第13話:青春協奏曲~皇帝の愚行~02
放課後。僕は部室の前までやって来た。
花尾間さんと関泉さんも付き添おうかと提案してくれたが、遠慮させてもらった。
頼もしくはあったが、少しはかっこつけさせてほしい。理由はそんなところ。
正直に言うと、朝から緊張し続けているのですでに精神的にまいっている。
果たして、ちゃんと話ができるだろうか?
意を決して部室のドアを開ける。
中には屋良さんと渡辺さんがいて、奥の方に座っていた。
「来てくれたね」
屋良さんは席を立つと、屋良さんが僕と渡辺さんの間に入る形になるように席を勧めてくれた。
僕は軽く会釈をしてその席に座る。
渡辺さんとは最初にちょっと目が合ってだけ。
重苦しい空気に包まれている。
こんな状況を経験するのは初めてだった。
僕は屋良さんの言葉を静かに待つ。
「えーと、二人とも見たところそこまで深刻でもなさそうだから、さっそく本題に入ってもいいかな?」
屋良さんが事を進め始める。
いつもと違い、わずかに不慣れな感じがする。
僕は頷き、渡辺さんは視線をこちらに向けた。
「じゃあ、現内くん。昨日何があったか聞かせてくれるかい?一応、渡辺の話と相違がないか確認したい」
そう言われて、僕は渡辺さんに手伝いを要求されてからの話をした。
けれど、花尾間さん達のことは伏せた。
もし、渡辺さんも彼女達のことを話していなければ、これ以上巻き込むことはない。
「…そっか。渡辺の話と一致している」
屋良さんは残念そうな顔をした。
渡辺さんは箕内さんと同様に、屋良さんとよく一緒にいる人だった。
それだけ仲が良く、信頼もしていたのだろう。この一件はショックだったに違いない。
三人とも口を閉ざし、さらに空気は沈んでいく。
「…その」
屋良さんが口を開いた。
「ごめんな、こんなことになってしまって」
屋良さんは僕を真っ直ぐ見つめて、そう謝った。
「あっ…いや」
なんで屋良さんが謝るのかわからず、僕は反応に困った。
「やり方は…たしかに悪かったけどさ、渡辺は"俺の目が届かない所"をフォローしてくれようとしただけなんだ」
屋良さんはちらっと渡辺さんを見る。
一瞬目が合ったが、すぐに渡辺さんは視線を逸らした。
「昨日、渡辺から話を聞いて、家でも考えたんだ。なんでこんなことになったのかなって…」
屋良さんが、ゆっくりと自分の思いを語り始める。
「そしたら、気付いちゃったんだよね。俺って、ちゃんと人を気遣ったことがないかもしれないって。
現内くんがチームに参加したいって俺に相談してくれたように、向こうから直接言ってもらえれば考慮できることもあるんだけど。
逆に誰も何も言わないから、てっきり俺のやりたい事にみんな賛成してくれているものだと勘違いしていたんじゃないかって。
だから、現内くんを格ゲー部に招き入れる事をみんな歓迎してくれていると思っていた。大会で成績を残そうっていうのもみんなの目標になったと思っていた。
でも違ったみたいなんだ。僕の知らないところで不満は溜まっていて、それを渡辺は知っていて…」
屋良さんは言葉を詰まらせる。
僕は、それを聞いて切なくなった。
屋良さんが人を気遣えていなかったなんて、そんなはずないと思った。
屋良さんは、本当はいつだってみんなが楽しくできるように考えている。だから、屋良さんのまわりには人が集まってくるんじゃないか。
そして、そんな屋良さんからの主張は、ただの自分勝手なわけはない。
じゃあ、なんで屋良さんはそんな考えに至ってしまったのか?
その答えは、僕の中にもあった。
"屋良さんが言うならそうなんだろう"。
僕にとって、先輩であり部長であり恩人でもある屋良さんの言うことは、いつだって輝いていた。
その印象は間違いではなく、僕の生活はかつてないほど充実している。
格ゲー部に誘ってもらって、人との繋がりができた。
交流戦に出させてもらって、勝負について考える機会をもらった。
チーム活動を許してもらって、僕は外の世界も知れた。
だから、僕は屋良さんに盲目的になっていたと思う。
そしてそれは、きっとただの友達ですら同じだったのだろう。
本当は対等な立場のはずなのに、屋良さんがリーダーを名乗り出たわけでもないのに、屋良さんの生まれ持ったカリスマ性が勝手に屋良さんを上へ上へと押し上げていった。
みんなは、魅力的な中心人物を得て全員で楽しくできるようになった。
屋良さんは、何をするにもみんながついてきてくれるようになった。
その代わり、屋良さんに意見できる人がいなくなった。
たぶん、箕内さんや渡辺さんは違ったのだろうけど、みんなのためというよりは屋良さんのために何か言う程度だったんじゃないだろうか。
今まではそれでうまくいっていたけれど、今回ばかりは違った。
異質な僕という存在を、みんなが受け入れ切れなかった。
さらに、屋良さんが僕を頻繁に構っている。
今の状態に疑問を持たれるのに時間はかからなかった。
それでもまだ誰も屋良さんには何も言わない。
それがついに決壊したのが、おそらくこの出来事だ。
この僕の考えが合っているかは確かめようがない。
ただ、まるで夢から醒めたような、屋良さんの残念そうな顔を見ていると、やるせなかった。




