第16話:青春協奏曲~月と太陽~03
関泉さんは校門を通らずに僕を待ってくれているようであったが、振り向いてはくれなかった。
僕が関泉さんに手が届く位置までやって来て、話をするために息を整えていると、ようやく僕の方を向いてくれた。
無言のまま、いつもと変わらない表情で僕の事を見ている。
「あ…あの、関泉さん…」
言いたい事、聞きたい事がいくつも重なっていて、何から話していいか決められない。
「なに?」
関泉さんは、まるで何事もなく、部活を休んでいる素振りさえ見せない。
一見普段通りのクールな関泉さんであるが、その普段通りを演じている関泉さんに、僕は恐ささえ感じた。
ただ事では無い何かが起こっている。そう思った。
「えっと…、花尾間さんと何があったの?なんか、すごく落ち込んでいて…」
僕はその何かを探ることにした。
「………そう」
関泉さんは僕から視線をはずし、つぶやくようにそう言った。
ただの直観だが、無理をして感情を押し殺しているように僕は見えた。
「もし、僕が発端だったなら謝らせてほしい。電話に出れなくて本当にごめん、決してわざとではないんだけど、忘れてしまっていたのは言い訳ができない」
僕は深く頭を下げて謝罪した。
「別にいいわよ。現内くんは私がそんなことで根に持つ女だと思っていたの?」
「ううん、そんなことはないんだけど…」
でも、朝会った時いつもと違かったから。
そう言おうとして、僕は寸前で取り消した。
いつもと違っていたのは僕も同じだ。電話の事を思い出して、慌てふためいていた。
だから、それだけで様子が違っていたからとは言えない。
「けど、二人が喧嘩をするなんて、なにか事情があったとしか思えなくて」
「ちょっとした言い争いくらい、私達でもするわよ」
「そうかもしれないけど…」
なら、なんで部活を休んでまで顔を合わせないようにしているの?
僕はそう聞けなかった。
関泉さんのあくまでも冷静を装う態度が、僕が踏み込もうとするのを阻害する。
頭を掻き、あからさまに困り顔をしている自分を認識する。
こんなんじゃ何も解決しない。そうは思っても、なんと言っていいのか思い当たらない。
「…はぁ」
小さなため息と共に、関泉さんは目を閉じた。
「蓮子のため?」
そう聞いてきた関泉さんの声は、さっきまでと少し違った。
「蓮子を助けたくて私を追いかけて、理由を聞いたり、電話の事を謝ったりしているの?」
「それは…」
「私は…」
「………」
「私のことはどうなの?」
その問いに、僕の心は何かに突き刺された。
僕が今こうしているのは、僕が関泉さんと仲直りしたくて、花尾間さんとも仲直りしてほしくて、それで、三人でロケテに行く話がしたかったから。
そう、僕がこうしている理由に、関泉さんが入っていなかった。
何も言えない僕に、関泉さんは背を向けた。
「いや、そんなこと…」
「大丈夫。わかっている。現内くんを責めたいわけじゃない」
「だけど…」と最後にそう言って、関泉さんは歩き始めてしまった。
どうしようもないけど、このまま帰してしまってはだめだ。
そう思った僕は、思いがけず関泉さんの手を握ってしまった。
「なっ!」
僕の手に驚いた関泉さんは、反射的に僕の手を払いのける。
そうなって、僕はやり過ぎてしまったと後悔した。
関泉さんは、僕に握られた手をもう一方の手で包み込み、胸のところで押さえている。
顔は逸らされてしまい、視線は両手に落ちていた。
下校中の生徒達の好奇心を、つき刺さるように感じる。
僕の迂闊な行動が、関泉さんに恥をかかせてしまった。
「ご、ごめん」
あわてて僕は謝ったが、その焦り具合が余計に目立ってしまっている気がした。
「……もう、ふざけないでよ」
関泉さんは僕を軽くたしなめるにそう言った。
一瞬驚いたが、僕の失敗を単なる悪ふざけにしようとしてくれていると理解した。
「じゃあ、私はもう行くから」
「う、うん…」
ただ迷惑をかけるだけになってしまった僕は、もう関泉さんを止めることができなかった。
あんな状況になっても、機転を利かせてやり過ごすことができる関泉さん。
落ち着いていて、本当に気が利く。
それなのに、なぜ彼女は親友と気まずい状況になってしまったのか。
校門を通り過ぎた関泉さんを確認してから、僕は教室へと戻り始めた。
このままじゃいけない。
なんとかしなくては。
僕にできることは、何かないのだろうか?
………。
この状況を打破する事を考えたいのに。
考えなくちゃいけないのに。
僕の脳裏にある光景が何度も蘇る。
僕が触れた手を握り、少しだけ目を潤ませてながら顔を赤らめている関泉さんの姿が、僕の頭から離れない。
今、関泉さんは僕のことをどう思っているのだろう…。
そう考える度、胸の鼓動が強くなるのを感じた。




