第8話:ダブルアクティビティ06
部活終わりの学校はいつも静かだった。
元の世界だったら運動部がまだ校庭を走っているだろうけど、こっちの世界ではほとんどの部活は部室や実習室に籠って活動する上に帰りが比較的早いので、格ゲー部以外にはほとんど生徒はいない。
いつもは部員がぞろぞろと帰り、僕は花尾間さんや関泉さんと話をしながら歩いている。
でも今日は、足早に出てきたせいか、廊下には僕と箕内さんだけ。
足音が反響するせいで、いつもの廊下が長く広く感じる。
日が沈んでいたら、きっと怖いんだろうな。
下駄箱で靴を履き替え、校門を出る。
目の前を自転車が一台通り過ぎただけで、あたりは誰もいなかった。
「さて、部室からだいぶ離れたし、相談にのりましょうか?」
一応あたりを見渡して、箕内さんがすぐに本題に入ってきた。
今更だけれども、相談したいって打診までした事を歩きながらするだろうか?
本命は屋良さんなので、その前に先輩部員の感触を探るくらいのつもりだったので問題無かったが、ひょっとして箕内さんはそこまで見抜いて?
「そうですね、ではちょっと聞いてもらえますか?」
僕は改まってお願いをする。
「どうぞ」
箕内さんは気軽な感じで引き受けてくれた。
「実は昨日、とある格ゲーのチームに入れることになったんです」
「現内くんがチームに?」
チームという単語が出てくるとは思っていなかったようで、箕内さんは少し驚いている。
「そりゃすごい…っていうか、よかったじゃん。部活だと完全に教える側になっちゃったし、物足りないんじゃないかなって思っていたところだったんだ」
箕内さんは両手を頭の後ろに回しながら、僕がチームに入れることを喜んでくれた。
「あ、ありがとうございます」
「けど、それが部活と関係あるってことは、もしかして…」
「いえいえ、辞めないですよ」
この反応は予想できていたので、早めに否定しておく。
「ただ、チームに参加するには条件がありまして、それを飲むと金曜日に部活に出れなくなってしまうんです」
「あぁ、チーム活動を優先するならってことか」
「なるほどねー」と言いながら、箕内さんは今度は前で腕を組んだ。
「自分勝手なのはわかっているのですが、僕としては両方に参加し続けたんです。
ですが、入部して間もない僕がいきなりチームに入って週一で部活を休むなんて、あんまり許されたことじゃないってのもわかっていて…」
少しの間沈黙が流れた。
僕はその間、変なことを言っていないか、自分の発言を思い返す。
「んー、なんていったらいいのかな…?」
僕は静かに箕内さんの回答を待った。
「まぁ現内くん自身が言っている通り、そんな堂々と浮気みたいな真似はお勧めできないよね」
ストレートにそう言われた。
覚悟はしていたが、こうやって直に言われると胸が苦しくなる。
やっぱり僕は、どちらかを選ばなければいけないのか?
「でもね。こんなこと本人に言うことじゃないんだけど、現内くんの立ち位置…って言えばいいのかな?ともかく君を心配していたところだったんだ。さっきも言った通り」
「僕の立ち位置ですか?」
「屋良は、うちの部活を"そこそこ強い"から"けっこう強い"にしたかったから、べらぼうに強い君をスカウトして部を活性化させようとしたんだけど」
今度は、組んでいた腕をいったん解いて腰に手を回し、箕内さんは視線をしっかりと僕へ向けた。
「君はちょっと強すぎるね」
そう言って、箕内さんは少し寂しそうに笑った。
その表情がとても大人っぽく見えて、場違いだがドキリとしてしまった。
一年しか違わないのに、屋良さんも箕内さんも本当に大人びているところがある。
「屋良は現内くんをかまえて楽しそうにしているし、現内くんがいいならそれで丸く収まりそうだと思うんだけど、なんか最近、無理やり部に押し込んじゃっている気がしていたんだ」
僕は今の状態でも部に貢献できていると思っていたから気にしていなかったけれど、箕内さんにはそんな風に見えていたのか。
楽しくやっていたつもりだったのに、少しショックを受けた。
でも、チームに惹かれている今、箕内さんの心配も間違いではなかったのだろう。
それが無意識に態度に出ていたのかと疑問に思い、ちょっと心配になった。
「さすがに屋良も部長として、現内くんがやろうとしていることには難色を示すんじゃないかな。だから、どっちかを選ぶ覚悟はしておいた方がいいと思うよ」
予想通りと言えば、予想通りの結果だったと思う。
むしろ、なんであれ箕内さんがこうして気にかけていてくれたことを知れたのはよかった。
やっぱりこの人は、やさしくて頼もしい。
「…そうですよね」
僕は暖かい気持ちを胸に、しっかりと箕内さんの助言を噛み締めた。
それに対して箕内さんは「うんうん」と頷いた。
「あっ、でも部活やめちゃうと、せっかく仲良くなれた女子達と疎遠になっちゃうねぇ。いいのかなー?私が見る限り、現内くん的には滅多にない存在なんじゃないのー?」
箕内さんは手で口元を隠しながらわざとらしく笑って茶化し始めた。
しんみりしてしまった雰囲気を戻そうとしたのだと思うけれど、言っている事が大当たりの図星すぎて思わずイラッとしてしまった。
その通りです。花尾間さん達と縁が薄くなるのは寂しいですよ。
「………」
とはもちろん言えず、ムスッと態度だけ示しておいた。
「とかなんとかやっている間に、着いちゃいましたよ」
箕内さんは立ち止まり、手をかざしてここが屋良さんの家であることを教えてくれた。
そこに建っていたのは立派な二階建ての一軒家。元の世界の感覚でも十分そのリッチさが伺える大きさは、土地が足りないこっちの世界だとどれほどのモノになるのか検討がつかない。
ずっとアパートやマンションが続いているのに、ここだけ空が広い。
はぁーと息を漏らしながら回りを眺めていると、屋良さんの家の隣も一軒家なことに気が付いた。
その瞬間、僕は不穏な予感がした。
「気が付いちゃった?」
箕内さんが、いたずらがバレたお子様のようにおどける。
「そう、隣が私の家。屋良とは生まれる前からご近所なんだよね」
漫画かよ!
ちょっと照れくさそうに言う箕内さんに、心の中で思わずツッコんでしまった。
金持ちの家に生まれ、幼馴染として育ち、認め合い信頼し合っているけど異性としては見れないってか?
でも第三者の介入で意識せざる負えなくなってドラマが始まるのか?
もしかしてこれはまだプロローグなのか?僕は読者視点キャラだったりするのか?
「まさか、自分の部屋の窓から相手の部屋を覗けたりしないですよね?」
箕内さんは何も言わずはにかんだ。
「漫画ですか?」
僕は辛うじて敬語で言えた。




