第15話:青春協奏曲~魔女の恋愛~02
鈴木さんはコーヒーを飲んだ。
聞き手に回ることになって少し余裕ができたのか、僕もつられてコーヒーに口をつける。
「一応確認するけど、瑠歩ちゃんが格ゲー部に所属している理由って知っている?」
「いえ、格ゲーが好きだから、とかじゃないんですか?」
「格ゲーが好きだからってのは合っているんだけど、実は瑠歩ちゃんが高校を卒業してチームに入るための条件なんだ」
変わった条件だなと僕は思った。
大人達で構成されているチームだから、高校卒業だけならわかる。
だけど、格ゲー部に入れる理由とは?
「あの兄妹、幼い頃の家庭環境がちょっとしんどくてね。引っ越しを繰り返していたから友達を作れず、かと言って家にも居づらい。だから、お金も無いのに二人でゲーセンに来て、ゲームを眺めていたんだって」
それを聞いて、僕はなんとも言えない気持ちになった。
衝撃を受けたというか、呆気にとられたというか、あの栄樹さんに暗い過去があるなんて想像できない。
「そして、この街に落ち着くことになったんだけど、いきなり普通の子供にはなれなくて、今まで通りゲーセンでゲームを眺める日々。そんな子供二人に手を差し伸べたのが、今はもう無いんだけどプレナイトってチームの人達。
二人はとても良くしてもらったんだってさ。だから、自然と格ゲーを始めたし、チームについても考えるようになった」
その話を聞いた瞬間、僕はゾクッとした。
「あの」
「ん?」
「栄樹さんが、休日どうしているか…知っていますか?」
僕の質問に、鈴木さんは表情を変えることはなかったが、なんだか寂しそうに見えた。
「…まだ、ゲーセンに一人でいるんじゃないかな?
家にはまだ居づらいみたいだし、栄樹くんの仕事はシフト制で土日出勤が多いみたいだし」
今はなんとも思っていないが、実は最初の頃は栄樹さんに疑問を持っていた。
ゲーセンには格ゲーの観戦に来ていると彼女は言っていた。格ゲーに真面目だからとも言っていた。
だけど、なぜか栄樹さんからは勝負に勝とうとする意思があまり感じられなかった。
その原因が、今わかった気がした。
「瑠歩ちゃんって、ゲーセンにいる大人にすごく憧れている気がするんだよね。そりゃ自分達にやさしくしてくれた人達だからわかるんだけど、その反動で子供を信用していない所があるんだ。学校って狭い世界だからさ…ね…」
言葉を濁した鈴木さんを、僕は察した。
僕もずっと学校では寂しくてつらい思いをしてきた。それが痛いほどわかるから、今は栄樹さんが笑えるようになっていてよかったと思った。
栄樹さんにとってゲーセンのチームは、僕にとってのこの世界に等しいのかもしれない。
早く大人になってチームの仲間になりたい。
その思いが強すぎて、同年代とそりが合わなくなった。
もしかしたら、色気の多い服装が多いのは、大人っぽさを追求した結果なのかもしれない。
「あ、だから格ゲー部に…」
「うん、あいかわらず察しがいいんだね。
栄樹くんは立ち直れて、自分のチームまで作ってしまうほどになったんだけど、
瑠歩ちゃんがゲーセンに固執したままだったから、最初に言った条件を出したんだ。
"なんでもいいから格ゲー部で結果を出せ"って。
ちゃんとゲーセン以外の世界も知って、それでもチームに入りたいなら許すっていうお兄さんの愛さ」
僕は言葉を失った。
鈴木さん視点だから多少違う点もあるだろうが、栄樹さんの…もしかしたら知られたくなかった部分を知ってしまったから。
シスコンと言われる兄と、それを少しウザがりながらも慕っている妹。
兄妹しか支えがなかった期間が長かっただけに、二人の信頼関係は僕の想像を超えるものなのだろう。
兄は、立ち直れていない妹を心配していた。
そんなある日、妹は突然同じ学校の男をチームに連れてきた。
きっと兄には色んな思いが駆け廻ったに違いない。
だけど最終的に僕をチームに入れてくれたのは、妹の事を一番に考えてのことだったのかもしれない。
妹は、兄から出された条件について考えていた。
そんなある日、部に突然格ゲーが強い男がやって来た。
たぶん妹はこの男を利用できると思ったのかもしれない。
しかもゲーセンで偶然出くわす。仲良くなって損はないと思ったんだろう…。
なんだか寂しい気持ちになってきたが、得体の知れない僕にすぐ親しくしてくれた理由としては納得のいくものだった。
それと同時に自分のポジションが独特だなと感じた。
考えすぎだと思うが、僕の行動次第で栄樹さんの運命が変わってしまう予感がする。
「なんか、ちょっと責任を感じた顔だね」
鈴木さんはちょっと笑った。
「そんなに重く考えないでよ。こんな話をしたけどさ、瑠歩ちゃんが君になついているのは本当だから、仲直りしてほしいってだけ」
その一言に疑問を感じ、僕は考え込んだ。
聞くべきか、聞かないべきか。
そして、栄樹さんの力になりたいなら、知っておいた方がいいと思った。
「…わかりました。
でも、じゃあ…なんであんな話を僕にしてくれたんですか?」
「そ、それは…」
鈴木さんは口ごもった。
だけど、観念したようにすべてを話してくれた。
「俺が調子に乗って、現内くん関連で瑠歩ちゃんをからかっちゃったんだよね。
瑠歩ちゃんは純粋に現内くんを気に入っていただけなのに、そんなこと本当にあるのかって?
そしたら、変に意識するようになっちゃったみたいで…。
もしかしたら、俺は瑠歩ちゃんの二人目の兄貴にでもなっていたつもりだったのかな、友達ができたことを喜ぶ半面、今までなかった一面を見せられて寂しくなったのかもしれない。
だから、その罪滅ぼしをするために、君に賭けたってところかな。
こんなのただの他人任せだけど、こればっかりは大人の俺じゃなんにもしてあげなれないからさ…」
ゆっくりと語りながら、コーヒーをぼんやりと見つめる鈴木さん。
後悔と無力さを感じているその様子に、ちょっとだけ少年の姿が見え隠れする。
「どこまでやれるかわかりませんが、栄樹さんとは友達でいたいので頑張ってみます」
僕がそう言うと、鈴木さんは「うん」と頷いた。




