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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
51/133

第9話:ライバルってなんだろう01

チーム活動について部長からお墨付きをもらった僕は、箕内さんと一緒に屋良さんの家を出た。

日は暮れていて、街はすっかり夜になっている。

こんな時間じゃ、下手したらバスを30分くらい待つことになりそうだな。

僕はぼんやりを月を見ながら、これからの帰路を考えた。


「まったく、変な日になっちゃったわ」


箕内さんは、肩を落としながら恨めしそうにそう言った。


「僕が…悪いんですか?」


「…いや、屋良が悪い。全部悪い」


呼び方が名字に戻っている。もう無意識に切り替わっていると言ってもよさそうだ。

箕内さんにとって、どちらが自然なのかちょっと気になる。


「あーでも、なんか恥ずかしい。一生の不覚」


さらっとOKした屋良さんに対して、箕内さんは親身になって話を聞いてくれている。

どう考えても箕内さんの方がえらいのに、なぜか箕内さんが失敗したかのような空気。

空気とは本当に厄介だ。


「でも、なんて言っていいか、ともかく今日はありがとうございました。箕内さんに先に相談できたから、屋良さんに誠意を持って話せたんだと思います」


たじたじな言い方になってしまったが、精一杯フォローを入れる。

それに対して箕内さんはじっとりとした視線を向けてくるだけだった。


なんか、気まずいぞ。箕内さんの家は隣だし、僕がここを立ち去れば終わるのではないだろうか。

そう思って、僕は別れの挨拶をしようとした。


「…そうだ」


箕内さんが何かを思いついてつぶやいた。


「現内くん、明日ってチーム活動ある?」


「あるにはあるんですが、まだ格ゲー部に正式にチーム入りの話をしていないので、行かない予定です」


「そうか」


「な、なんですか?」


あ、これは何かやらされるヤツだ。

僕はそう警戒したが、今日の恩を考えると断れる気がしなかった。


「今日は一日つきあったから、明日は私の用事につきあいなさい」


「いいですけど、用事ってなんですか?」


「ん?ずいぶん聞き分けがいいわね。まぁいいか、明日はなんと"ゴウコン"をします!」


さっきの落ち込みようなどこへやら、箕内さんは楽しそうに言った。

人見知りの僕にとって恐ろしい単語が聞こえ一瞬血の気が引いたが、格ゲー部の箕内さんが言ったという点で推理が働いた。


「あぁ、豪拳(ごうけん)コンジョウ学園のことですね」


「あは、さすがにすぐわかったか」


豪拳コンジョウ学園とは、高校生の不良同士の喧嘩をテーマにした格闘ゲームのこと。通称ゴウコン。

もう十年以上前のレトロゲームだが、独特な世界観と、小攻撃と回避と投げの単純な三すくみが面白くてコアなファンが多い名作。

そこまでやり込んではいないが、対戦動画に釣られて僕も遊んだことがある。


「なんと明日の放課後、ゴウコンのオフ会をやるので現内くんを連行します」


「オフ会って、そういうのは休みの日にやるものなんじゃないんですか?」


「平日の夕方はギリギリ安く貸し切れるんだよね。古いゲームに限るんだけど」


「なるほど。楽しそうなのでいいんですが、なんで僕を?」


レトロ格ゲーのオフ会なんて逆に断りたくなくなったが、一応そこを確認しておく。


「そりゃ人数多い方がいいじゃん」


箕内さんは素っ気なくそう言ったが、裏がある事を隠す気がなくにやりと笑っていた。


「たしかにそうですけど」


「不満?」


「いえ、行かせてください」


どうせここまで計算済みなんだろうなと僕は思い、頭を下げた。


「よろしい、じゃあまた明日ね」


箕内さんは軽く手を振って、自分の家へと歩き始めた。


「はい、お疲れさまでした」


僕も来た道を歩いて帰る。

屋良さん家での心労があり、家が遠く感じる。


「ふぅ」


ともあれ、問題無くことが進んで安堵した。

次からはちゃんとまわりの事も考えなくてはいけないな。2つも人の集まりに所属することになるんだ、自分の事だけとはいかなくなる。

それに、大人達のチームに入っていくことに不安を感じていたりする。


でも、そこでさらに実力をつけて、大会に出場して、有名プレイヤーと対戦できたりなんかして等と考え始めると妄想が止まらなくなる。


大会動画に自分の名前が載って、自分の事についてコメントが付くなんてことに憧れもあったりする。

しかも、この世界でのプロゲーマーの地位は高い。

知名度が上がったら、イベントに呼ばれたり、サインを書くことがあったり、ファンレターなんかが来るかもしれない。


大勢が見守る中、舞台に上がり対戦前に司会者からコメントを求められる自分を想像する。

きっと快感だろうな。


今まで憧れはしても、こんなことを考えたことはなかった。

これはいったい何を意味しているのだろう?自分に問いかけてみる。

わずかだけど、現実味が湧いてきた?

それとも、プロに興味を持ち始めた?

ぼんやり考えてみたが、答えはでなかった。僕はまだ、高校生をやるので精一杯だった。


「まぁ、まだそれでいいか」


こっちに来るまで、今の自分の事からすら逃げていたんだ。

誘ってもらえたこと、やってみたいと思ったこと、もしかしたらその先に自分のやりたいことがあるかもしれない。

だから、今はこれでいい気がする。


明日はゴウコンのオフ会だ。早く帰って復習したいな。


夜風が疲れた体に心地よく、僕はゆっくりと家に帰った。

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