第11話:登竜門03
その後は、鈴木さんと他愛もないゲームの話をしていると、ちらほらとチームの人達がやって来た。
その度僕は挨拶をして、部長から許可をもらったことを伝える。
そして、なにかしら応援の言葉をもらった。
一番初めに見たチームとは違い、かなり友好的だなと思った。
それは、栄樹さんの部活の先輩というのが大きな要因にあるだろう。
自分の力だけでここまで来たわけではないことを改めて考えさせられる。
栄樹さんにここまで導いてもらい、チームの人達が歓迎してくれて、屋良さんや箕内さんが後押しをしてくれた。
おかげで、自室でゲームしているだけでは知ることができなかった世界が広がっていっている。
今はこうしてまわりに甘えてばかりだが、いつかはちゃんと、チームの皆さんのように自分なりのゲームへの向き合い方を見つけたい。
そういう思いを持つと、自然と態度も積極的になってくる。
時間を持て余したからといって、こうして一人一人に挨拶しようなんて、今まで考えたことがなかった。
現に、部活にはまだまともに話した事がない人が何人かいる。
金曜日は参加しなくなる分、そういったことも頑張った方がいいのかもしれない。
そんな気持ちを抱きつつ、チームの人たちと雑談をしていると、最後の一人がやってきた。
「おっ?金曜日は部活じゃなかったのか?」
栄樹さんのお兄さんだ。
僕がここに来ている理由がわかっていて、軽くニヤリと笑うところが少し栄樹さんに似ている。
今日は大きな鞄を持っていて、仕事から直接来たのが伺える。
「ちゃんと許可をいただきました。今日から、僕もここの活動に参加させてください」
ついさっき全員に似たような挨拶をしているので、態度も顔も恐いお兄さん相手でも普通に言えた。
いざって時にできる事は、普段からやっている事ということでしょう。
「なんだよ。虎森の格ゲー部ってずいぶん自由なんだな」
「ここでの経験を、部活に持って帰るっていう条件付きです」
「はは、なまいき」
ちょっとだけ言い返したつもりだったが、お兄さんは楽しそうに笑った。
「おい鈴木、もしかしてもう全員いるのか?」
「いるよ。今日は平日なのに集まりがいいね。早くも現内くん効果かな?」
「んなわけあるか。始める前に全員に話があるから、上に集まれ」
僕らはお兄さんの後をついていきながら、チームの全員を集める。
ランブルギアの所に行くと、まだフリープレイになっていて、学生達が遊んでいる。
大人数でやって来た僕らを見て、少し居心地悪そうにした気がした。
まぁ、ガチ勢の目の前ではやりにくいかな。
ゲーム筐体からちょっと離れた所で全員立ち止まると、お兄さんが全員と向かい合う。
「さてお前ら、これからすげぇ大事な話をする」
そう言うと、お兄さんは鞄から封筒を取り出す。
すると、まわりが一気にどよめき出した。
「地道だったが、小さい大会で少しずつ成績を出してきたおかげで、ついに俺らもライジングに出られるようになった」
それを聞いて、歓声が沸いた。
察するに、熱望していた大きな大会から招待状が来た感じだ。
ただ、僕はそのライジングについて何も知らない。
それに良く考えると、僕はプロの世界はおろか、普通に行われている大会のことすら知らない。
「個人で狙っていた種目は個別で話すとして、とりあえず全員でやっているランブルギアについて言おう」
お兄さんは封筒を開け、中から三つ折りの紙を出して広げ、軽く目を通す。
「出場できるのは、三人チームの団体戦1枠、個人戦2枠の計5人。俺らはその倍以上いるから、この中でも白黒付けないといけない」
限られた出場枠をかけて、内部でも競争があるのはしかたのない話。
今までは一丸となってチームのために頑張ってきたのに、今度は仲間を蹴落とさないと自分が出場できない。
まだ学生で、今日入ったばかりの僕には関係の無い話だろうけど、厳しい勝負の世界を早くも垣間見た。
まわりの人達も、僕と話していた時とは違い、決意と緊張感を持っている。
「やり方はシンプルにいく。オーダーの提出期限までに、可能な限り俺らで総当たりをやって、成績がよかったヤツを出場させる。年齢とか所属期間なんて関係無し、実力だけで決めよう」
誰も何も言わなかった。まるでそれが当然かのようだ。
新入りも出場できる可能性があり、ベテランも新人に負けるようなら出ない方がマシといったところ。
きっと、さきほどの喜びは出場できたことではなく、さらに高みを目指せることの方がウェイトが大きそうだ。
ライジングとは、きっとプロの世界へ行くための最初の試練。まさに狭き登竜門。
しかし、部活の時といい、僕は運が良いのか悪いのか、こういうタイミングで入ってきてしまう。
部活の時は、部長が参加させてくれたからよかったけど…。
「おい、何自分は関係みたいな顔をしているんだ?」
我に返ると、お兄さんは僕だけを見ていた。
「さっき言っただろう。今日入ったばかりのお前も対象だ」
相変わらず恐い顔しているが、それは恐がらせるのが目的ではなく、闘志の現れのようであった。
まだ格ゲーをやっていないのに、格ゲー中のお兄さんになっている。
その目は、ライバルを見据えているような目だった。
「い、いいんですか?」
もちろん出場を賭けたレースに参加したいが、どうしてもまわりに遠慮してしまう気持ちが芽生える。
「いいんだよ。みんなあの日から想定していたさ」
鈴木さんが僕の肩をポンと叩く。
「提出期限まで一ヶ月以上ある。故に、実力はもちろん、長期間集中力を保てた奴に勝機がある。精神力は重要な要素だ、それをお互い示し合おう」
お兄さんは最後にそう締めくくった。




