第13話:青春協奏曲~皇帝の愚行~01
日付が変わり木曜日。
花尾間さんのおかげでどん底に落ちずに済んだが、やはりあんな事があるとなんにも手が付かなかった。
ゲームをせずにすぐベッドへ入ったが眠れるわけもなく、当たり前のように寝不足になってしまった。
ちょっとは眠れたようだがすぐに目を覚ましてしまったので、朝ごはんも食べずに朝早く一人学校の教室にいる。
ただ、眠れなかっただけで、学校に来る事に抵抗はなかった。
その点が一番感謝している所である。
もう天使というより女神だな。なんて思えてくる。
花尾間さんはやさしくて気の利く女子だ。
あんな風に怒ってくれたのは驚いたが、不思議なことではない。
しかし、だからと言って僕のためにあそこまでしてくれるだろうか?
ただの男友達に…。
頬杖をつきながら、僕は空をただ眺めていた。
しばらくするとクラスメイトも少しずつやってくる。
挨拶をしてくれる人もいるので、それに応えながら一時限目を待つ。
すると、廊下に花尾間さんと関泉さんの姿が見えた。
二人と目が合い、不意にドキリとする。
顔を合わせた時、普段通りにしていていいのかがわからなかった。
花尾間さんと関泉さんは顔を見合わせた後、揃って僕の机へやって来た。
「おはよ」
関泉さんがいつもの調子で挨拶してくれる。
「お…おはよぉ」
僕は少し調子をはずした挨拶を返す。
「………」
「………」
うぅ、なんて言っていったらいいんだ?
「あんまり眠れてなさそうね」
関泉さんに睡眠不足を指摘される。
「うん、まぁね」
そう答えると、関泉さんが少し心配そうな顔をした。
彼女もまた僕を気にしてくれている。
この二人には本当に頭が上がらない。
関泉さんに答えた勢いにのり、花尾間さんの方を向く。
「花尾間さんも大丈夫だった?あの後、部活に来なかったけれど…」
昨日のあの後、僕の後に関泉さんも部室に戻ってきたが、すぐに出て行ってそのまま戻ってこなかった。
聞けば、花尾間さんの体調不良で、関泉さんが付き添ったということだった。
「大丈夫だよ。ただちょっと気持ちに整理がつかなくて……。次の部活はちゃんと出れるから」
そう言って、花尾間さんはちょっとだけ力無く笑った。
それにつられて僕も笑ったが、部活へ行く足を遠のかせてしまったのが気がかりだった。
そして、純粋に花尾間さんの事を心配しながらも、二人の間に絆のようなものを感じた気がするのが照れくさくもありうれしかった。
「……。なに見つめ合っているのよ?」
関泉さんのツッコミが入る。
なんか、いつもの調子に戻ってきた。
「私はお邪魔のようだし、自分のクラスに行きますね…」
関泉さんは教室を出て行った。
「涼奈ー…、もう」
「あはは」
最初はどう反応したらいいかわからず困ったが、今では笑って流せるようになった。
「んと、現内くんも大丈夫?あまり、気にしちゃダメだよ」
「わかってる」
「どうするのこれから?屋良さんに相談するとか?」
そう言われて、僕はなるほどと思ってしまった。
相談相手は大人の顧問だと勝手に決めつけていた。
考えてみれば、滅多に顔を出さない顧問に相談したところで、結局屋良さんを頼れという話になっていたに違いない。
悩み事ならともかく、部員間のトラブルを同じ高校生に相談するという感覚がなかった。
一歳しか違わないけれど、部長というのはそれだけ責任のある立場であり、僕ら高校生はそれ相応の責任能力を問われる年齢なのかもしれない。
人と関わってこないと、こういった感覚のズレもあるんだな。
僕は改めて、自分がちょっと前まで停滞していたことを自覚する。
「そうだね。それがいいかもしれない」
「うん、屋良さんなら良い感じに収めてくれるよ」
そんな話をしていると、廊下の方で軽く黄色い声が上がった。
この感じ、記憶になる。
目を向けてみると、やはりそこにいたのは屋良さんだった。
クラスの女子に声をかけられながら、僕らの方へ向かって来る。
「おはよう。現内くん、花尾間さん」
「おはようございます」
相談しようと思っていた相手が向こうからやって来てくれた。
しかも朝一番に。
僕は、真面目な話になりそうな予感がした。
「えーと…その、話は聞いたよ…って言えば通じるかな?」
屋良さんはすごく言いづらそうにしている。
「もしかして、渡辺さんとの事ですか?」
今後の方針を決めていただけに、僕はすんなり本題に入れた。
「そう、渡辺からだいたい話は聞いたけど、現内くんの話もちゃんと聞かないといけないなと思って、今日ってチームの活動も無いよね?放課後、僕と渡辺とで話をできないかな?」
ばつが悪そうにしている屋良さんを見ていると、部長という立場からか責任を感じているようだった。
花尾間さんは、その申し出を聞いて僕の反応を伺っている。
「あの、渡辺さんから…その、全部打ち明けられたんですか?」
僕はそこが一番引っかかった。
誰にも気がつかれないようにわざわざ僕を呼び出したのに、自ら暴露してしまっている。
「その通りだよ。詳しい話は後にってことにしたいんだけど?」
「わかりました。部室に行けばいいですか?」
「うん」
屋良さんは短く返事をすると、予鈴が鳴ったので教室をすぐに出て行った。
「なんか、ちょっと変な感じだね」
「そう…だね」
思っていたよりも早い速度で物事が進んでいく。




