第14話:青春協奏曲~女帝の塔~02
学校から駅まで歩くとだいたい30分弱。
その間は、家と畑しかない閑静な道のり。
たまに自転車で通学している生徒がいるくらいで、他の生徒と出くわすことはほぼない。
バスが通る道を少しはずれれば、話を聞かれずにすむ密室のような状態になる。
季節はだいぶ夏に近づいてきていて、日差しが強い。
僕らは特に会話もないまま、少しばかり歩いた。
箕内さんの後ろを歩いている僕は、揺れるポニーテールをずっと眺めていた気がする。
「あ、のさ…」
「は、はい」
人気もなくなってきた所で、箕内さんが話し始める。
「…あー…、なにから話したらいいのやら」
突発的な行動だったのか、話したい内容はまとまっていないようだった。
ちらりと僕のほうを振り返ると、箕内さんは僕に並んだ。
「んーと」
箕内さんは空を見上げる。
「あはは、こんな話誰かとしたことないから緊張するわ。って言ってもまだ何も言ってないからわからないよね」
とぼけたように笑っている箕内さんに、少し余裕がないように感じた。
本当にこんな様子は珍しい、たまたま僕だと都合がいい真面目な話なのかもしれない。
箕内さんには普段からよくしてもらっている。ここはちょっとでも頼りになりたい。
多少くさいセリフになっても、僕は素直に思ったことを伝える決意を固める。
「そうだなー、じゃあちょっとだけ話の寄り道をするんだけど」
「なんでしょうか」
「現内くんは、私と屋良ってなんだと思っている?」
「えっ!?な、なんだとって?」
えぇ、話ってそういう話だったのか?
昨日と引き続き、人と恋愛話をすることになるとは…。しかも今回の相手は女子である。
さっきの決意がさっそく崩れそうだった。
箕内さんは僕が答えるのを待っている。
「そ、そうですねー…、仲のいい…幼馴染でしょうか」
「それだけ?」
「えっ…と、生まれた時から一緒だと言っていた通り、まるで姉弟みたいだな…とも思ったことあるような」
箕内さんは「ふーん」と口を尖らせた。
「付き合っているようには見えなかったんだ」
「そうだったんですか!?」
「いや、そんなことないんだけど、そんな風に思ったことはないの?」
「す、すみません、なくはないんですけど…」
僕は普段の二人を思い出しながら言葉を探す。
「なんて言ったらいいのか…、僕にとって二人はそれぞれ別々に、その…尊敬している人っていいますか、最初は気になったりしましたけど、今は別にどっちでも…と言いますか」
気持ちを言葉にするというは難しい。
素直に話したつもりでも、何を言っているのか自分でもわからない。
ただ、箕内さんが誰かとすでに付き合っていようが、こうして話ができるだけでも僕は楽しかった。
それも言いたかったが、さすがにくさすぎて喉でせき止められる。
「ふふ、見込み通りだったかな。というか、聞いてもらうなら現内くんしかいなかったんだけどね」
「それってどういう意味ですか?」
「ん?そうだなー、悪い意味でいうんじゃないんだけど、現内くんって他の人となんか違うんだよね。人の評判とか噂とかを気にしていないみたいな。割り切った感じ」
そういわれてもまったく自覚がなかったが、僕はこっちの世界に来てまだ二か月、まだ日の浅い転校生のようなものなのでそういった情報は皆無だった。
だから箕内さんには、僕がそういった情報に流されない人間に見えたのかもしれない。
もっとも、屋良さんのことは知っていたので、僕がもう少し友達のいる人間だったら違ったかもしれない。
「それに私、本音を言えそうな友達がいないんだよね…」
「えぇ」
あんなに分け隔てなく誰とでも楽しそうにしているのに、花尾間さんと関泉さんのように仲の良い友達がいない?
それっていったい…。
「こんな話、他の人には秘密だよ」
「わ、わかっています」
僕は思わず喉を鳴らす。
「極端なことを言うとさ、私って一人で行動したことほとんどないんだよね。
生まれた時から屋良がいて、何をやるにも屋良と一緒で、屋良がいるからなんでも集まってきて、
それに違和感を持った時もあるんだけどさ…」
「でも、オフ会とか…」
「あれも結局は屋良スタートなんだよ。ネットで雑談していたのは私だったんだけど、せっかくなら集まって遊ぼうよって始めたのは屋良なんだ」
僕は言葉を失った。
あの箕内さんが、こんな悩みを持っていたなんて…。
「だから私は"屋良の隣にいる女"。男子からはマスコットみたいな扱いだし、女子からは妬みの対象だし」
箕内さんは僕の様子を確認して、少し寂しそうに笑う。
「はは、ごめんねこんな話」
「い、いえ…」
「でもね、違和感を持ったり、周りの目に気が付いても、私は何もしなかった。
だってさ、屋良の隣はやっぱり楽しいんだよ。そこだけは負の感情がなくなるから。
正直に言うと、優越感すらあった」
僕は箕内さんの顔を盗み見る。
まっすぐ前を向き、大きく開かれた目はまばたきをしていないようだった。
「しかも、私の親と屋良の親は、私と屋良が結婚しないかなって思っている節がある。
屋良に恋愛感情なんて持ったことないけど…」
箕内さんは小さくため息をついた。
「相手が屋良ならさ、別に悪くないって思っちゃわない?」
僕は男なのでなんとも言えなかったが、言わんとすることはわかったので頷いた。
「それで、ここからが本題なんだけど」
「はい」
「そんな私を、好きだって言ってくれたヤツがいたんだよね」




