第16話:青春協奏曲~月と太陽~01
週末が明け月曜日の朝。
僕は学校の敷地内に入り、校舎を目指して歩いていた。
眠い…。それはいつものことなのだが、今日は特に眠い。
ポケットに入れているスマホが震えた。
歩きながらスマホを取り出し、画面を確認する。
栄樹さんからのメッセージだった。
現内さん発見。なんだか眠そうですね!
周りを見渡すが栄樹さんはいない。
校舎の一年生の階に目をやるが、遠くて見えない。
栄樹さんって目がいいのかな?
じゃなくて、眠いのは誰のせいだと思っているのか?
土曜日、お互い腹を割って話した結果、僕と栄樹さんの仲は深まった。
それはいいことなのだが、ちょっと距離感がおかしくなったような気もする。
立っていても座っていても今までより一歩近いし、手や顔など肌にも触れてくるようになった。
栄樹さん的には何かふっきれたものがあり、より僕に親しみを持ってくれたのかもしれない。
もしかしたら、友達以上恋人未満という状態ってやつかも…。
もちろん、それ単体はとてもありがたい事なんだけれど、代わりに僕はお兄さんからの殺気と、他の人からの温かい眼差しに耐えなければならなくなったことは、言うまでもない。
さらに、他愛もないメッセージが僕のスマホに届くようになり、その相手をしていたら寝るのが遅くなってしまった。
思い起こしてみれば、ほぼ告白といってもいいような話に、僕は友達でいようと返している。
言葉だけで考えると、まるで僕が栄樹さんを振っているようだ。
ボタン一つでも掛け違えていたら最悪の事態になっていたかもしれないと思うと、背筋が凍る。
なので、仲直りできた代償を僕は甘んじて受け入れる。
校舎に入り、下駄箱で靴を履きかえていると、花尾間さんと関泉さんがやって来た。
「おはよう」
花尾間さんのやさしい朝の挨拶に、僕も応えようとする。
「おは…」
その瞬間、僕の中で何か大きな物が崩れたような衝撃があった。
僕は、とんでもない過ちを犯していた事に今頃気が付く。
「…よぅ」
「おはよう」
関泉さんが僕の目を真っ直ぐ見て、いつもの調子で挨拶する。
そして、僕を横切ると「いきましょう」と言って歩いて行ってしまった。
花尾間さんは「う、うん」と返事をして後を追う。
僕も振り返ったが足が動かない。
花尾間さんが一回だけ僕の方を向いてくれたが、関泉さんを追って先に行ってしまった。
やってしまった。
僕は、関泉さんのメッセージを無視した上に、それを今まで忘れてしまっていた。
やばい。絶対に怒っている。いや、嫌われてしまったかもしれない。
関泉さんなら軽く流してくれそうなものだが、あのメッセージは意味深だったので、今回だけはそれがないかもしれない。
僕はなんて謝ったらいいか必死に考えながら階段をのぼる。
関泉さんがいたらどうしようかと思ったが、教室にはいなかった。
よろよろと自分の席につく僕に、花尾間さんが声をかける。
「どうしたの?顔色が悪いよ」
「そ、そう?」
「うん…」
「………」
「もしかして、涼奈と何かあった?」
「えっ?」
すぐに図星をつかれ、僕の心臓はギュッと押さえつけられた。
「涼奈…うわの空っていうか、朝からちょっと変だったし。現内くんも涼奈のことを見てから顔色悪くしたような気がするし」
花尾間さんは、申し訳なさそうに僕らを心配してくれていた。
そこまで言われてしまっては、なんでもないとは言えない。
僕は観念して、花尾間さんにすべてを話した。
「そうだったんだ…」
「うん、だから僕が全部悪いわけで…早く謝らないと」
僕は自分の机の上に項垂れる。
すると、花尾間さんは小さく「うーん」と唸った。
「本当にそれだけかな?」
「…んー?」
「実は私、スマホについて涼奈に"終わり方が雑、無視されたかと思った"って何回か言われたことがあるんだけど、怒られたって感じじゃなかったよ」
「それは、長年の親友だし」
「私ってどんくさいから、遅刻するとか、話の内容を忘れるとか、色々やってしまったきたけど…」
「それは…、たしかにどうだろう…」
花尾間さんの話を聞く限り、関泉さんがメッセージを一回無視してしまったくらいで怒るとは思えない。
となれば、やはり電話したかった内容が重要だったのかもしれない。
「どうあれ、無視してしまった僕が悪い。ちゃんと謝るよ」
僕は体を起こし、自分に言い聞かせる。
「うん、それがいいよ。きっと許してくれる」
謝りさえすれば、嫌味一つで関泉さんは許してくれる気がする。
仮にそうでなかったとしても、無茶ぶりの一つや二つを受け入れて許しを請う覚悟だ。
だって、僕らにはロケテに行くという楽しいイベントが待っている。
こんなことで台無しにはできない。
謝るタイミングとしては、部活へ行く前がいいだろう。
僕は、人生最大の謝罪をすることを胸に誓った。




