせて不満だとアピールしてくる。

そして、ちらっと僕が見た方に視線を送る。


「…花尾間さんと何かあるんですか?」


うっ…。

その質問にはなんにも答えられない。

僕がほんの一瞬だけ顔を硬直させると、栄樹さんはそれを見逃してくれなかった。


「ふーーーん…」


じっとりとした目で僕を見てくる。

まだ彼女なんていたことないのに、浮気を誤魔化している気分になってくる。


「まぁいいです。関泉さんが具合悪くて休んだみたいだし、それ系ですよね?」


何系か僕にはわからなかったが、これ以上の追及がなかったことに安堵する。


「じゃあ、また明日…いえ、次の部活で」


そう言って、栄樹さんは部室を出て行った。

かわいい一番弟子とやらの後ろ姿を見送り、まんざらでもない気持ちになってしまっていたが、気を引き締めて花尾間さんへ近付いていく。


「お疲れさま」


「あっ、おつかれさま」


花尾間さんは少しボーとしている様子だったが、僕の声を聞いて普段通りの感じに戻った。


「えと、大丈夫だった?」


僕は誰にも聞かれないように、小さめの声で言った。


「うん、なんとか」


花尾間さんも、それに合わせて声のボリュームを落とす。


「とりあえず、帰ろっか」


僕らも部室を出て、階段を下りていく。

お互い何かを話す気になれず、静かに下駄箱まで辿り着いた。

簀子を踏む音と、靴が入れ替えられる音だけがする。


「じゃあ、また明日ね」


花尾間さんが僕と別れようとすると、僕は一緒になって歩き始める。

あれ?と花尾間さんは不思議そうな顔をした。

僕はまわりに人がいないことを確認する。


「これから…どうするの?」


曖昧な言い方をいたが、花尾間さんには伝わった。


「…わからない。こんな言い方じゃ伝わらないだろうけど、あんなに感情的な涼奈初めて見た」


部活を終え、時間が経って花尾間さんも落ち着いてきているようだった。

表情こそ落ち込んでいるが、話し方は冷静だ。


「…そっか」


仲直りした方がいいよ。と言いたいが、そんなことは当の本人が一番思っているはずだ。

喧嘩の理由を聞いたら答えてくれるかもしれないけど、関泉さんのために話してくれない可能性もある。


そうなってしまうと、僕にできることは何も無い。


再び沈黙が訪れる。

ゆっくり歩いていてはずが、あっという間に校門まで辿り着いてしまった。

そこは、放課後に関泉さんと話した場所。


二人には仲良しでいてほしい。

でも、やっぱり僕からできることは無い。

だから、せめて言える事は言っておこう。


「何かあったら言ってよ。せっかくロケテの抽選に当たったんだ。だから…その…三人で行きたいじゃん。…ちょっとくらい力になれると思うから」


精一杯の勇気を出して、僕は花尾間さんを励ました。


「うん」


花尾間さんは短くそう言った。


「私、ちゃんと涼奈と話してみるよ」


花尾間さんの声に少し力が戻る。


「こんな事初めてだから怖いけど、涼奈は親友だから、やっぱりうやむやにはできない」


決意の表れか、鞄を持つに手にも力が入っている。


「それがいいと思う」


僕は少しだけ安心した。


「うん、ありがとう背中を押してくれて」


花尾間さんはしっかりと僕の顔を見て、笑顔でお礼を言ってくれた。

その無垢な表情に、ときめきを感じずにはいられない。

僕もつられて笑ってしまう。


「じゃあ、僕も帰るよ」


「それじゃ、また明日」


僕は花尾間さんを少しだけ見送った後、自分の帰り道へと向かった。


仲直りしたい相手がいる。

それは、つらい仲違いがあった事を意味するのだが、それまで孤独ではなかったという事でもある。

今は二人ともしんどい思いをしているのだろうけど、きっと二人ならいい思い出にできるはず。


僕にも家族がいて、話ができるクラスメイトと部員がいて、格ゲーができる仲間がいる。

でも、僕だけがこの世界の人間ではない。

そんなこと、実は関係ないのかもしれないけど。

きっと一生引きずって行くのだろう。


僕は、花尾間さんと関泉さんの事を羨ましく思った。

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