第15話:青春協奏曲~魔女の恋愛~03
翌土曜日の正午過ぎ。
僕はゲーセンに向かって自転車をこいでいる。
いつも通りなら、ゲーセンに栄樹さんがいるはず。
彼女と何を話そうかなんてなんにも決まっていないけど、たぶんこういうことは早い方がいいと思った。
本当はもっと時間をおきたいし、時間が解決していることを願っている。
でも、後回しにしてよかったことなんてなかったから、僕は行動することを選んだ。
朝目が覚めて、家にいても落ち着かなかったから、さっさとゲーセンにいって栄樹さんを待っていたかったけど、僕の姿を見て逃げられちゃう可能性があったので、いつもよりちょっとだけ遅く家を出た。
ゲーセンの駐輪場に自転車をとめ、ランブルギアがあるフロアへと足を運ぶ前に、スマホで時間を確認する。
すると一件のメッセージが届いていた。相手は関泉さん。
珍しいな、なんだろう?と思いながら、内容を見る。
ちょっと電話できませんか?
とだけ書かれていた。
わざわざ僕の了承を得ての電話。なんだか、ただ事ではない予感がする。
僕はものすごく悩んだ。
本来だったらすぐさま電話をするところなのだが、僕は今やらなければならない事がある。
でも、いつ終わるかもわからないから「後でもいい?」なんて曖昧な返信をするのもどうも…。
だからといって、電話の要件もすぐ終わるとも限らない…。
いや待てよ。
まずゲーセンに栄樹さんがいるか確認してからでもよいのではないだろうか?
栄樹さんがいなかったら、関泉さんにすぐ電話をかければいいし。
栄樹さんがいれば、ちょっと待ってもらうメッセージを送ればいい。
それでいこう。
若干パニックになっている気がするが、これ以上の手を思いつかない。
僕はゲーセンへと入っていった。
いざ栄樹さんの件に集中すると、緊張感がどんどん高まっていき、悪い事ばかり考えてしまう。
僕を見た瞬間逃げるとか、冷たい目をするとか。
頭の中がごちゃごちゃする。
整理のつかないまま目的に到着すると、いつも通り栄樹さんの姿があった。
まだだいぶ距離があるのに、すぐにお互い目が合う。
僕はドキリとした。向こうも僕を待っていたのかと思ってしまう。
こうなってしまってはもう行くしかない。
今の状況でスマホはいじりにくい。関泉さんには後で連絡しよう。
僕は、まるで坂道をのぼっているかのような感覚で、栄樹さんに近づいた。
「んと、えーと…おはよう」
誰かに目的を持って話しかける第一声はいつだって難しい。
「もうお昼ですよ、現内さん」
「まぁ、そうなんだけど」
予想通りというか、栄樹さんから冷たい反応が返ってくる。
「まさか、来るとは思っていませんでしたよ」
「そう…かな、僕も今日は栄樹さん来ないかなって思ったよ」
栄樹さんから鋭い視線が来る。
僕は余計な事を言ったと反省した。
「………」
「………」
「何しに来たんですか?」
「それは、その、栄樹さんに…」
会いに来た?話しに来た?誤解を解きに来た?
うぅ、どれも僕の口から発せられるには似つかわしくない。
僕はつい黙ってしまう。
その困り顔を、栄樹さんは無表情で眺めている。
「ふふ」
ふいに栄樹さんが笑った。
「はぁ、あいかわらずというか、不器用というか、現内さんって実直すぎませんか?」
飽きれている感じだったが、いつものトーンで栄樹さんがそう言った。
突然の変化に、僕は呆気にとられる。
「どうせ、鈴木さんに何か言われたんでしょ?」
ずばり図星をつかれ、僕の立場が一瞬でなくなったのを感じた。
「は、はい…」
素直にそれを認める。どちらが年上なのかわからなくなる。
「それが気になるから、教えてもらえますか?」
「わかりました。えぇとですね…」
「ここでじゃないですよ。外に行きましょう。そうだな、最初に行った喫茶店なんてどうですか?」
栄樹さんは僕を先導するように歩き始めた。
僕は自分の威厳の無さを噛み締めながら、栄樹さんについていった。
喫茶店の席に着き、栄樹さんはジュースを頼んだ。
僕はまだお昼ご飯を食べていなかったからフードメニューに目がいってしまったが、コーヒーのみを注文する。
「それで?いったいどんな話を聞いてしまったんですか?」
店員がいなくなるなり、栄樹さんはさっそく本題に入った。
僕は、可能な限り聞いた事をそのまま話すように努めた。
栄樹さんの過去と、鈴木さんの後悔。
自分で説明していて思う。出会ってたった二か月の僕が、栄樹さんの暗い過去に触れている。
これは本当に、よかったことなのだろうか?
僕が話している最中に来たジュースを手に取り、栄樹さんはストローを咥える。
コップの中のジュースが減り、カランと氷が音を立てた。
「もうなんか、全部聞いちゃったって感じね…」
飽きれてモノが言えないといった様子だった。
自分のためとはいえ、知られたくなかったことを喋られてしまったのは、嫌だったに違いない。
僕は何も言えず、栄樹さんの反応を待った。
「それで?現内さんはどう思って、ここへ来たんですか?」
「んーと、それは…」
ただ来てしまった僕に、選ぶ言葉の選択肢は無い。
となれば、今思っている事を素直に話すだけだ。
それはとても恥ずかしい事で、もしかしたら軽蔑されるかもしれない事。
だけど、友達でいるためには、そういう瞬間はかならずやってくるのかもしれない。
僕は意を決した。
「正直、びっくりした。栄樹さんにそんな過去があったなんて…。でもそれと同時に、今は楽しそうにしているからよかったとも思った」
栄樹さんはコップから手を放し、背もたれに寄り掛かった。
「だから、僕が原因で嫌な思いをしてほしくないというか、栄樹さんには楽しくしていてほしいというか…」
違うかな。まだ正直になりきれていない気がする。
僕は伏せていた目をまっすぐ向け、栄樹さんに向きなおった。
「いや、僕が栄樹さんと友達でいられなくなるかもしれないのが嫌なんだと思う」




