第14話:青春協奏曲~女帝の塔~01
「よかったー…、無事に和解できたんだね」
翌日金曜日、朝の教室。
僕は花尾間さんと関泉さんに昨日の結果を伝えた。
関係性が元に戻ったというより、むしろ良くなったと思っているのが表面的に出ていたのか、花尾間さんにほほえましく聞かれているのに気が付いた。
「うん、どうも心配をおかけしました」
僕は少しだけかしこまってお辞儀をする。
「渡辺さんがすぐ我に返ってくれる人でよかったわね。あのまま冷戦にでも入られたら部活に行きにくくなっていたわ」
関泉さんも少し憎まれ口を叩きながら、肩をなでおろしている。
「それと、渡辺さんが二人にもすまなかったと伝えておいてくれってさ」
「たしかに受け取りました」
「…と渡辺さんに伝えておいてください」
「なんでだよ。渡辺さんのことだから、きっと直接謝りにも行くと思うぞ?」
無事事態が収束したことに安心した僕らは、関泉さんのひとボケに笑った。
その後、花尾間さんが教室の時計を確認して、関泉さんをつつく。
「涼奈、時間大丈夫?」
「えっ?まだ大丈夫だとおも…」
始業時刻を気にした花尾間さんに、関泉さんは余裕があることを伝えようとしたように見えたが、一瞬動きが止まり、スマホを取り出して何かを確認し出した。
「そうね。私はもう行くわ」
関泉さんはふらっと教室の出口へ向かった。
それを僕と花尾間さんは見送る。
関泉さんが教室を一歩出ると、そこで一旦立ち止まり、僕らをちらりと見つめる。
それに対して、花尾間さんは「また後で」と手を振った。
関泉さんは特に何も反応せず、すっと廊下へ消えていった。
「関泉さん、何か用事があったの?まだちょっと早い気がするけど?」
「うん、実はそれなんだけどー…」
肯定しつつ語尾を伸ばして続きがあることをアピールする花尾間さん。スマホを取り出してささっと操作すると、僕に画面を見せてきた。
そこには、長たらしい説明文らしき文字列と、ちょっと大きめに「当選」という文字が並んでいた。
「えっ!まさか」
僕はすぐに花尾間さんへ視線を戻す。
「うん!ついにやったよ」
花尾間さんは、慎ましながらも体全体で喜びを表現する。
その無邪気な姿に一瞬心を奪われた。
こんないい娘が僕のために体を張ってくれた。それがどれだけすごいことだったか…。
心臓が少し締め付けられるような感じがした。
「現内くんがいなかったら、途中で諦めていたかもしれない」
そう言いながら、花尾間さんは改めてスマホの画面を確認する。
「いやいや、ようやくだね。おめでとう」
「えへへ、やりました」
花尾間さんは小さくブイサインをした。
「それで、これはなんのゲームでいつにやるの?」
「これはなんと、来月に開催されるエルフストーンウォーリアーズのロケテストです!」
僕はびっくりした。そんなビッグタイトルが当選するとは。
エルフストーンウォーリアーズとは、エルフストーンという世界的に有名な漫画を題材にした新作格闘ゲーム。アニメさながらのビジュアルを実現した最新の映像技術で、開発が発表された時から話題騒然だった。
「涼奈は漫画もアニメも観たことないって言っていたけど、面白そうって前々から興味を持っていたから、これが当たって本当によかった」
「すごいなー…関泉さんを驚かせることができて、しかも僕らもちゃっかり行ける。なんていい誕生日企画なんだ」
夏の思い出が一つ確定したことに、僕は喜んだ。
「うんうん、ちょっと早いけど、涼奈が予定を入れちゃう前に教えてあげないと」
「それなら日付だけおさえて、当日に発表した方が面白いんじゃない?」
「あー…それも考えたんだけど、私には長期間涼奈に探られ続けるのは耐えられないから、素直に言うことにしたよ」
「なるほど」
「じゃあ、来週の月曜日に言おうか」
「えっ?なんでわざわざ?」
「だって、今日は現内くん部活に来ないでしょ。せっかく二人で取ったんだから、一緒に渡そうよ」
その言い分に僕は感動した。
ただの手伝いじゃなくて、一緒にって思ってくれていたんだ。おまけじゃなかったんだ。
「わかった。じゃあ来週に」
花尾間さんは自席へと戻っていった。
楽しみすぎる。
大好きな漫画の、大好きな格闘ゲームのロケテストに、花尾間さん関泉さんとかわいい女子二人と行ける。
そんな日が僕なんかに来ていいのだろうか?
僕は思わずにやけてしまう顔を、両手で必死に押さえつけた。
そして放課後。
僕は花尾間さんと教室で別れて、下駄箱へ向かった。
今日は部活を休んでチームへ参加する日。
一か月経ったが、まだちょっと慣れない。気まずいので、つい部員に会わないよう願ってします。
なので基本的に早足で階段を下りて、なるべく周りを見ないように学校を出る。
靴を履き替え、校舎を出る。
すると、目の前に一人の女子生徒が現れた。
「よっ」
「あれ?箕内さん?」
後ろで組んだ手で鞄を持ちながら、箕内さんは僕を引き留めた。
「これからまっすぐゲーセンに行くの?」
「そうです」
「…たしか、チーム活動が始まるまで時間あるよね?」
「まぁそうなんですけど」
箕内さんの様子がちょっと違う?
いつものように、構ってくれている感じではない。
「ならさ、駅まで一緒に歩いてくれないかな…」
「えっ?」
「ちょっと、聞いてほしい話があるんだよね…お願い」