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ゲームで青春をもう一度  作者: 正宗
本編
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第8話:ダブルアクティビティ04

ゲーセンから家に戻って来ると、ちょうど晩御飯ができていて、僕はそれをいただいた。

相変わらず静かな食卓だが、昔のようにさっと食べて、すっといなくなろうとはもう思わない。

それどころか、食べながら何か話題がないか考えたりしているくらいだ。


だから、今日一つの可能性として思ったことを聞いてみることにした。


「あのさ、お母さん」


ここ一ヶ月の話題を振り返るに、今聞こうとしていることはかなり思い切った内容になる。

本当は食べ始めたあたりで切り出したかったが、なんやかんや半分くらい食べてからになってしまった。


「なに?」


すすった味噌汁を持ったまま、お母さんは僕に目を向けた。


「あー、んと、僕が格闘ゲームを頑張り初めて一ヶ月くらい経ったわけなんだけど…」


「おー、ずいぶん続いているじゃないか」


お父さんも話を聞いてくれていたようで、のんびりとそう言った。


「まだ一ヶ月ですよ」


それに対してお母さんは冷静に返した。


「それで、ちょっと思ったんだけど」


お母さんとお父さんは、黙って僕の次の言葉を待った。


「僕がプロを目指すって言ったら、どう思う?」


「ほぉ」と笑うお父さんに対して、お母さんはノーリアクションであった。


「いや、聞いてみてるだけだよ?もちろん簡単な事じゃないのはわかっている。ただ、今日はそういう人達にあったから、その…どう思うのかなって思ってさ」


く、苦しい。言っていることは本心なのに、なんだか言い訳くさい。


僕は箸と茶碗を持ったまま、どんな回答が来てもいいように構えた。

お父さんは、お母さんが何か言うまで口を開くつもりはなさそうだった。


「そうね」


お母さんは短くそう言って、味噌汁をテーブルに置いた。


「プロを目指すこと自体は、別に悪いことではないと思うわ」


「そ、そう?」


思っていたよりもやわらかい回答に、僕はホッとした。


「でも、スポーツ選手や職人と違って、普通に勉強や仕事をしながらでも目指せる事だと私は思っているわ。私が言いたいことわかる?」


「…本来の義務から逃げるなってこと?」


「そういうこと。よく夢にすべてを捧げて頑張る人がもてはやされるけど、そんなことが"本当に"できるのは千人に一人もいないわよ。だって、悩んだり確認している時点でそういう人種ではないもの」


「きびしいなぁ」


お母さんのきびしい考え方に、お父さんが和む感想を言った。


「後から好きだった事を理由にすべてを捨てるような人もそう。巴伊都、あなたは自分に才能があると思う?」


「…思いません」


本気で落ち込んだわけではないが、しゅんとした態度をみせると、お母さんが少しきまずそうにした。


「別に、やめろと言いたいわけじゃないのよ」


まるで反対しているかのような雰囲気を改めようとしてくれている。

けど、すぐに真面目なトーンに戻った。


「私が言いたいのは、天才で無い以上、責任と覚悟を持つことが不可欠。それを本当に自分が持っているのか、わかるまでは人生の選択肢を狭めるべきではないってこと」


「は、はい」


何気ない話題のつもりが、とてつもなく真面目な話になってしまった。

だが、さすが元キャリアウーマン。とは言ってもお父さんがたまにそう言うだけで、実際どうだったかは知らないのだが。

良し悪しを言うのでなく、子供に一任するわけでもなく、夢というものに対する向き合い方を教えてくれた気がする。

日本の教育はよく詰め込んでいるだけだと言われるが、たしかに、考え方を知らなければ柔軟性なんてあったものではないかもしれない。

ちょっと怖い口調だったが、真っ直ぐ聞いていられる説得力があった。




お母さんの話を聞いたせいか、今日は考え事に集中したくなりゲームをするのをやめた。

風呂に入って歯を磨いた後、僕はベットに飛び込み、天井を眺めた。


僕は屋良さんをはじめ部活の面々に救われたと言っても過言ではない。

こうして一ヶ月楽しくでき、多少なりとも人とまともに話せるようになったのは、彼らのおかげだ。


だから、部活は続けたいし、部活の力になりたいと学生の僕は思っている。


しかし、そのために探していた環境を捨てるのか?と格ゲーマーの僕は問いかける。


そして、あのチームとやっていけるのか?部活はどうするんだ?と慎重な僕は疑問を持つ。


さっきからずっとこの繰り返しだ。


部活のレベルを上げればいいじゃないか。

探せば気楽に強い人が集まっている所がきっとある。

他の部員はわからないけど、屋良さん達なら理解してくれるさ。


前向きなことを考えても、すぐに何かに打ち消される。


あー、つらい。面倒くさい。

僕は格ゲーがしたいだけなのに。

その考えがダメだとわかっている今でも、沈めてはまた浮かんでくる。

いっそ、お母さんが反対してくれたらとか思ってしまう。


考える事を放棄しちゃだめなんだ。

でも、これ以上はもう何もでてこない。


「やっぱり、屋良さんに相談してみるしかないかな」


入部一ヶ月の新人が、向こうが誘ってきたことをいいここに、週二でいいですか?って聞くのか?


「きっつい」


ワガママを貫く事のリスクを、僕は今こうして実感している。

二兎追うものは一頭も得ず。

僕はまさに、これになろうとしている。


今日、覚悟という言葉を2つ聞いた。

こうして悩んでいると、覚悟という言葉がわからなくなってくる。


屋良さんに、今僕が置かれている状況を相談するって形にするのは、逃げなのだろうか?

相談している時点で許可を取ろうとしていないか?回りくどい言い方をしただけにならないか?


思いのほか疲労困憊していた僕は、答えが出ぬまま眠りについてしまっていた。

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